第58話 別のお話

 宿泊先のスタッフの不手際で自分たちの部屋に宿泊する事が出来なくなった祐奈と楓は俺と風磨の部屋にやってきた。


「先生たちに相談したんだけど、もう一つも部屋が空いてなくて泊まれるところが無いんだって」


 泊まれるところがない? いくらなんでも1部屋くらい空いてないものなのだろうか。


「いや、わざわざ男子の部屋に泊まる必要があるのか? 他の女子の部屋に泊めてもらった方がいいんじゃないか?」

「それは先生にも言われたんだけどね……。私あんまり他の女の子と仲良くないから。それなら祐たちの部屋に泊まりたいと思って」


 そんな理由で男の部屋に泊まりに来ても良いのか……。夜中に何かされるかもしれないと言うのに。


「祐と風磨なら変な気を起こすこともないだろうし。安心安心」


 楓に安心されている事が嬉しいような、舐められているような複雑な気持ちだった。  


 楓はそれで良いかもしれないが、祐奈はそれで良いのか? 男子と同じ部屋で寝るとかあり得ないだろう。


「祐奈はそれで良いのか? いくら俺と風磨だからって心配だろ?」

「いえ、全然大丈夫です」


 ……まじか。何が大丈夫なのか全くわからないが大丈夫ならまあいいか。


 別に俺も2人に何かをしようなんて気はさらさら無い。2人には安心して寝てもらえるだろう。


「そうなると俺はシングルベットで祐と密着して一夜を過ごすわけか」

「よろしく頼むぜ相棒」


 祐奈と楓が同じ部屋に泊めてくれと言ってきたが断る訳にもいかない。いつまでも動揺しているわけにもいかないので夕食を食べるため会場へと向かった。




 ◆◆◆




 食事を食べ終えた俺たちは部屋へと戻ろうとした。


 しかし、尿意をもよおした俺は部屋まで我慢できず、トイレに寄ることに。


「トイレ行ってから戻るよ」


 そう言って俺はトイレへと向かい、俺以外の3人を先に部屋に戻した。


 今から4人で同じ部屋に泊まるという状況を考えると気が気ではない。同じ部屋に学校1の美少女と大人気声優の日菜がいると考えると落ち着けるはずがなかった。


 トイレから出て自分の部屋に戻ろうとすると、トイレの外には花宮が立っていた。


 祐奈つながりで会話をしたことはあるが、別段仲が良いわけでもない。


 特に話すこともないし無言で通り過ぎようとした。


「渋谷」


 はい、無言で通り過ぎる作戦は失敗に終わりました。どんまい俺。


 オタクの俺にはギャルの花宮と話すのは試練だ。


 大体なんで俺がトイレから出てくるのを待ち伏せしてるんだよ。


「あのさ、渋谷って鈴木と仲良いじゃん?」

「ああ。友達って呼べるのは風磨くらいだからな」

「今日の夜、鈴木と2人きりにして欲しくてさ」


 ……え、まさか、そうゆうこと?

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