「ざまぁ」か「まざぁ」かお選びあそばせ?

かえる

辿られたルート

第1話 わたしってば何令嬢なんですの?

「ロズリーヌ・ド・ヴァルタン。きみは美しい……」


 オレ……いや、わたし?はホールの壁際に追い詰められていた。

 相手は長身で金髪の超イケメン男だ。

 あ、いや、格好いい殿方……ですの。


 そのお方はわたしの小さい顎先をくいっと持ち、


「このまま、いいかい?」

「いい……って……?」


 つい、流れに身を任せそうないい感じに返してしまいましたが、そんなことはわたしにはできません。

 殿方とは、キスしたくありません。


 百合?


 いえ、だってわたしは――


 ついさっき転生してきたばかりの、元・男なのですから。


 何がどうなったのか記憶は定かではありませんが、ここはたぶん、ゲームの中の世界だと思うのです。

 それも、乙女ゲームとか、そういうたぐいの、その――殿方がたくさん出てきて、主人公といい感じになってくださる恋愛要素のあるゲームです。


 さっきの、当たり前のようにキスに持ち込む感じ、あれが普通に蔓延しているような、そんなたいへんロマンチックふしだらなものと思っていただければ、たぶん正しい認識なのでしょう。


 知らないゲームですが、まあだいたい類型的な感じで、わたしは転生したことに気づいてすぐ、「ああそういうことね」と把握いたしました。

 そういう、空気を読む能力には長けておりますの。


 ただ、


 ただ、です。


 なんかわたし――


 主人公じゃないみたいなんです!


 主人公らしき女性は、黒髪ロングの清楚系で、あっちのほうに立って、多くのイケメンにちやほや……ええと、かしずかれておられますの。


「面白い女だ」

 みたいなことを素敵すぎる殿方たちから不自然なくらい口々に言われているので、あれが主人公で間違いありません。


 じゃあ、わたしは?というと――


 金髪の縦巻きロールで、


 さっき窓ガラスに映ったのを見た感じ、


 すっごく、いじわるなをしております。


 たぶん、〝当て馬〟的ポジションなのではないでしょうか?


 いわゆる悪役令嬢というものかもしれません。

 まだ何も、悪役っぽいことはしていないはずですけど……。


 そう思うと、さっき呼ばれたわたしのフルネーム、たぶん「ヴァルタン家」のロズリーヌ嬢だと思うのですが――

 ヴァルタンって悪役っぽくてひどくないですか!?


「キス……したい」

「や……」


 さっきの殿方とのキス攻防はまだ続いております。


 でもこれ、たぶんキスされません。


 わたし、わかってしまいました。

 わたしは当て馬なので、この殿方は主人公の気を引きたくてわたしにちょっかいを出して「みせて」いるだけ。


 たぶんここで、「いいわ」と答えてもキスされないのです。

 わたしはそういうポジション。


 それがわかってしまいました。


 わたしも殿方とのキスはお断りなので、その点での利害は一致していると言っても過言ではありませんの。

 ただ、これはちょっと……


 なんだかひとりの女性として悔しくはありませんか?


 主人公じゃないというだけで、この扱い。

 わたしはだいぶ、いやものすごく、腹が立って……いえ、イタズラ心が芽生えてしまいましたの。


(このまま、キスしてしまおうかしら?)


 そんな、当て馬を逸脱した考えを、抱いてしまいました。

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