女体化した勇者と魔王が一緒に旅する様になった理由
カイト
第1話 嘘だろ...
ついに来たか...。
金髪の勇者は呼吸を整えてそこに入る。
魔王城謁見の間。
暗くてよく見えないが奥に佇む奴の姿ははっきりと見える。
黒い鎧に身を包み込み、兜の隙間から銀色の髪がなびいていて、おぞましい雰囲気を感じる。
間違いない、奴が魔王だ。
俺が話しかけない限り奴は動かないだろう。
俺はこの日のために用意して来た伝説の剣をここで装備する。
伝説の剣を装備しながら奴の方を見る。
ここからでも恐ろしさがはっきりと伝わってくる。
冷や汗を流しながら緊張感を得る。
伝説の剣を引き抜き奴に話しかける。
「魔王!、ついにここまで来てやったぞ!」
俺は叫び、戦闘態勢に入ると魔王も重い腰を上げてこう言ってくる。
「ふはははは、勇者共よ、ここがお前らの墓場となることも知らずにのこのこやってくるとは...」
魔王は俺の方を向きキョロキョロし始めた。
どうしたのか気になったので聞く。
「どうした魔王!」
魔王は答える。
「いや、勇者って言ったらパーティ組んでくるのが最近の流行だろう、お前は1人しかいないのか?」
痛いところをついてくる。
「俺は1人だ!、仲間募ったけど1人も来なかったから仕方なく序盤の町から終盤の魔王城まで1人で来たんだよ!」
そう、俺は序盤から終盤まで1人で冒険して来た。
それを聞いた魔王はプッと吹き出して腹を抱えて笑いだす。
「ぼぼぼっちの勇者ww、今時1人パーティなんてどこの国産RPGですかね〜ww、勇者様ぼっちクリぼっちww」
「クリスマスは俺だって彼女と過ごしたかったはボケがー!」
勇者は魔王の強力な言動に翻弄されている。
「つかお前、魔王のくせに言ってくることがいちいち小物くせーんだよ!、ラスボスらしく黙って勇者とラストバトルしてろよ!」
「ラスボスしてます〜、ぼっち勇者様が余の言動に惑わされてるだけです〜w」
魔王のふざけた態度と言動に勇者の怒りが頂点に達する。
「なら、これを受けて見るんだな!伝説の剣チョンチョンを!」
凄まじい切れ味を誇る伝説の剣を掲げて魔王の方に向けるが、魔王の腹筋は崩壊していた。
「伝説の剣チョンチョンww!!、もうちょいまともな名前はなかったんですか〜w」
勇者は赤面しながら剣を上下に振る。
「仕方ないだろ!、伝説の鍛冶屋のネーミングセンスがなさすぎるのがいけないんだ!」
伝説の剣の名前のダサさを一番知っているのは勇者自身だろう。
どれだけ強くカッコいい武器だろうが、名前がダサければ恥ずかしいのだ。
顔を真っ赤にしながら剣を振ると次元を切り裂くような衝撃波が飛び交う。
魔王は突然のことにびっくりして尻餅をついたのでたまたまそれを躱す。
衝撃波が魔王の座っていた玉座にあたると次元ごと切り裂いて消えた。
(チョンチョンこえぇぇ!)
魔王はチョンチョンの斬れ味を身をもって知った。
「行くぞ!」
勇者が声を上げて第二撃を放とうと構えると、魔王は慌てふためいてそれを止める。
「待て!」
「なんで待たないといけないんだ?」
勇者は不満そうな素振りを見せる。
「いや、次元を斬り裂く剣とか反則!、それで死んだら余の屍が残らんから他のにして!」
「なんて情けない魔王だ...、こっちが手加減して何かメリットがあるのか?」
魔王は必死に考えている、もしこのまま戦えば次元の彼方へ消え去ることになるだろう。
それだけは避けたい。
「えっと...、この戦いが終わった後に余から金せびれるよ...?」
「せびるか!」
交渉は速攻で決裂する。
「だいたい俺は今まで命がけでここまでやって来たんだ、それを少々のお金くらいで....」
「今なら空いた四天王の一角にして、週休3日制にしてあげてもいいよ」
魔王の甘い声に少しつられそうになるが耐える。
「週休3日制は魅力的だが、それくらいで俺の意思は揺るがん!」
キリッとした目つきで魔王を睨みつける勇者。
「なら週休3日制のまま年3回のボーナス付きで有給40日ならどう?」
かなりの好待遇に勇者はチョンチョンを投げ捨てた。
「え〜、しょうがないな〜、手がだるいから素手で相手してやるか〜」
あっさりと聖剣を投げ捨てて金に目が眩んだ表情を見せている。
(チョロイなこいつ....)
お互いにお互いをチョロいと思っている。
勇者と魔王は素手で向かい合う。
「行くぞ!魔王!」
「こい!勇者よ!」
2人は取っ組み合いをするようにお互いの手を取り合う。
力と力の押し合いだ。
あれ?魔王押されてね?。
「何故だ!、何故余の方が押される!、貴様ほんとうに人間か!?」
「ふっ、この日のために2年かけてレベルをMAXにして、その上に基礎補正値を上げる種を食いまくったからな!」
基礎補正値を上げる種とは、とある魔物が超低確率で落とすことがある種である。
その効力とはただ基礎ステータスが1上がるだけである。
1とはいえ基礎能力が上がるので希少性は高いが集めるのに時間がかかる上に上がり幅は1で確定しているので集める変人はいない。
「その力....、10個や20個じゃないだろ!何個食いやがった!」
「聞いて驚くな...、100個だ!、俺のステータスはレベルMAX時より100ポイント全て上乗せされているんだぜ!、これが無意味に2年間狩り続けた結果だ!」
正直ただの廃人である。
そんな時間があるならさっさと魔王を倒しに来ればよかったのだ。
そのことに勇者は気づいていない。
だがこれには魔王も参った。
(これは勝てんぞ...、武器も使っていない勇者に負けるなど魔王の恥...、あれを使うか...)
魔王は一度勇者との距離を開けて手を広げる。
「勇者よ!我が必殺の一撃受けてみよ!」
魔王は勇者に向けて光線を放つ。
「奥義!、デススザク!」
黒い火炎が鳥の形を型取り膨張して行く。
「ラスボスらしい技持ってるじゃねぇか...、だがな、俺だってそれぐらい習得している!」
「秘技!......名前なんてねーよ!」
勇者はただの拳でデススザクを打ち破る。
奥義が敗れた魔王は驚いた目で勇者を見ている。
「これで終わりか?魔王よ...」
勇者は威圧しながら魔王に近づいて行く。
(この男強すぎる...、だがそれは男だからだろう...、ならばこれを喰らわせてやるまで)
「転換魔法!イレカエール!」
勇者の体は虹色に光り輝き一瞬見えなくなる。
次に姿が見えた時には勇者は女の子になっていた。
「な!?」
勇者は驚きふためいた顔で魔王を見る。
勇者の驚きように魔王は高笑いを上げる。
「ふははは!、勇者よ!声も出ないか!、これぞ我が究極魔法、転換イレカエールだ!、もはや女になった貴様にさっきまでのような力はないぞ!」
「誰だ?お前?」
魔王は急な勇者の冷めた態度に不満そうな顔をする。
「誰だって...、余は魔王だけど....」
勇者の冷めた態度の理由に気がついた。
「余も女の子になってる〜!!?」
魔王の鎧がどんどん剥がれてあられもない姿が浮かび上がる。
勇者は目を背けて早く服を着ろと言う。
勇者は元の服のままでも大丈夫な様だが、魔王は明らかに身長が縮んでいて服がダボダボなので裸になっているのだ。
「勇者よ!、余のこんな姿みるでないぞ!」
「うるせー!、見たくて見てるわけじゃないから早く服を着ろ!」
勇者が目を背けているのでチャンスと思いある魔法をかける。
「チャンスだ!、くらえ勇者よ!レベルサガ〜ル」
勇者は目を背けていたのでそれをまともに受ける。
「ぐっ、何をした!」
勇者は呻き声を上げながら魔王を睨む。
「ふはははは!、貴様のレベルを1にした!、もはや余には敵わないな!」
勇者はステータス画面を開いて確認すると、確かにレベルが1になっている。
「まじかよ...、俺の2年間を返せ!」
「残念ながら戻す方法はない!、またレベル1からやり直せ」
魔王は高笑いをしてる途中にくしゃみをしてしまい詠唱を間違える。
「あっ」
気づいた時にはもう遅かった、魔王は自分にもレベルサガ〜ルをかけたのだ。
「しまったぁぁぁ〜!、これでは余もレベルが1にぃぃぃ〜!」
頭を抱えて本気で悩んでいる。
イライラした勇者が魔王に蹴りを入れる。
「早く元に戻せ...、さもなくばすりつぶす...」
美しい金髪の女性なのに言動がきつい。
「だから無理だって!」
幼い白髪の少女だが中身が魔王だ。
「嘘だろ...」
本当に無理なことに勇者が気がつくと2人とも絶望していた。
互いにレベルが1になり性転換までしてしまった。
それに2人とももはや同一人物とは言いがたいほど見た目が変わっている。
特に魔王は原型をとどめていない。
ただの白髪の少女にしか見えない上にレベルが1なのがそれに拍手をかけている。
2人の言い合いはしばらく続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます