夏休み最期の花火大会は結構楽しかったよ

 さて、高校生クイズの放送でなにか変わったかと言うと、とりあえずは何も変わってない。


「まあ、うるさくなるよりはいいか」


「ああ、そう言えばクニマスに関して漫画家の矢口渡さんというから取材申し込みがありましたわ」


「え、釣りキチガイサンペーの矢口渡先生から?」


「そのあたりはよく知りませんがおそらくそうかと」


「あ、じゃあ受けようぜ。

 うまく行けば週刊少年マガズンの漫画に載せてもらえるかもしれないぜ」


「なるほど、それはいいですわね」


「それから谷津遊園で出す酒に関して、大手メーカーからも扱ってくれないかと多い申し込みが来ています」


「それは上杉先生に試飲してもらって、受ける受けないは決めればいいんじゃないかな」


「ああ、それは全然構わんぞ。

 糞不味い酒を持ってきたメーカーはこき下ろしてやる」


 この時代はまだ戦後間もない頃に米が不足していたことから、醸造アルコールを使って酒を3倍に薄め・水あめやカラメル、乳酸などの酸味料や、味の素のようなグルタミン酸ソーダを大量にぶちこんだ三倍醸造清酒がまだまだ幅を利かせていた。


 本来は戦時中の米の消費を減らすために仕方なしで造られた酒だったが、飲む酒の中心がビールやウイスキーではなく日本酒で、酒造メーカーは醸造アルコールを大量に加え、薄くてまずい酒を金儲けのために売り、国税はそれで税金をがっぽり得ていた。


 そして酒税の関係から国税局は沢山税金を払える大手メーカー製のまずい酒を特級や一級酒、アルコール添加酒とブレンドして、大量に安価で売るワンカップなどは二級酒としたが、規模が小さくて税金があまり払えない地酒のように小さな蔵元の酒もうまくても二級酒となり特級や一級ならうまいと思って飲んだら、実際はベタベタするし臭いしクソまずかったということになったわけだ。


 戦後の食糧不足の時期に、年間400万トンもの米を消費していた清酒の原料を米以外のものに切り換えるべきだと考えて実行する人が出るのも仕方ないのでもあるんだけど、税金が理由で味と関係なくクラス分けをした国税庁もアホだ。


 海外からウィスキーやワインなどの酒を輸入するような圧力もあったかもしれないけど、おそらくそっちはメインの理由じゃない。


 無論純米酒よりも腐りにくく、年に何回でも仕込みが可能で、従来の酒造設備がそのまま活用でき、しかも安くできるなどというメリットの多さから、どこもかしこもそればかりになったわけだ。



 ”前”では料理漫画の『うまいんぼ』でも日本酒のまずさを痛烈に批判していたはずだな。


 1970年代後半からは地酒ブームが起きて、個人で飲んでいる酒好きにはメーカー製の日本酒が敬遠され始め、イタ飯ブームとともにボジョレヌーボーをマスコミが猛プッシュし、おしゃれなカクテルも流行り始めると、日本酒離れがどんどん進んでいったわけだ。


 そしてバブル崩壊で団体旅行が激減すると個人客が主流になって日本酒の売り上げは激減したことから、その後は必死にイメージ回復に取り組んだけど日本酒はまずいというイメージがこびりついていてもう遅かった。


 とは言え安いワンカップなんかはともかく大吟醸なんかはだいぶましにはなってるし2006年に制定された酒税法で、それらの三増酒は「清酒」として認められず、リキュール類や雑酒に分類される用になったため清酒としては存在しなくなったんだけど。


 そして夏休みも最終日には船橋港で花火大会がある。


 船橋港は海老川の河口の漁港で現在親水公園として整備中だが水遊びとかは出来ない。


 対岸は完全な漁港になっていてそっちには漁船が沢山係留されていて、漁協市場の朝市があり新鮮な魚を買ったり、焼いてあるものを食べたりすることができる。


 場所的にあまりアクセスは良くなく京成線の「大神宮下駅」より徒歩15分が一番近い。


「まあ、屋台の出店を眺めながら歩いていけばいいか」


「そうね」


「こういうお祭りは初めてですけどなんとなくワクワクしますわね」


 会長がそう言うと浅井さんが同意した。


「あ、は、はい、私もです」


 会長と浅井さんがこういう夏祭りに参加しなかった理由は正反対だろうけど。


 というわけで今日はみんな浴衣姿でお出かけ。


 花火大会の日の例にもれず電車の中は同じように浴衣姿で巾着やうちわを持った男女でいっぱい。


 船橋大神宮駅を降りたらもう駅前から海老川の川沿いに派手な屋台が並んで人もだいぶ集まっている。


 やはり浴衣を着た親子連れやカップルも多い。


「せっかくだから屋台で色々買っていこうぜ」


「それがいいです」


「賛成っす!」


 金魚すくい、ヨーヨー釣り、スーパーボールすくいなどの定番の水槽すくいや釣り系に、ポップコーン、フランクフルト、焼き鳥、チョコバナナ、クレープ、お好み焼き、たこ焼き、いか焼き、アユやスズキの塩焼き、かき氷、焼きそば、あんず飴、わた飴、ベビーカステラ、焼きとうもろこし、ラムネやビールなどの食べ物飲み物系の屋台、コルクの射的に輪投げ、型抜きにくじ、紐引きなどの商品目当て系やお面屋もある。


 兎やヒヨコや亀などの動物系がなくなったのは金魚以外は飼えるかどうかに問題があるといことで規制がかかったんだろうな。


「斉藤さんとはぐれると困るし去年みたいに手をつないでいく?」


「え? ええ、別にいいわよ」


 斉藤さんが手を差し出すと浅井さんも手を差し出してきた


「あ、あの、私も手をつないでいてほしいです。

 こ、こんなに人が多いとこですとはぐれそうですし」


「え、うん、了解」


 俺が斉藤さんと浅井さんの手をとると俺が何も買い食いできない気がするけど、食うときだけ手を離せばいいか。


「では、私達もはぐれないように手をつないでいきましょうか」


「僕は大丈夫だと思うけど一応そうしておくよ」


「ああ、俺も大丈夫だともうけど一応な」


 と会長は芦名さん、佐竹さんと手をつないでる。


 なんだかんだで会長も面倒見はいいんだよな。


「おうおう、二股の不純異性交遊は駄目だぞ」


 とビールと烏賊焼きを早速ゲットしてそれを口にしてる不良教師がなにか言ってる。


「不純異性交遊なんてしませんよ」


「ほほう、あの状態でそんなこと言うですか」


 朝倉さんがそういうと千葉さんも茶化すように言った。


「周りからの視線も気にしなよねー」


「ええい、うっさいわ」


 でまあ屋台の前を歩いていたら浅井さんが聞いてきた。


「あ、あの小さな子が持ってる綿みたいなものは何でしょう」


「ああ、綿あめだね。

 買って食べてみたい?」


「あ、は、はい、食べてみたいです」


「じゃあちょっと手をはなすね。

 斉藤さんはどうする?」


「じゃあ私も食べるわ」


 で俺は屋台のおっちゃんに声をかける。


「おっちゃん綿あめ3つ」


「おう、そんな可愛い子を両手に花たあ兄ちゃんやるな。

 みっつだが二つ分でいいぜ」


「あ、そりゃ助かる」


 というわけでまず浅井さんと斎藤さんへ綿あめを手渡す。


「はい、おまたせ。

 普通に食べてみて」


「あ、はい、わかりました。

 あ、とっても甘いです」


「こういう物を食べると夏祭りって感じがするわよね」


 やがて花火が打ち上げられ始めた。


「たーまやー」


「かーぎやー」


 俺と斉藤さんがそう言うと浅井さんが不思議そうに聞いてきた。


「た、たまやとかぎやってどういう意味ですか?」


「ああ、昔にあったらしい花火屋の名前なんだけど、花火が上がったらお約束でそういう様になってるんだ」


「そ、そうなのですね」


 そして再び花火が上がった


「た、たまやー」


「お、いい感じいい感じ」


 他の面々も屋台で買食いしたり、花火を眺めたりして一時間ほど楽しんだ。


「これで夏も夏休みも終わりか。

 明日からまた学校と仕事だな」


 今年の夏休みはあちこち旅行へ行って十分楽しんだし、ゲーム製作も頑張らないとな。


 それにしても舞浜のあれみたいに花火を打ち上げたほうがいいんだろうか……いやあそこは金があるからできることで普通に毎日打ち上げ花火をあげるとかは無理だな。

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