第149話

「なぁ、俺等にもわかるように説明してくれよ」

 僕と慶史けいしのやり取りに、全然ついていけないと不満の声をあげる悠栖ゆず

 朋喜ともきも、何も言わないけどどういうことか説明して欲しいって顔をしてて、僕は小さく息を吐くとまずは二人に謝った。

「ごめんね。朋喜が大変な時に僕の話になっちゃって。実は僕、……僕、……」

まもる君……?」

 言葉にするのを躊躇ってしまうのは、口に出した言葉によってこの想いがもっともっと強くなる気がしたから。

 既に引き返せないほど育ってしまっている『想い』に今更だと思われるかもしれないけど、でも、今聞いた朋喜の話が深さを恐怖に変えてしまうからこれ以上想いを募らせたくなかった。

 その一方で、たとえ冗談でも『想い』を否定したくない自分がいて、頭はぐちゃぐちゃ。

 どんな言葉を使えば想いを深めることなく悠栖と朋喜に僕の『想い』を伝えることができるだろう?

「……言い淀んだところで何も変わらないよ」

「慶史……。そうだね。……そう、だよね……」

 どうしても言い辛いなら俺から話すけど?

 そう助け舟を出してくれる慶史は本当に優しい。

 でも僕は、僕の『想い』を友達に打ち明けることすらできないのに『告白』なんてできるわけがないってその申し出を断った。気持ちだけ貰っておくね。と。

「あのね、先週気付いたばかりなんだけど、僕、……僕、虎君のことが『好き』、みたい……」

「『みたい』? それって好き『かもしれない』ってことか?」

「! ち、違う違う! ごめん、言葉が悪かったね。ちゃんと『好き』だよ。僕、虎君のことがすごく、すごく好きなの……」

 悠栖に確認されて、慌てて否定して、言い直す。きっとずっと前から虎君のことが好きだったんだと思う。って。

 二人の顔が見れなくて俯く僕。すると僕の手に朋喜の手が重ねられて、驚いた。

「ごめんね、葵君。きっとすごく楽しい時期なのに、僕、水差しちゃったね」

「! そんなことないよ!? 大体、朋喜は何も悪くないよね!?」

「僕がもう少し上手く隠せてたら、葵君がそんな顔すること、なかったよね? 不安になったり怖いって思ったりもしなかったよね?」

 好きな人ができて、その人のことを考えるだけで楽しくて幸せな気持ちになることができて、『片想い』は恋愛で一番楽しい時期。それなのに自分の失恋話のせいで辛い気持ちにさせてごめん。

 朋喜の申し訳ないと言いたげな笑顔に、僕は「朋喜のせいじゃない」って反論する。けど、朋喜はそれを聞き入れてはくれなかった。

(どうしよう……。本当に朋喜のせいじゃないのに……)

 僕の心が弱かっただけで、不安や恐怖を感じてしまったのは誰のせいでもない。

 でも、僕がどれだけ『違う』と言っても、それは『強がり』に写ってしまう。『本心』なのに、『言葉だけ』だと伝わってくれない……。

(ダメだ……。すごく、怖い……)

 伝わらない『思い』。

 心が届かない恐怖を今まさに体感して、全身の毛穴から汗が噴き出すような緊張を覚えた。

「朋喜、葵は『違う』って言ってるんだから、これ以上『自分のせい』なんて言わないで。あと、何に対する罪悪感なのか分からないけど、言いすぎてて逆に嘘臭くなってるよ」

「! もう。慶史君ってば容赦ないなぁ」

「朋喜が卑屈になり過ぎてるからでしょ。葵の性格考えたらそれが逆効果だって分かってるくせに」

 それとも、もしかして葵を追い詰めたかったの?

 満面の笑みを浮かべて威圧感を出す慶史。もしそうなら容赦しないよ? って、何を容赦しないの?

 僕は、僕のせいで二人が喧嘩するところなんて見たくないよ……。

「ちょ、いい加減にしろよお前ら! なんか全然話についていけねぇけど、マモ、泣きそうな顔してるだろうが!」

 バンって机を叩く音に、慶史と朋喜の間にあった緊張感が消えて安心。

 そして珍しく本気で怒っている悠栖に慶史と朋喜は口を揃えて「ごめん」と謝ってみせた。

「俺に謝ってもしかたねぇーだろうが! 謝るならマモにだろう!!」

「! 悠栖に正論言われるとか屈辱っ……」

「そうだね。普段はただの馬鹿の癖にこういうところは『兄貴分』ってかんじがで腹が立つね……」

「おい! 聞こえてるぞ!」

 さっきまで一触即発だったくせに仲良くディスってくんな!

 そう言って怒りを露にする悠栖だけど、慶史も朋喜も全然悪びれない。

 一瞬で空気を変えてしまった悠栖はやっぱり僕達にとってお日様みたいにキラキラしてて暖かい存在だ。まぁ普段はもう少し落ち着いた方がいいとは思うけど、それも悠栖の魅力の一つなんだよね。

(みんなが悠栖のこと好きになっちゃうの、わかるなぁ……)

 悠栖だけじゃない。慶史も朋喜も、みんなが大好きになっちゃうのは当然だと思う。3人ともとても優しくてとてもしっかりしていて、そしてとても頼りになるんだもん。

 僕には虎君っていう『特別な人』がいるけど、もし虎君がいなかったら僕だって3人の誰かを好きになっていた気がするぐらいだ。『特別な人』がいない人達なら、なおさら惹かれるに決まってる。

(僕も3人みたいな魅力があったらもう少し自信が持てるのにな……)

 きっと3人のように魅力的な存在だったなら、ムードや雰囲気に頼らず、好きな人に『好き』って告白できるんだろうな……。

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