第14話 幼馴染の雨の日

「雨だな」

「雨だね」

「ものすごい大雨だな」

「ものすごい大雨だね」

ドドドドという雨音を聴きながら、当たり前の事をただ口にする。

そしてその言葉を繰り返す流季。

「……それで、何でお前はここにいる?」

「来ちゃった」

「なんでこの雨の中を来るんだよ……」

いくら家が隣だからといっても、こんな大雨なら外に出ようという気すら起こらないだろうに……。

「案の定帰れなくなりました」

「だろうな」

テレビを見れば大雨警報やら洪水警報やら、とにかくやたらと警報が出されている。

いくら隣とはいえ、確かに家の外に出るのは控えた方がいいだろう。

「だって来るときはまだちょっとした大雨くらいだったし……」

何だよちょっとした大雨って……。

「その時点で引き返すという選択肢は無かったのか」

「無かったのだ」

無かったのか……。

ソファでだらけながらきっぱり言う……という実に器用なことをする流季。

「ちゃんと目的があって来たの」

「ほえー」

気の抜けた返事をする。

「というわけで借りてた本を返しに来ました」

「また勝手に持って行ってたのか……」

借りるのは別にいい。

けれど、さすがに何を借りたかは言ってほしい。

危うくもう一冊買い直す所だった事も今までに何度かあった。

「それで?本は?」

「家に忘れて来ました」

宿題をやってなかった言い訳じゃないんだから……。

というか分かってた。

だって来た時手ぶらだったし。

むしろ本を返しに来たと聞いた時の方が驚いた。

「お約束のやつだよね」

「うん、それは絶対にるぅのセリフじゃない」

てへっ?っと舌を出しながら笑って……いるわけではないけれど、セリフは完全にそれだった。

まぁ、本を借りてたことをわざわざ言ったということは、後でちゃんと本を返しに来るということなのだろう。

「雨止まないねー」

「あー、そうだな」

雨戸を閉めているため、音でしか判断できないのだが、それでもやはりさっきからドドドドという雨音が続いている。

「てるてる坊主作ろうか」

「なんでそうなる」

てるてる坊主とか小学生以来だろ。

遠足とか運動会とかの前日に。

「暇でしょー」

「作り方なんて覚えてねぇ……」

「あ、もしかしてこのまま帰って欲しくないとか」

「さて、作り方調べるか」

「えー、ひどーい」

えらく棒読みの流季をほっといてスマホを見る。

……ふむ。

「見つけたー?」

「あー、うーん」

「見せて見せて」

そう言ってスマホを取った流季。

お前も知らないのかよ。

結局一つずつ作ることに。

「できた」

「こんなもんか」

早速吊るしてみる。

………


「雨だな」

「雨だね」

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