第4話

「なるほど……ありがとうございました。毛利様。申し訳ありませんが、笹山様にお話と、当時の状況の説明をもう一度、車も含めていただくことは出来ますでしょうか?」

「ええ。いいわよ。でもあの殺人鬼が今ものうのうとうちの会社で働いているのが理解できないわ。あなた達もせいぜい殺されないように気を付ける事ね」


 そういうと絵梨花さんは会議室から足早に出ていってしまいました。残された僕たちは笹山さんが来る間に今の話の整理をすることにしました。


「どうでしょう……? 私は毛利夫人が怪しいと踏んでいるのですが、いかんせん証拠はありませんもので」

「ふん。お前のことだ。あの女が犯人なら保険金を一銭も払わなくていいと考えているだけだろうが」


「いえいえ。そんなことはありませんよ。第六感。私の第六感が毛利夫人がこの事件に関与していると言っているのです」

「まぁ、今話した感じ、まだ分からん。もし黒だとしたら大した女だ」


 僕は自分のためにメモしたものを頭に中で反芻はんすうしました。

 絵里香さんと浮気相手の横尾よこおさんが台北に旅行に出かけたのが7月25日の朝10時出発の便。それに間に合わせるため、二人はそれぞれ家を朝6時頃には出ていた。絵梨花さんつまり毛利夫妻の自宅はこの会社の裏手に地続きであり、横尾さんの自宅もここから徒歩7分という所だった。


 台北から帰ってきたのは7月27日の夕方8時頃、事件が発覚した時には空の上にいて連絡が付かなかった。空港に着いた絵梨花さんが着信に気付き掛け直したところ、毛利社長の死を知ることとなった。

 警察と轟さんの会社がすでに航空会社に連絡を取り、二人が確かにその時刻の往復の飛行機に乗っていたのは確認済み。


「うーん。轟さん。絵里香さんも横尾さんもアリバイがしっかりしていて、どんなに怪しくても、現実的に毛利社長を殺すのは無理ですよね?」

「そんなことより轟、死亡推定時刻はどうやって決まったんだ?」


「胃の中の状態、睡眠薬の血中濃度、膀胱の中身からおそらく夕方ご飯を食べ、睡眠薬を飲んだあと数時間ほどで凍死していたと考えられました。さらに冷蔵車ということで腐敗はほとんど進んでなかったので、正確な時刻は分かりませんが、事件が起こった冷蔵車の荷台の中に出発の1時間前に確認した時には姿がなかったこと、外傷はなく死因は凍死で間違いないということで、お伝えした時刻になったようです」


 僕はその内容もせっせとメモに取ります。こういう話を全て覚えてられる先生の頭は本当にすごいと思います。何故その能力が普段の生活に生かせないのでしょうか?

 先生は本当によくものの置いた場所を忘れるので、適当に置いた大事なものは全て僕がすぐに定位置に戻します。それでも「無いぞ。どこいった!?」という先生の気がしれません。

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