これって合意の上だよね?

「な、何よ……運転手さん……」


 女は明らかに狼狽えた様子だった。へへへ、女ってのはこんなもんよ。どんなにいきがっていても、この細腕じゃあ男の力には敵わない。二人きりになっちまえば、もうこっちのもんだ。たしか、メタボハゲはこいつのことをヒトミちゃんとか呼んでいたな。


「運転手じゃねえよ。俺の名前は佐藤健太。仲良くやろうじゃねえか、ヒトミちゃん」

「ヒトミちゃんですって……? ち、ちょっとあんた、客に対してそれはいくらなんでも馴れ馴れしすぎるんじゃないの? 会社に言いつけるよ!」

「できるもんならやってみな。携帯、繋がらねえんだろう?」


 ヒトミはスマホを取りだして、必死に画面をタップし始めた。しかし、残念ながら、やっぱりどこにも繋がらないようだ。そりゃあそうだ、ここはGPSも利かない異世界なんだからな。ヒトミがスマホをいじっている間、俺の視線は赤いワンピースの短いスカートから覗く柔らかそうな太ももに釘付けになっていた。


「あぁっ……もう……どうなってんの? どこなのよここは!」


 ヒトミは周囲を見渡しながらヒステリックな声を上げる。メタボハゲの前ではぶりっこな声を作っていたが、地声は意外とハスキーだ。だが、俺は妙ちきりんな萌えボイスの女より、こういう声の女のほうが好きなのだ。

 俺はもう一度ヒトミの腕をがっしりと掴む。セミロングの髪からは、香水の匂いとも微妙に違う、フローラル系のシャンプーの匂いがした。いいねえ、そそるねえ。


「ここがどこなのか、わかんねえだろ? 俺はその気になればあんたをここに置いていくことだってできる。こんな何もないところに放り出されて、あんた一人で生きていけると思うかい?」

「そ、そんな……」

「生きていけるわけねえよなあ、うんうん。それに、元の世界に戻るにはこの世界の出口を探さなきゃならねえ。俺のタクシーなしでその出口を探し回るなんて不可能だよなあ? それとも一人で歩いて帰るのか?」


 俺は元の世界に戻りたいなんて露ほども思っていなかったが、ヒトミの判断力を奪い俺に従わせるためには、これぐらいの嘘は必要だ。嘘も方便ってやつ。

 すっかり憔悴したヒトミは、力なく首を横に振るばかりだった。そうだよなあ、男にすがって生きてきた女は、いざとなると一人では何もできねえ。


「ヒトミちゃんが聞きわけのいい子で助かった……じゃあ、ちょいとそこの森の中でお話でもしようか?」


 俺は彼女の腕を引いて草むらを横切り、そのまま右手に広がる広葉樹林の繁みの中へとヒトミを連れ込んだ。何故車の中にしないかって? そりゃあもちろん、車を汚したくないからさ。

 繁みに入ってすぐに、俺はヒトミを押し倒した。ここまで来てほんとにお話なんかするバカはどこにもいねえよ。


 最近、一緒に飯食って酒飲んで酔っぱらってもそれは合意じゃねえとか寝言抜かしてる女がいるみたいだけどさ、そういう奴らは『暗黙の了解』って言葉を知らんのかね? まあ、世界中の男女が相手を誘うときに『今度お食事のあとにセックスしませんか』って言うようになったら、それはそれで面白い世の中になるだろうけどさww

 酒飲める歳になってもいちいち言葉による合意が必要だと思ってるんだったらかなりの世間知らずかおバカさんだと思うぜ。そういう奴らは、紛争地域でテロリストに捕まるジャーナリストに対して『自己責任』なんて言葉は間違っても使わないんだよね?

 えらいねえ立派だねえ。俺は遠慮なく酔い潰してヤっちまうけどね。似非フェミの奴らが『セカンドレイプ』とか言ってこの手の議論を封じてくれるお陰で、無防備な女が今後ますます増えるだろう。そうなったら、俺みたいな外道にとっちゃ願ったり叶ったり。過程はどうあれ入れちまえばこっちのもんだし、酔った状態で口先の合意なんて確かめようがない。言った言わないの話になると警察も介入できないんだからな。


 うおっと、話が明後日のほうに行っちまった。悪ぃ悪ぃ。俺とヒトミのスウィート・タイムに話を戻すぜ。


 ヒトミは全く抵抗しなかった。それなりに経験のある女なら、やることさえやらせておけばお互いにWin-Winな関係を築けるってことを知っている。

 きっとこれまでにも何人もの男と同じようなことをしてきたんだろう。俺は処女信仰とか全くねえし、むしろギャアギャア喚かない物分かりのいい女のほうが好きだ。これって合意の上だよな? な?


 いざ押し倒してみると、着やせするタイプなのか、見た目以上にグラマーなことがわかった。俺はもう体の一部がhot! hot! (このギャグ覚えてる人いる?)状態!


「い……ったい!」


 ヒトミが小さく悲鳴を上げた。強く押さえつけすぎたか。


「へへへ、すまねえすまねえ。優しくすっからよ……」


 自分でも気持ち悪くなるような猫なで声を出し、柔らかい太腿へと指を伸ばそうとしたその時。

 俺の腰の辺りで、カチャリと金属音がした。怪訝に思って見ると、こっそりと俺のズボンのポケットへと忍び込んだヒトミの手が、ポケットの中を漁っていることに気が付いた。ポケットの中には車のキーが入っている。車を奪って一人で逃げようって魂胆か!


「このアマ、なにしやがる!」


 俺はヒトミの手首を掴み、強く捻り上げた。


「痛い! 痛い! ご、ごめんなさい!!」


 ったく、油断も隙もない女だ。ヒトミは身を捩って呻いていた。その悶えるさまが、また俺の欲情をかき立てる。


「俺の言うことを聞かないとどうなるか、その体に教えこんでやるよ!」


 ヒトミの体をがっちりと抑え込み、さっきよりもドスの利いた声で脅す。今度こそ、女は無抵抗になった。へへへ、いよいよだ。


 しかし、下半身に血流と全神経が集中していた俺は、不覚にも、背後に近寄る気配に気付くことができなかった。ズボンのベルトに手をかけるのとほぼ同時に、首筋に冷たい感触を覚える。


「おい、男。そこで何をしている?」

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