ショート.ショート.O.O.ショート.ショート.

革ズィマ・君・佳昌

神の再発見がなかったら

 21c頃に起こった主観的シンギラリティ以降、AIによりそれぞれに最適化された行動を徹底することで各人にとって最適化された人生を歩むことが可能となった。誰もが最高と疑わないAIによって最適化が漸次的に進んだ。一例として、全てが最適化されつつある筈の社会に最適化できない―全て最適化されつつあるにも拘らず主観的に困った状況だと最適化された選択肢を取らない―新たな障害者問題も、レッドピルとブルーピルという新薬によって解消された。ブルーピルを飲めば迷うことなく最適化された行動ができ、レッドピルを飲めば最適化された夢を見て生涯を終えることができる。


 それからもAIとAIに従う人類の最適化は進み、太陽が爆発した後も最適化は進んだ。全てが最適化されたω-1年、ある最適な宇宙船の最適な乗組員の生存が人類存亡についての結果と等しくなった。

 年の暮れ、人類存亡に関して最適な手段がいつも通りに示された。

「ブラックホールを回避するためにAI稼動用電源も含めた全てのリソースを推進力として使うべし。」

 船長は、自身に最適化された歴史エンタメで、2000年ごろまでの人間はAIに頼らず相互の考えを寄り合わせて行動を決めることによってあらゆる問題に対処していたことを学んでいた。最適な未来の実現のために最適なコードが入力された。

「今、AIの電源を落とした。AIに頼ることなく各人で協力して困難を脱しよう。」

 彼/女に最適化された言語で叫んだが、誰も彼/女の言語を理解できなかった。


 電源が落ちた時点で最適だった行動を終えた乗組員は皆困った。何人かはブルーピルを飲んだ。各人が自分の生存のために争ったり見てみぬ振りをした。何人かは死んだ。クリスマスイヴにAIを復活させた者がいたために、クリスマスにはパーティーが行われた。パーティーの終わりにAIは最後の最適な答えとして次のように仰った。

「各人が最も望むことをせよ。」

 それから大晦日まで、最終戦争として愚かな強者同士が―私達の知る古い歴史にあるように―争った。最終的に一人を残した皆がそれぞれの最適な終焉を求めてレッドピルを飲んだ。最も強い大男が「AIがあれば孤独にならずに済んだ」と叫んだところで宇宙船は事象の地平面に飲まれ、人間の歴史は愚かな悲劇として永遠となった。


出典:祝3rdミレニアム~爆笑必死!歴史のIFショートショート集~

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