第21話 <幕間>顔ば赤うしてから……。

 家に帰りつくと、あたしはいよいよ今日のことを思い出して、顔ばあこうしはじめた。




「……あたし、デートの約束ばしてしもうたっ……」




 間違いない。




 今度の土曜日。




 つまりあした。




 あたしは、ゲームの攻略本を買うために、山田くんと秋葉原に行く。




 もちろん、ふたりきりで。




「ど――どどど、どげんしよっ!? あああ、男子と遊びに行くなんか初めてやし、どうしたらいいか分からんっ! えっと、な、なに着ていこ!? 服は、山田くん、どういうのが好みやろか? お、お化粧とかしていかないかんのかな? でもあたしメイクなんかしたことないし!!」




 部屋の中をひっかき回す。なんかメイクに使えるもんないかいな!?




 10分後。




 薬用のリップクリームだけが見つかった。




 冬にくちびるが乾いたときに塗るやつやん!




「どう見てもお化粧用じゃなかろうもん、こんなもん!」




 泣けてくる。




 もう外は暗かったし。




 買い物もできそうにないし!




「あああ、やらかしてしもうた……。学校帰りになんかうてきたらよかった……! 思い出せば思い出すほど今日のあたしはいかん。クラスのみんなの前でもしくじりかけとるし。博多弁うっかり出しかけとるやん……」




 だけど。




 今日、失敗しかけたあたしをかばってくれたのは、やっぱり山田くんやった。




 博多弁をちょいちょい口走りよったあたしを、山田くんはフォローしてくれて。




 やっぱり山田くん、優しい。頼りになる。……大好き……。




 知れば知るほど、親しくなればなるほどに、山田くんの、よかところだけ見えてくる。




 そら、あかりちゃんも石川さんも近づいてくるよね。




「……はあ……」




 ため息と共に、部屋の隅っこにあるテレビ。




 その前にあるゲーム機と『スクメモ』のソフトを見つめる。




『スクメモ』は面白かった。まだ途中までしかやっとらんけれど、話にぐいぐい引き込まれた。




 それに出てくる女の子たちも、みんな可愛かった。




 例の、山田くんの奥さん――日野ヒカリも。




 けなげで優しくて明るくて、魅力的やった。




 病気をもった身体でありながら、性格も優しくて勉強もできて、画家という夢に向かって頑張るヒカリちゃん。




 それに比べてあたしなんか……ううう~~~~~!




「栄養なんか考えんでとんこつラーメンばっかりバカ食いしよるし、それにときどきライスと餃子ぎょうざまでつけるし、性格だって二面性全開やし、勉強だって最近は授業中、山田くんの顔ばっかりチラ見しよるけん身が入っとらんし、おまけに夢は博多の冷泉公園で行われる『オリパラ見聞録』の収録で西藤さいとうさんに声をかけられることやし……」




 ちなみに『オリパラ見聞録』っていうのは福岡ローカルの旅番組ばい。西藤さいとうさんはその出演者のひとり。




 DVDとか売れよるから、最近は東京でもイベントが開催されて知名度が全国区になっとるけど。




 って、そうやなくて。……あああ、もう脳細胞の隅から隅までとんこつと福岡尽くしやん!




 こんなんで、山田くんを振り向かせるなんて、できるとかいな?




 あしたのデートは、なんとかなるとかいな?




 ライバルもおるんやから、全力で頑張らないかんとに。




 あーもう! 三次元のほうには敵なんか、おらんと思いよったとにから!




「……山田くん……」




 名前をつぶやく。




「……あしたのデート……あたし、初めてやけん……。どんなヘマをしても、笑わんでね……?」




 ちょっぴり涙目になりながら、あたしはさっき散らかした部屋の中を片付けようとゆっくりと立ち上がって、だけどひとつだけ心に決めたことがあった。




 あしたのデート。一番可愛い服と、――可愛い下着にしていこ。




 ほらほら、だってだってだって! ……どんな事故があるか、分からんやん?




 わかっとるけど、99%ありえないってわかっとるけど!!




 ……1%があったら、困るやん?




 やけん……。




 ……山田くん。




 ………………。




 ……好いとうよ?






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