第4話 氷輪猛火の兄妹


ー森林ー


「また森かよ…もう見飽きたぜ…」

「もしかして、森林が世界の一部と一部を繋げているのでは?」

「それは一理あるな。てか8割合ってると思うぞ。」

となると、この世界はつぎはぎだらけということか。出来たばかりの世界だからそんなこともあるか。

キシキシ……

「物音…?誰かいるのか?」

俺達は音のする方向へ無我夢中で向かった。

「グジュル…グジャウ…」

「おい待て…何か嫌な予感がする…」

俺達の前にいるのはどう見ても人間じゃねぇ…だとしたら一体…!?

「グルァァァァァ!!!」

「ギャァァーーー!!化け物ーーー!!」

俺達が見たのは蜘蛛の化け物だった!?てかこの蜘蛛人間の倍以上のデカさじゃねぇか気持ち悪い!!

「なんで森にあんな化け物がいるんだよ!!」

「あの化け物…魔獣の感覚がありません!」

「魔獣じゃないんなら何なんだよあいつは!!あーもう!!今はとにかく走れ!!」

だけど蜘蛛の化け物は素早く追いかけてくる…戦うしかないのか…!?

ブシュッ!!

「ぐあっ!!」

「ラルス様!」

口から吐かれた糸の玉が俺の体に直撃し、木の幹に縛り付けられる。

「クソっ!ほどけねぇ…!」

もがいている内に蜘蛛の化け物はジリジリと距離を詰めてくる…

「クロウ!お前は逃げろ!」

「でもラルス様が…!!」

「俺がこの状況を何とかする!」

何とかするとは言ったものの、未だ糸は解かれるどころか身動き一つも出来ていない。どうすれば…!?

ジャキィン!!

「グジャァァァウ!!!」

「何だ!?」

森林に鳴り響く金属音…目を開けると俺の前にはセリドと同じくらいの歳であろう少女が立っていた。

「怪我はない?」

「お、おう…」

「あの…あなたは…」

「説明は後。今は下がって!」

和服と揺れる後ろ髪に、腰には二本の刀が差してある。その姿は可憐な女剣士そのものだ…

「蝶月輪…」

スッ…

「一刃!!」

シュバッ!!ガキィン!!

「グジュル…」

「二刃!!」

ザシュッ!!

速い…!剣技はセンと似たような居合い斬りだが、こいつは一撃が強いタイプだ…!

『そろそろ決めてこの人を助けないと!』

「えぇ、分かってるわ。」

…?こいつ誰と話してんだ?

「蝶月輪…」

スッ…バッ!!

「月花閃。」

カチャン。

「グジュ……ジュ…」

た、たった1回の一閃で倒しちまった…強いぞこいつ…

「ありがとう。助かっ…」

「グジャアァァァァウ!!」

「危ない!!後ろだ!!」

ガキィン!!

俺に付いた蜘蛛の糸を斬ろうとした途端にもう一体が背後から現れ出た。

「くっ…!」

咄嗟の出来事で防御態勢となってしまっている。このままでは彼女が…!

「クロウ!彼女を援護してくれ!」

「了解です!」

ドスッ!!

「ハァッ!!」

ドゴォ!!

クロウの蹴りによる横槍を入れたことで蜘蛛の化け物は彼女から離れた。

「はぁ…はぁ…」

「大丈夫ですか?」

「大丈夫よ…ちょっと力負けしただけだから。」

『でも次の攻撃が来るよ!態勢を直さないと!』

「そんなこと…言われなくても!」

まただ…一体こいつは何と喋っているんだ?

ボシュウ…ジャキィン!!

「グルァァァァァ…!!!」

「何だ!?」



「妹達に手を出すな…!!」



上空から飛来してきた「何か」に斬られ、しかも火だるまで絶命している…?

「炎の刀…!?」

火だるまの蜘蛛から出てきた男が手にしていたのは炎を纏った刀…しかも男は狐の面を着けている。

「その刀…もしかして…」

「あぁ…」

男は狐の面をゆっくり外して素顔を俺達に見せた…



「僕だよ。美子…玲子…」



「兄様!!」

そう言うと一目散に男に抱きついて行った…え、何?兄妹だったってこと?

「えーと…感動のところ申し訳ないけど…」

「あっ…」


ー数分後ー


「ふぃー!やっと拘束が解けたぜ!にしてもあの化け物追っかけるの速すぎだっての!」

「あれは妖怪「土蜘蛛(つちぐも)」だよ。その名の通り蜘蛛が巨大化した妖怪でね。」

「ヨウカイ…?やっぱり魔獣じゃなかったんだな…」

「魔獣?」

あーこれ面倒なパターンだ…

「あ、いやこっちの話!俺はラルス、横にいるのがクロウだ。」

「よろしくお願いします。」

「よろしく、ラルスさん。僕は兄の凛条秀次です。」

「私は凛条美子で、もう一人は凛条玲子です。」

「もう一人?誰もいないぞ?」

何か引っ掛かるんだよな…しかもさっきと表情が違うような気がするし…

「美子は私で今表に出ている人格です。玲子ちゃんはさっきの戦いで表に出ていた人格の子なんです。」

「つまるところ、妹はとある事情で生まれつき二重人格ということです。」

「なるほど…平常時と戦闘時で人格が変わるのか。その玲子ってやつとは話したり出来るのか?」

「はい。心の中で色々言ったりしてますよ。」

さっきから独り言を言ってるように見えたのは玲子がもう一人の人格である美子と話していたからか。

「二人は仲の良い兄妹なんだな。凄いよ。」

「ありがとうございます。でも実は…」

「ん?」

「本当なら兄は亡くなっているんです…ここに来てから急に亡くなった兄と再会して、さっきはつい…」

兄は亡くなっているのにこの世界で復活している…セリアと同じ現象か…?

「俺達もその現象には覚えがあるんだ。」

「そうなんですか…?」

「あぁ、俺達の場合は倒したはずの敵が復活していた。お前達もこれから行動するときには気を付けろよ。」

「分かりました。気を付けて行きます。」

マジであの野郎は何しでかすか分からねぇ…出来るだけ他の奴らにも忠告しなきゃな。

「すみません、ちょっと兄と二人だけにしてもらえますか?」

「構わない。周囲は俺達が見張っておくから。」

「ありがとうございます!ではお言葉に甘えて…」

亡くなった兄と再会したんだ。心行くまで話したいのも山々なんだろう。




お兄ちゃん、また会えて嬉しい…まさか会えると思ってなかったから…


僕もだよ。美子と玲子の成長した姿が見れて嬉しいから。妖怪退治屋はどう?


順調!でも玉に依頼来ない日もあるけど…


そういうところは昔と変わらないね。酒王さんと酒殿さんとは仲良くしてるかい?


うん、私達が寂しくならないように度々会いに来てくれるんだ。


そうか…それを聞いて安心したよ。


あとね、お兄ちゃんの刀…こうやって腰に差してあるんだ…


僕の猛火刀は二人が持っててくれたんだね。ありがとう。


以前に妖怪の女の子と戦った時に使ったんだよ。あの子の前ならお兄ちゃんの刀を使っても良いような気がしたから…


その妖怪の女の子って前に墓の前で言ってた子?


お兄ちゃん、聞こえてたの?


しっかり聞こえたよ。炎を使う妖怪なんだよね?今度、見てみたいな。


分かった!今度連れて来るから待っててね!


本当に元気なところはいつまでも変わらないな。


えへへ…お兄ちゃんにそう言われると嬉しい…


それに加えて随分と逞しくなったな…もう美子と玲子も17歳だからなぁ。


ねぇ…またいつかお兄ちゃんの刀を使うときが来たら、力を貸してくれる…?


あぁ…その時は僕も精一杯力を貸すよ。


ありがとう、お兄ちゃん…大好きだよ。


僕もだよ…美子、玲子。

続く。



次回のロスト・ジャッジメントは

「この子を守りながら戦うって私に出来るかな…?」

「私も付いてるから安心して。この子には指一本触れさせはしないから。」


「サファイア・ぺルビ、適当にサフィとでも呼んで。」


「あなた、何か昔の私にそっくりね。」

次回「Demon Lady」



緊急発表!!


「大正百鬼夜行」短編最新作が近日公開予定!!


タイトル

「大正百鬼夜行~遊女屋敷事件編~」


ーいざ行かん、妖怪屋敷の潜入へー

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