買い取ったこの旅館にどうやって人を呼ぶかな
さて、食事を堪能した俺達は部屋に戻ることにした。
「あ、みんなに意見を聞きたいんで、そっちの部屋に行って話をしたいんだけどいいかな?」
「私は構いません。
ですが……少し部屋を片付ける時間がほしいところですわね」
ちょっと焦ったような会長に最上さんが続いて言った。
「あ、うんそうだねー。
急いで部屋を綺麗にしないとねー」
どうやら今すぐ入れるような状態ではないらしい。
「じゃあみんなで「望楼」に登ってそこで話をしようか」
「その方がいいっすね」
「ですです」
明智さんと浅倉さんに続いてその他のメンバーも頷いたのでみんなで望楼に登ってそこで話をすることにした。
隣の「旅館いなだ」の望楼と共に、伊東温泉の象徴でもあると言われるほど有名らしい「南海館」の望楼だが周りには高い建物はあまりないので伊東温泉の街や海が一望でき、夜景がきれいに見える。
「河に映る対岸の旅館の明かりも綺麗ね」
斉藤さんがそう言うので俺は頷いた。
「そのあたりも計算して作っていたんだろうな」
「で、現状あまりお客様がはいっていないこの旅館にどうやって人を呼ぶのです?」
と浅倉さんが聞いてきたので俺はアイデアを話し始めることにした。
「まずはテレビ房総とトウキョウベイFMでここと隣の旅館の宣伝CMをすぐ制作して流す。
伊東と言えばポッポヤホテルやホテルじょらくの”じょらくよーん”が有名だけど、やはりテレビCMの影響力は馬鹿にできないからな」
俺がそう言うと明智さんが頷いた。
「まあ、妥当なとこっすね。
名前を知ってもらうのが一番早道っす」
「で、その他のアイデアだけど温泉の利用は宿泊者限定じゃなくて、料金を払えば温泉だけ利用も可能。
宴会や食事も宿泊者限定じゃなくて、そっちだけ利用も可能にしたらどうかと思う。
もちろん料理や宴会は前日までに事前予約が必要とかにする必要はあるけどね。
これは船橋の割烹旅館を参考にできると思う」
俺がそういうと会長がなるほどと頷いた。
「たしかに、食材に関しての調達や料理の配膳の関係もありますけども、3階の120畳の広さの大広間を遊ばせておくのも、もったいないですわね。
床の間の方はともかく舞台の方は色々利用できそうですし、商談や接待だけなどに使ってもらうというのは有りだと思いますわ」
「まあ、舞台の方はカラオケとかだと風情を壊すから、芸者さんとかの芸を見られたり、あんまり売れてない演歌歌手を呼んだりなんかがいいかもね」
この頃はまだ芸者さんを呼んでの芸の鑑賞というのも結構行われていたりするんだよな。
「あとは1階の入口付近の客室を一つ、和風の甘味喫茶室にして、そこも宿泊客だけでなく立ち寄り客も利用できるようにしたらいいんじゃないかと思う。
基本的には旅館としては高級路線にしたいけど、近寄りがたいのはあんまり良くないと思うしな」
俺がそう言うと斉藤さんが頷いた。
「それはいいわね。
あんみつとか、ぜんざいとか、和風な甘味のほうが雰囲気的にもここにはあってると思うわ」
「とりあえず団体客や家族客を呼ぶというのはホテルの方が有利だから、こっちはあえてカップル客や女性の個人客や友達連れの客を拾いたいと思う。
その上でいずれはABEROADの国内ツアーに伊東の体験型の観光地めぐりの宿として載せてもらうのがいいかなと思う。
春のいちご狩りとか男はそんなにやりたいと思わないだろうけど女性は好きそうだし。
できればフェイシャルケア、ボディケア、痩身なんかのエステやマッサージも併設して女性に満足を与える方向性がいいと思うんだよな。
子供連れの場合を考えて絵本とか積み木とかおもちゃとかをいっぱい揃えるのもいいと思うけど」
「確かに旅行自体は女性の方が好きな方が多いですわね。
歌舞伎、ミュージカル、バレエなどの舞台鑑賞や、美術展などを見に行くのも女性の方が多いですし、温泉で肌がすべすべになると謳って、エステやマッサージも行なうのは良いと思いますし、その場合子供の暇つぶしができるような場所もあったほうがいいですわね」
会長の言葉に俺はうなずく。
「男の場合は旅行を楽しむっているよりあくまでも家族サービスなんだよな。
リフレッシュするにしても男の場合はわざわざ出かけるより家で休むほうが楽なせいかあんまり出かけないけど、普段家にいることのほうが多い女性はでかけてリフレッシュするほうが多いみたいだし。
じゃなきゃ男の場合は宴会とか飲み屋で飲んだりすること自体が目当てだったり。
そもそも出張なんかであちこちで移動することが多い男と違って女性は仕事で移動することもあんまりないし、男の場合は旅行より登山とかキャンプとかそういうもっと専門的なことのほうが好きなやつが多い気がするし」
俺がそう言うと明智さんが苦笑しながら言う。
「たしかにそんな感じはするっすね」
「だから女性客をメインターゲットにしたほうがいいと思うんだ」
最上さんがウンウンと頷いていう。
「それはあたってると思うねー。
私達女性のほうがあれは駄目これは駄目って言われることが多いから窮屈なんだと思うし、そういうのから逃げ出したいから、舞浜のアレも若い女の子がいっぱいなんだと思うなー」
「うん、そうだと思う。
将来的には日本好きな外国の富裕層向けの小規模だけど長期滞在する観光客をターゲットにもしていきたいけどな」
俺の言葉に会長が頷いていった。
「日本に来てありきたりなホテルに泊まりたいとは思いませんものね」
「まあ、外国人が泊まりやすいというだけなら大きなホテルを選ぶかもしれないけどな。
最近は自分探しなんてのも流行で静かで雰囲気のいい旅館でゆったりしたいという一人旅のニーズも増えてるはずだし」
「ああ、自分のやりたいことを旅を通して見つけるというやつっすね。
旅しただけでそんなものが簡単に見つかるなら苦労しないっすけど」
「まあ、そうなんだけど親や学校の言うままでいいのかって思う人間はたしかに多いと思うんだよな」
「まあそれはわかるです。
音楽で食べて行きたいなんて言っても親には理解してもらえないです」
浅倉さんがそう言うと最上さんもウンウンと頷いた。
「そうそう、絵本作家なんて夢見てないでちゃんと普通に働きなさいって言われるよねー」
「作家だってそうね。
そんなものでたべていけるわけがないって言われるわ」
斉藤さんも同感らしいけどまあそのあたりは仕方ないよな。
「とりあえず団体客狙いはやめて、個人や少数の女性客を積極的に受け入れるのと、宿泊しないと温泉なんかに入れないというような垣根の高さは取り除いていくっていうのと、まずは何より宣伝を積極的にやるってのが大事かなって」
俺がそう言うと会長が頷いた。
「ええ、それでいいと思いますわ、そしてその方がリピーターにも繋がりやすくなると思います」
それまで黙って聞いていた上杉先生が感心したように言った。
「なるほど、お前らもいろいろと考えてるんだな」
「そりゃまあそうですよ。
安く買えるってことはそのままじゃ金にならないってことですからね」
「まあそりゃそうだな。
私の友人にも勧めておくとするか」
「そうしてもらえると助かります。
口コミは馬鹿にならないですからね」
「ま、実際うまかったからなここの料理は。
男は牛丼、ラーメン、カップ麺でもとりあえず食えりゃいいって奴が多いが、女はうまいものや可愛いものに目がないからいいと思うぞ。
酒が旨きゃなおさらいい」
「そうですよね。
そういうところにちゃんと目をつけてるホテルや大規模旅館は少ないから勝算はあるんですよ。
ホテルや大規模旅館の宴会の日本酒はやすい合成酒で美味しくないとも聞きますし、全国各地の小さな造り酒屋の銘酒を仕入れて泊り客限定で格安で振舞うのがいいかなとも思います」
「ああ、修学旅行のホテルの酒なんか最悪だからな。
まあ修学旅行の客単価は馬鹿みたいに安いからしょうがないんだろうが」
こんな感じでここと隣をこれからどう経営していくかの方針はだいたい決まった。
国鉄とも話をして、電車と宿泊先と観光先の決まったツアーのパック旅行を駅窓口に売り出すことや『るるぶく』『まっぷ』などのガイドブック掲載もやっていきたいけどな。
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