第108話 これからの通学


 クリスマスの翌日、俺は終業式に参加するためいつも通り駅で電車を待っていた。


 まだ祐奈の姿は見えないが、カバンからBluetoothイヤホンを取り出しBluetoothを繋ぐ準備をしている。


 高校3年生になったあの日、俺は祐奈と同じクラスになった。

 その時は風磨に学校1の美少女、楠木祐奈と同じクラスだと言われても全く興味は持たなかったし、関わることは無いだろうと思っていた。


 しかし、昨日俺はその祐奈と付き合うことになった。


 今でも夢なんじゃ無いかと信じられないが、頬をつねらずとも祐奈と付き合ったのが嘘でも夢でも無く紛れもない現実なのだと分かる。


「おはようございます‼︎」

「おう。おはよ」


 またモカに祐奈を会わせてやらないとな。俺が付き合ったことを本気で喜んでくれていたみたいだし。今度家に祐奈を呼ぶか……。


「えっ? 祐奈?」

「はい。祐奈ですが?」


 いや待て、なんで祐奈が駅で俺に話しかけてくるんだ?


 Bluetoothを繋いでいつも通り曲を聴くはずじゃ……。


「だ、大丈夫なのか? 駅で俺に話しかけても」

「大丈夫ですよ。そもそも私達が一緒に登校してなかったのは私が陽キャグループの人たちに仲間外れにされないようにって祐くんが気を利かせてくれたからじゃないですか」

「まぁそうだったな」

「それならもうその必要はありません。陽キャグループの人もアニメを好きになってくれましたし、私には楓さんも風磨くんもいるんですから」


 祐奈のいう通りだ。祐奈が本当の自分をさらけ出し、今の人間関係を作り上げた。もうBluetoothを繋いで曲を聴く必要は無いんだ。


 残りの高校生活、3ヶ月程度だが祐奈と一緒に電車に乗って登校すれば良い。


 Bluetoothを繋げなくなるのは若干寂しいが、一緒に登校する方が何倍も楽しめる。


 Bluetoothを開発してくれた人には感謝しないとな。


 これが無かったら俺たちは繋がるどころか、祐奈が実はオタクだっていう事実さえ知らないままだっただろう。


 そう感慨深く思いながら俺たちは電車に乗り込んだ。


「楓さんは本当に良い人です。私達が付き合ったことを本気で祝福してくれました。楓さんも祐くんの事が大好きだったはずなのに……」

「楓には申し訳なかったと思ってる。散々返事を待ってもらったのに振ったんだからな。でも、俺はこれからも楓と友達だし、日菜のことも全力で応援するよ。それでも良いか?」

「当たり前じゃないですか。私達にとって、日菜ちゃんの親友でいられる事は誇りです。また一緒にライブに行きましょう。風磨君も一緒に」


 楓もいい奴だが祐奈も大概いい奴だ。俺に告白してきた女性を俺は応援し続けると言っているのだから普通なら良い気はしないはずだ。


 祐奈といい楓といい、俺は本当に周りに恵まれたな。


 残りの高校生、楽しみでしかない。

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