第19話 天使と保健室に行こう 1
そうして無事高校に着いた僕たちは現在保健室へと向かっていた。一瞬だけ痛みが全くない事を伝えてそのまま教室へと向かう事も考えたが、流石にせっかく僕を心配してくれている風花さんの好意を
もしそうしていたら、きっと教室にて風花さんからゆるふわ笑顔で無言の圧力が掛けられていたことだろう。
うわぁ、想像しただけでも罪悪感に押しつぶされる……。肩身の狭い思いしなくて良かったぁ……!!
瞬時にその考えをゴミ箱に投げ捨てた僕グッジョブ!
僕たちは昇降口前の廊下を歩いている。柱の角を左に曲がるとすぐ近くに保健室があり、入室しようと扉に手を掛けたが開かない。どうやら鍵が掛かっているみたいだ。
んぅ、と眉を
……まぁ先生がいない以上手当て出来ないしねぇ。仕方ないんじゃないかな。僕の顔の見た目はともかく、痛みも風花さんの気遣いのおかげでもうほとんど引いた状態だし……うん、大丈夫だと思うよ?
彼女は大して間を空けずに、ゆったりと言葉を続けた。
「あいてないねぇ……先生まだ学校に来てないのかなぁ? この時間ならもう居てもおかしくはないんだけどぉ」
「もしかして先に職員室に向かったのかな? うーん……なんか来る気配が無いし、やっぱりこのまま教室に行かない? もうだいぶ痛くないよ?」
「ダメぇ。………うん、ちょっと職員室に行ってくるからここで待っててねぇ! あぁ、言っておくけどぉ、その間に教室とか勝手に行ったらぁ、さっき言ったように是が非でも腕を絡めて強引に連れてくからねぇ?」
「おとなしく待ってます」
はっきりとした僕の返事に対しにへらっと笑みを浮かべると、彼女は僕らが歩いてきた廊下を再度ぱたぱたと戻って行った。急いでいるとはいえ他の生徒にぶつかるリスクを減らす為に廊下を走らずに急ぎめの早歩き、さすが『天使』だね。
姉と違って本質的な思い遣りが違う。……うん? 今のは天使関係ない?
ちっちっち、風花さんの可愛さや気遣いを内心で褒め称えるときは『天使』というその言葉以外なにも必要ないんだぜ。風花さんと最近話したばかりの僕でもその真理に到達したよ。
今の僕の気分は、ご主人様である『天使』の帰りを大人しく待つ忠犬ライト。廊下の壁端で
早く来てくれないかな。ハッハッハッ(犬の呼吸)。
しばらくぼーっと窓から覗く木々の葉を見ながら待っていると鍵を手に持った風花さんが戻ってきた。……あれ、先生はまだ来てなかったのかな? なんだかさっき以上に機嫌が良さげな気がするんだけど。
目の前の風花さんの浮かれ気味な様子に対し僕は不思議に思うが、それを口に出す前に彼女は言葉を紡いだ。
「お待たせ来人くん。霧山せんせぇ、なんか風邪ひいたみたいで今日はお休みなんだってぇ。だから鍵だけ貰ってきたよぉ」
「え、他の先生は………」
と風花さんに言い掛けて思い留まる。彼女は今の言葉が聞こえていなかったのか、鍵穴に鍵を差し込んでがちゃがちゃしていた。
因みに霧山先生とは女性養護教諭でボン・キュッ・ボンなグラマラスぼでぇ(なまり)を持った雰囲気妖艶な二十代の若い先生である。外見以外詳しくは知らぬ。
もしラノベに出てくる高校内の女性の情報をすべて把握している友人キャラが居たのならば基本情報などすべて教えてくれていたのだろうけど、残念ながらそんな友人は僕にはいない。
あれ、自分で話を振っておきながら目から汗が出てきたぞぅ………!
まぁ話を戻すね。
僕もしかして、ガチの体調不良ならともかく、こんな顔に青痣が出来た程度なら先生の手なんて借りなくても処置できるよねって判断されたのかな! 教師陣に信用されているとはいえわざわざ僕の為にごめんね風花さん!
まぁ先生が来ない理由が気になる所だけれども、話さない辺り風花さんの思い遣りだろう。
一瞬悲しくなった僕だけど、よくよく考えてみれば『天使』なゆるふわ系美少女に手当てして貰えるって考えたらご褒美でした(けろり)。
そう僕が考えていると、
うん、僕の曇りなき瞳には今の風花さんが一仕事終えた鍵師に見えるね。さぁ風花さん、このまま続いて僕の閉ざされた心の扉も開錠してっ! ……ノリとはいえ何ほざいてんだ僕。さすがに安直過ぎキモいよ死ねよ僕(自己罵倒)。
ご褒美を思い至った件で内心くだらない事を考えてふざけていると、風花さんは安心したかのように息を吐きながら声をあげた。
「あぁ! あいたあいたぁ、来人くんはベッド座っててねぇ。それとも横になって休んでるぅ?」
「あはは、体調が悪い訳じゃないから座ってるよ。そういえば風花さんって、保健室のどこに何が置いてあるのか分かるの?」
「ふふぅん、私を舐めないでほしいなぁ来人くん。それはとっくに先生にリサーチ済みだよぉ!」
「リサーチ」
僕と風花さんは保健室に入室しながら会話する。部屋の端に処置台と真ん中辺りに数人座れるほどの丸テーブルと椅子があったが、風花さんに言われた通りベッドに座ったよ。座り心地的にね。
なんていうかこう、座るだけとはいえベッドの皺一つないシーツに座ったり横になったりするのって不思議と背徳感があるよねー。ふっかふか。
僕は座りながら『んしょ、と……これだぁ!』と棚を物色している風花さんを見遣る。
リサーチという言葉に偽りは無く、湿布やら包帯やら消毒液やらガーゼやら綿棒やら絆創膏やらを淀みなく準備して………って多いね風花さん! せいぜい痣が出来てる程度だぜ!? 僕をミイラにでもするつもりなのかな?
まぁ風花さんに防腐加工されるのなら本望ですけどねっ(キリッ)!
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