第133話

まもる?」

「なんで、決めつけるの? あの夢が僕の想いじゃないって、なんで茂斗しげとが勝手に決めつけるの!?」

 僕は茂斗の手を振り払い、涙目で睨んだ。僕は幸せだった。って。夢から醒めた時、僕はこれまでで一番幸せだった。って……。

「葵……」

「茂斗には理解できないって分かってたけど、でも自覚しちゃったんだもん! 仕方ないでしょ!!」

 大声で叫んだせいか、ボロッと涙がこぼれてしまう。

 僕は涙を拭いながらも、「上部だけの優しさなんて要らない」って茂斗を拒絶した……。

「……分かったよ。なら、はっきり言ってやるよ」

 僕の剣幕に、茂斗は僕を傷つけないために我慢してたけどって息を吐くとじっと見据えてきた。

 その眼差しに僕は罵倒を覚悟して、強く手を握り締めた。

「葵が凪を好きだとしても、俺は凪を絶対に誰にも渡さない。葵が惚れた相手なら全力で応援してやるつもりだったけど、こればっかりは譲れない。絶対に無理だ」

「……え?」

 想いを貶されると覚悟していた僕の耳に届いたのは、予想とは全然違う言葉。それはあまりにも想定外過ぎて、すぐには理解することができなかった。

「まさかお前がライバルなるとは思ってなかったから正直焦ってるけど、でも、凪は絶対に渡さないからな」

 俺は執念深いから諦めろ。って凄んでくる茂斗は、まだ状況を理解できない僕を置いて話を進める。

 自分は想いを隠してないから安心しきっていたって息を吐くと、「俺の方がずっと昔から凪を想ってるんだからな!」って絶対に負けないって宣戦布告された。

 置いてけぼりだった僕はそれにも反応を返せない。

 ただ呆然と僕に捲し立てる茂斗を見つめていたら、茂斗はそれに苛立った様子で凄んでくる。やる気あんのか!? って。

「宣戦布告しといて気の抜けた顔すんなよ!」

「あ、えっと、ごめっ、ちょっと理解が追い付かなくて……」

「はぁ!? まさかお前、俺が凪に惚れてるって知らなかったのか!?」

「! 違う違う! それは知ってる! 凄く知ってるから!」

 だから凪に惚れたのか!? って詰め寄られて、一体どうして茂斗が誤解をしているのか僕にはわからない。

 とりあえず今生まれた誤解を解こうと言葉を否定したら、茂斗は顔をしかめて舌打ちを還してくる。

「くそっ、マジで油断してた……。お前の性格的に俺に遠慮して絶対に凪をそういう目で見ないって思ってたのに……」

 ああでも凪の可愛さは半端ないから無意識に惹かれても無理もないけど。

 そう目の前でブツブツと呟く茂斗に、ようやく理解が追い付いてきた。

(もしかして、僕が凪ちゃんでそういう夢を見たって思ってる……?)

 そうしてそんな誤解が生まれたかは分からないけど、目の前にいる茂斗を見る限り、僕が凪ちゃんを好きになったって勘違いしてるってことで間違いないと思う。

(そりゃ凪ちゃんのことは好きだけど、でも、凪ちゃんは茂斗の大事な人だし、そういう風に見たことなんて一回もないし)

 茂斗が言った通り、僕は『茂斗の大事な人』としか凪ちゃんを見ていない。間違っても恋愛感情なんて抱いたりしていない。僕は茂斗と一緒にいる凪ちゃんが好きなんだから。

「あの、茂斗、ごめん。なんか誤解があるみたいなんだけど……」

「あぁ?! 『誤解』だぁ!?」

 怒りを隠さずボクを睨む茂斗の顔は怖い。でも、それほど凪ちゃんが好きなんだろうなって思ったら、凄く可愛く思えた。

 だから僕は思わず笑ってしまう。当然、笑った理由を知らない茂斗はもっともっと怒るんだけど。

「あのね、僕、凪ちゃんの夢、見てないよ?」

「嘘つけ! 今更そんなこと言われて信じられるか!」

 宣戦布告したのはそっちだろうが! って全く信じてくれない。

 僕はそれでも今誤解を解かないと絶対大変なことになるって思ったから、何度も本当だって訴えた。

 嘘だ! 嘘じゃない! 信じられない! 信じてよ!

 そんな問答をしばらく繰り返す僕達。

 凪ちゃんのことになると茂斗の視野は途端に狭くなっていつもの冷静さもなくなってしまうから、説得は難航した。

 あまりにも埒が明かなくて僕が困っていたら、「そこまで言うなら」って茂斗が信じさせてみろと言わんばかりに続けた言葉に、僕はようやくこの問答を終えられると安心してつい本当のことを答えてしまった。あんなに茂斗に知られたくないって思ってた真実が、口から出てしまったのだ。

「凪じゃないって言うなら、一体誰が出てきたって言うんだよ!?」

「虎君だよ! 僕の夢に出てきたのは、凪ちゃんじゃなくて虎君なのっ!!」

 本当、勢いって怖い。僕は茂斗につられるように大きな声でそう告白してしまっていた。

 僕が我に返って自分の言葉に青ざめるよりも先に茂斗が「はっ?」って目を見開いたから、もう全部伝わってしまって誤魔化すことはできそうになかった。

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