第97話 妹のお告げ

 楓からクリスマスを一緒に過ごそうと提案された俺は一瞬どうしようか考えた。

 クリスマスを一緒に過ごすからには楓に告白の返事をしなければならないと思ったからだ。


 誘いを断れば告白の返事を伸ばすこともできるが、予定も無いのに誘いを断る理由は無い。

 それに、誘いを受ければクリスマスまでに決断をしなければならないと自分を追い込むことが出来る。


 だから俺はクリスマスの誘いを了承した。


 となると本格的に楓に対する俺の気持ちを整理しないといけないわけで……。


「あーもうどうしたら良いんだ‼︎」


 俺は自分の部屋でベッドに寝転がりながら悩み続けている。

 相談できるとしたら風磨くらいだが、楓が俺に告白してきたと言うことを風磨に伝えていいものか……。


 こんなとき、気軽に相談出来る恋愛マスターがいて

 くれればなぁ。


「呼んだかい?そこの君」

「呼んだけど呼んでねぇ」


 どこから話を聞いていたのかは知らないが、俺が悩んでいるとどこからともなくやってくる妹のモカが部屋に入ってきた。


「なんでまた勝手に俺の部屋に入ってきてんだ」

「お兄ちゃんが何かに悩んでる顔してたから……。すぐわかるんだよ? 妹だし、ずっと一緒にいるんだから」

「そうか……。心配かけたな。すまん」

「で、今回はどんな恋の悩み?」

「恋の悩みってのはもう分かってるんだな」

「あたぼうよ‼︎」


 何故恋の悩みだと分かるのか、と質問しても妹だから、としか言われないような気がして質問するのをやめた。


 末恐ろしい妹だよほんと。


「もしかしてまだ楓さんに返事してない?」

「……そ、そんなわけないだろ」

「あ、図星でしょ‼︎」


 なんで全部バレてるんだ妹怖い。


「はぁ……。そうだよ。まだ返事してない」

「……最低」

「やめろ‼︎ 自分でも最低だって分かってんだよ‼︎」

「楓さんか祐奈さんで悩んでるんでしょ? 」

「……そうだ」

「贅沢な悩みだね」


 妹に呆れられ兄の威厳はいとも簡単に崩れ落ちた。まぁ元々威厳なんて無いんだけど。


「仮にお兄ちゃんが楓さんの告白を断ったとして、祐奈さんがお兄ちゃんのこと好きってわけでもないんでしょ? 断ってもいいの?」


 モカの言う通りだ。俺が楓の告白を断ったとして、祐奈が俺のことを好きなわけじゃない。


 俺がどちらを好きかは度外視しても、楓の告白を断るのはリスクしかなかった。


「どうするべきなんだろうな」

「妹からのワンポイントアドバイス、聞く?」

「はい聞かせてください」


 モカは一度咳払いをしてから話し始めた。


「どっちでもいい」

「……は?」

「そんなのどっちでもいいよ‼︎ お兄ちゃん、自分の立場弁えてる? 今まで女の子とろくに話したこともなかったのに何様だよ‼︎ 」


 急に声を荒らげて怒鳴り散らかすモカの姿に動揺を隠せないが、俺は正座をしたままモカの話を聞き続けた。


「好きな人って言うのは考えなくても自然に決まってくるの。どっちが好きか、お兄ちゃんのこれからの行動に現れてくるはずだから。自分の行動をよく見続けること。わかった?」

「はい、分かりました」


 分かったからよし、と満足げに俺の部屋を後にしたモカ。


 行動に現れてくるとはどう言うことなのだろうか。


 まあモカがテキトーに言ってるだけかもしれんしあまり深くは考えないでおこう。


 何はともあれ、モカに説教されたおかげか悩みでいっぱいだった頭の中には余裕が出来ていた。

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