第93話 2人の帰り道

 祐奈が学校中の生徒に楓が学校に戻ってきても普通に接してくれとお願いしていたと聞いた俺は、祐奈は俺に対して怒りを抱いていないのではないかと考えた。


 祐奈がそのような行動をとったということは俺が楓を連れ戻すために東京に行っている事を風磨から聞いていた可能性が高い。

 いや、可能性というか風磨が俺に電話してきたときに祐奈が横にいたのかもしれないな。風磨の反応には違和感があったし。

 だとすれば、祐奈が俺に対して怒っているとは考えにくい。


 祐奈の気持ちが気になりすぎて、2人で帰るという普段なら絶対に思い浮かばない発想が浮かんだ俺は祐奈に声をかけ、事実確認のため祐奈と一緒に帰宅することにした。


 祐奈を誘った俺は祐奈と一緒に学校を後にする。


「今日楓と話したか?」

「話せてないんですよね……。なんか緊張しちゃって」


 緊張するのも無理はない。祐奈も俺と一緒に日菜のライブに行ったことがあるファンなのだから。本物の日菜を前にして緊張しない方が無理な話だ。


 一呼吸置いてから、俺は早速約束を破った事を謝罪した。


「ごめん。約束を破って屋上に行かなくて」

「……大丈夫です。むしろ私が祐くんに謝らないといけません」

「は、なんで?」


 約束を破った俺が祐奈に謝罪するのは当たり前だが、祐奈が俺に謝罪をする意味が分からない。


 祐奈は何も悪いことをしていないはずなのに、俺に何を謝ろうというのか。


「私は祐くんが屋上に来てくれなくて祐くんを責めました。でも、祐くんは楓さんのために奮闘してて、それを知らない私は祐くんを責める事しかできなかったんです。だから……、ごめんなさい」

「いや、せめて一言声をかけてから行けばいいのに何も伝えず帰った俺が悪い。本当にごめん」


 祐奈から責められる事はあっても、謝罪されるとは思っていなかった。

 しかも祐奈は、俺がどれだけ祐奈は悪くないと言っても自分も悪いと言い張る。


「いえ、私も悪いです」

「いや、祐奈は悪くない」

「私が悪いんです‼︎」

「祐奈は悪くない‼︎」

「悪い‼︎」

「悪くない‼︎」

「悪い‼︎」

「悪くない‼︎」


 祐奈が悪いか悪くないか、お互い一歩も譲らずに不毛な争いはしばらく続いた、


 結局最後は祐奈と顔を見つめ合わせ、不毛な論争をしている自分たちがバカらしくなり笑い合った。


「なにやってるんだろうな」

「ふふっ。本当ですね」


 祐奈との論争が終着してから、俺は祐奈が屋上で話そうとしていた内容を質問すべきかどうか悩んでいた。


 もしかしたら俺に告白しようとしていたのかもしれない。

 それを俺が聞くのも野暮だが。内容が気になって何も手につかない。


 聞くか、聞かないか、どうするべきだ……。


 悩みに悩んだ末、俺は祐奈にその内容を聞く事にした。


「あの日、屋上で何を話そうとしてたんだ?」

「……」


 俺の質問に祐奈は言葉を止める。


 この反応、もしかして本当に⁉︎


「私……」

「は、はい」

「……」

「……」


 沈黙が続き思わず唾を飲み込む。こ、告白か⁉︎やっぱり告白なのか⁉︎


「最近ちょっと太っちゃったんです‼︎」

「……は?」


 祐奈は顔を紅潮させ「あー言っちゃったー」と体をくねくねさせている。


「最近ご飯を食べ過ぎて太っちゃったんで祐くんにダイエットを手伝ってもらおうと思って……。誰にも聞かれたくない話だったので祐くんを屋上に呼び出したんですけど……」

「な、なるほど。それは重大事件だ」

「そうなんです‼︎重大なんです」


 ……。


 いやぁぁぁぁぁぁ恥ずかしいぃぃぃぃぃ。


 思い上がって祐奈に告白されるんじゃないかと勘違いしていた自分が恥ずかしくてたまらない。


「どうかしましたか?」

「な、ななな、なんでもない」


 いや、本当はなんでもある。どうかし過ぎて禿げそう。


 恥ずかしい思いをする事になったが、俺はこうして祐奈との仲を回復させたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る