第49話 答え?

 俺の唯一の癒しの時間は祐奈とBluetoothを繋いでいる朝の通学時間だ。

 楓と気まずい雰囲気になっているこの状況だからこそ、楓のことを考えないで済むこの時間は俺にとって欠かせない時間となっていた。


 しかし、通学の時間以外では未だに楓の放った言葉が頭から離れない。


『私は祐となら結婚してもいいかなーって思うよ』


 この言葉を深く読めば読むほど、抜け出せない奈落の底へ落ちていく。

 俺はこの言葉を聞いた時、そう発言するということは楓は俺と付き合えるってことか? と考えた。

 俺の頭にその考えが浮かんだということは、俺は楓のことが好きなのだろうか。


 楓は俺が大好きな大人気声優の日菜でもある。ファンとしてという意味であれば好きであることに間違いはない。

 しかし、日菜という存在が遠くにありすぎて恋愛感情の好きに発展はしてない。ファンという立場で声優に恋をする事は無いだろう。


 自分が声優の日菜であることを俺に知られていることもあり、他の人には見せない笑顔を見せてくれる。

 お互いアニメが好きで話も合うし祐奈が気持ち悪いと罵られた2日後、学校に誰よりも早く学校に到着しているような優しさも持ち合わせた女の子だ。


 文句の付け所は一つもないし、付き合えるとなれば俺は天にも舞い上がる気分になること間違いなしなのだが……。


 そう考えた時に頭に浮かぶのは祐奈だった。


 祐奈とは毎日のようにアニメの話をしにヤイゼリヤに行ったり、一緒に声優のライブに行ったりもした。アニメ好きなんて気持ち悪いと榎田に罵られた時も助け舟を出してくれるような優しい女の子だ。何より、通学中にBluetoothを繋いでいる時間は俺にとってなくなてはならない時間となっていた。


 楓と付き合えばこの時間も無くなってしまうのかと考えると、仮に楓と付き合えるという状況になったとしても俺は躊躇するだろう。


 それは俺の中に祐奈がいるから。いつのまにか俺の生活の中には祐奈が欠かせない存在となっていた。


 どちらが好きかと問われれば祐奈が好きなのかもしれないな。


 いや待て。何を馬鹿な事を考えているんだ俺は。楓の言葉に揺さぶられておかしくなったんじゃないか?

 そもそも、楓も祐奈も俺のことが好きな訳がない。付き合える可能性はみじんこほどもないだろう。


 存在価値ゼロの俺がどちらの方が好きとかどちらと付き合いたいとか、そんなことを考えるなんて恐れ多い。


 危ない危ない。危うく勘違いするところだった。


 俺はこれからも祐奈と楽しくアニメの話をして、俺しか知らない楓の秘密を守りながら日菜を応援する。


 風磨や陽キャグループとも、仲良くやっていければ良いと思う。


 修学旅行ではアニメの聖地巡礼でもしながら、何気なく楽しい時間が過ごしたいもんだ。

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