独り言

藤原琉堵

一言目

帰るのが勿体無い、不意にそう思った。


休憩がてら立ち寄ったコンビニの駐車場で、意味もなく開いていた携帯を閉じると、車のエンジンをかけた。

日が傾き始めた冬の午後は、どこか微睡み、寂しさが漂っている。


日差しはあるが、車内は冷え切っていた。暖房をかけ、いつものように音楽を流す。静かな車内に響く歌声は、聴く人の居ない客席に向けて歌われているようだ。

暫くして、夕闇が辺りを照らし出す。見慣れた道が、どこか異国の地の、見知らぬ町のように見える。


気付けば、海へと向かう道を走っていた。海に呼ばれているのではないかと思う。

此処に来れば、このどうしようもない喪失感や孤独感も、その青と一緒に、水平線の彼方へと消えていくと、そんな幻想を常に夢見ている。何処にでも行けるような、そんな錯覚さえ覚える。


自由とは、何なのだろうか。そんな事をよく考える。

何処にでも行ける事は、何処にも行けない事と一緒なのかもしれない。

自由と不自由は、同一のものなのかもしれない。そんな事に、いつも辿り着く。

自由とは、一番の囚われの身である。いつだったか、誰かが言っていた言葉を思い出した。


思考を瞑想している内に、辺りはすっかり暗くなっていた。遠くに灯る街の明かりが、冬の夜の空気の中で、ちらちらと光っている。

ふと気付けば、空は灰色の雲に覆われ、雨が降り出していた。冬の雨は冷たく、夜の街を濡らしていく。

不意に、フロントガラスを叩く雨粒が変わった。いつしか雨は、暗闇の中で舞い散る、白い雪へと変わっていた。

音もなく降りしきる雪は、この夜の闇で一人、去年の懺悔を数え始めた私を、静かに隠していくようだった。

そんな事を思いながら、今年初の雪の中を、どこに向かうでもなく、走り続けた。

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