第47話 腹黒天使はしゅんとする
体育館で始業式が始まり、その後教室での授業が滞りなく終了する。そして昼休みに突入。私とりっちゃんは夏休みが終わって穏やかになったぽかぽか陽射しに見守られながら、いつものベンチでお弁当を食べていた。
もぐもぐもぐもぐ……! しっかりと噛まないとねぇ……っ!
「あれ風花。いつもよりお弁当のおかず少なめじゃない?」
「う、うん。寝坊しちゃったからすこーしだけ時間が無くってぇ……」
ごめんねりっちゃん。寝坊したのは本当だけど、それはお弁当のおかずが少ない理由にはならないんだよぉ。そもそも私、弁当のおかずは前日に作り置きする派だしぃ。その方が楽だしねぇ?
……あ、因みに前に来人くんにお弁当を持って行ったおかずは、もちろん早起きして全部当日に作ったものなんだよぉ? お弁当を食べた来人くんが、どんな表情を浮かべたり感想を言ってくれるのか楽しみで楽しみで、それを想像しながら調理するだけでもう捗る捗るぅ!
ってそれは置いておいてぇ、寝坊しちゃった理由なんだけどぉ……。
「今日からまた来人くんと高校生活を一緒に過ごせると思うと、楽しみで眠れなかったんだぁ……!」
「乙女か」
「乙女だよぉ?」
恋する、ねぇ?
「……あっ、そういえば来人くん、今日の朝学校に登校してるとき酷いこと言ってたんだよぉ?」
「あの性格的に人畜無害そうな彼が? うーん、まだ風花の腹黒さを知らない阿久津クンが、正直そんなこと言うなんて考えられないのだけれど……? あ、もしかして風花が話しかける前?」
「確かにそうなんだけど話の途中でさらっと私をディスるのはやめて欲しいなぁ、りっちゃん?」
「母親と子供、家族水入らずの旅行でテンションが上がるのは分かるけど、深夜にぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽん写真送ってきたのは忘れてないわよ……!」
「あれはごめんなさぁい……」
当時の事を思い出しながら目線を下にさげてしょんぼりする。
りっちゃんとの買い物のとき、集合するなりしこたま言われて反省してるんだよぉ? 寝不足にさせちゃってごめんねぇ?
泊まったホテルの装飾とかご馳走とかそこから眺められる夜景とかぁ、久しぶりにあんなの見たら少しテンションが上がっちゃったんだよぉ……。
……あとぉ、もし一緒に来人くんもここに居たら、とかねぇ? きゃぁ……っ(モジモジ)!
と内心では実は表情とは180度異なり浮かれたことを考えていたら、隣に座るりっちゃんはそれに気付くことなく言葉を発した。
「まぁお昼奢って貰ったから許してるんだけどね。……で? 阿久津クンが言ってたっていうその酷いことってなに?」
「あっ、そうそう聞いてよぉ! 『高校の夏休みなら青春的な……しいて言えば女の子との出会いが欲しかった……』って言ってたんだよぉ!」
「至って健全な男子高校生的な発言じゃない。それのどこが酷いことなのよ」
「むぅ、他の女の子にとってはそう聞こえるかもしれないけどぉ……! 来人くんを見続けてきた、他でもない私にとっては酷いことなのぉ!」
「……はぁ、どうしてよ?」
「だって教室とか登下校とかほとんど私と一緒にいたりぃ、しかも放課後に出掛けたりテスト前には図書館に二人でぇ! 一緒にぃ! 行ったりしたのにそういうことを言うってことはさぁ。……私のこと、異性として意識してないってことじゃぁん? だからぁ、わざと冷たい態度とっちゃったんだよねぇ……」
膝の上にお弁当を乗っけながら
『べっつにぃー』とか『つぅーんっ』っていう言葉と、目を細めながら頬を膨らませた表情で怒ってるんだよぉ? ってことを表現したんだけど……来人くんにちゃんと伝わったかなぁ? 来人くんには私だけを見て欲しいのに、あれ実は結構ショックだったんだよねぇ。
だってぇ―――まだまだ私の存在が刻み足りないってことなんだからさぁ?
「……まぁそのおかげかぁ、私の水着姿を見たいとかぁ、一緒に出掛けたかったって言ってくれたんだけどねぇ!」
「それってただ機嫌を取ろうとしてただけなんじゃないかしら……」
「それはそうかもねぇ。でもでも実際に
「こっわ、やっぱり油断も隙も無いわね!?」
りっちゃんは一歩引いたような引き攣った表情をしてるけどぉ、些細なきっかけやチャンスを逃したらもう手遅れなときもあるんだからねぇ?
それにしても、わざとあんな冷たい態度をしてる間、来人くんがどんどん話し掛けてきてすっごく嬉しかったけどすこーしだけ罪悪感……。
………はぁー。もっともーっとぉ、彼の前では素直になりたいなぁ。
日頃の悩みに溜息を吐いていると、ふと思いついたようにりっちゃんは私へと視線を向けながら声をあげた。
「そういえば水着は着ないの? 阿久津クンに風花の悩殺ポーズを見せ付ければイチコロだと思うんだけど」
「………ッ」
じっと見てくるりっちゃんから目を逸らしながらお弁当を箸でつつく。
い、痛いところを突いてきたねぇ、りっちゃん……(ごごごっ)!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます