貼り絵無双清~ぼ、ぼ、ぼくは、いっ、異世界でも、放浪して、貼り絵、するんだな~

明石竜 

プロローグ ぼ、ぼ、ぼくは、へっ、兵隊へ、行くのが、いっ、嫌なんだな。

「清(きよし)のやつ、やっぱり脱走してしもたか。まあ、そのうち戻ってくるだろう」

昭和十七年、ある初夏の日の朝。千葉県市川市に佇む八幡学園の年老いた男の先生は、ちょっぴり呆れ気味ながらも、微笑ましく呟いた。


時同じくして、

「こっ、怖いんだな。へっ、兵隊へ、行くのは、いっ、嫌なんだな」

 その清という男は、ぽっちゃり体型に丸刈りで風呂敷袋を背負い、下駄を履き、シャツ一枚に半ズボン姿で顔を青ざめさせ、ぶつぶつぼやきながら、線路の上をとぼとぼ歩いていた。

 目前に迫った徴兵検査が嫌で嫌で嫌で仕方なかったのだ。

「どっ、どっ、どこに、逃げようかな? うまく逃げないと、学園の先生に、また捕まって連れ戻されるんだな。ふっ、富士山の、方へ、行けば、いいのかな?」

 清が悩みながら引き続き線路上を歩いていたそんな時、

 ピィィィィィィィ!

 けたたましい汽笛が聞こえてくる。

案の定、彼の後方から真っ黒な蒸気機関車が迫って来たのだ。

「よっ、よけないと、ぼっ、ぼっ、ぼくは、轢かれて死んじゃうんだな……あっ、あの中は、くっ、くさくて、嫌だけど、しっ、死ぬのは、もっと、いっ、嫌なんだな」

 焦り顔の清は、勇気を振り絞って線路からぴょんっと飛び降りる。三メートルほど下の肥溜めに落っこちてしまった。

 そしてそのまま、浮かんでこなかった。



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