閑話 保護者付きデート

「ね、姉さん、今なんて……?」


姉からの言葉にびっくりしつつも、セリューは思わず再度確認の意味を込めてセレナに問い返す。


「だから、フォール公爵とローリエさんと城下にお出掛けするの。約束を取り付けてきたから、楽しんできなさい」

「そ、それは嬉しいけど……フォール公爵はお忙しいんじゃ……?ただでさえ、僕たちが無理を言って剣の稽古を付けて貰ってるのに……」


憧れの人と、その娘で自分の婚約者候補の少女とのお出掛けというのは、セリューからしたらとてつもなく楽しみなイベントに思えたが、すぐに出てきたのはその憧れの人への遠慮であった。


父である国王陛下が現在最も信頼を寄せており、自身の領地のみならず、他の貴族とのことなどでもかなり多忙なのは、子供であっても王太子のセリューには理解出来ていた。


そんな凄い人物に、直接教えを乞うだけでなく、城下に遊びに行くお付まで頼む……というのは、いくら何でも負担が大きいのではと、心配そうなセリューに対して、その姉であるセレナは至って平然と答える。


「大丈夫よ。この程度で潰れるほどフォール公爵は人間っぽくないから。それに、王太子である貴方は外のこともある程度知ってる必要があるの。だから、遊びと勉強だと思って遠慮なく行ってきなさい」

「姉さん……」


姉の優しさは分かりつつも、人間っぽくないという部分は何となく分かってしまうので、苦笑いを浮かべるセリュー。


そんな弟にふと、思いついたようにセレナは悪戯っぽく微笑むと言った。


「保護者同伴だけど、これは立派なデートね。男を見せるには丁度いいかも」

「でーと?」

「あー……恋人が互いの仲を深めるための特別なお出掛けのこと」

「なるほど、姉さんは博識ですね」


デートという単語自体、この世界ではほとんど使われてないので、なんと言うべきか悩みつつも上手いこと濁して答えるセレナ。


「とにかく、未来のお義父さまとは仲良くしておくと、後々便利よ」

「お義父さま……」


何となく、その単語に不思議な感覚になるセリュー。


自信を失っていたセリューに、道標をくれた尊敬する憧れの存在であるカリス……それが自身の義父になるというのは、夢みたいな話だが実現出来ればきっと自分はもっと頑張れると不思議とそう思えた。


「……これは、男女の進展はまだまだ先かもね。まあ、向こうは完全なファザコンだし、こっちはまだまだ淡い想い……しかも、憧れが先行してるし、仕方ないか」


どこかやる気になっているセリューを眺めつつ、やれやれと言わんばかりにそっとため息をつくセレナ。


そんな姉の様子に気づかずに、セリューは当日を楽しみに待つことになるが……楽しみすぎて、前日にあまり寝られないという初めての体験も出来たので、本人としては満足の行く結果と言えただろう。


春はまだまだ、先にあるようです。


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