第114話 旅行がしたい

「家族旅行がしたい」

「却下でございます」


俺の心からの願いを、淡々と切り捨てる我が家の執事のジークさん。


この鬼を倒さねば、この世に平和は訪れないと俺の勘は告げている。


「即答は無くないか?」

「現実問題、カリス様が長期で休暇など取れるはずもなく」

「まあ、確かに」


我ながら、忙しい日々を過ごしているので、その言葉には同意せざるおえなかった。


「奥様もご懐妊なさり、お嬢様方も健やかに育っておいでです。フォール公爵家は益々盛り上がるでしょうが、それに比例してカリス様もお忙しくなるかと」


分かっているだけに、正論を聞かされてげんなりする気持ちは察して欲しい。


「でも、確かに今のサーシャに長旅は良くないか」


新しい家族をその身に宿してくれた、我が愛しい嫁のサーシャは、健気なことに妊娠の大変さをおくびにも見せずに、日々俺の癒しとなってくれていた。


本当に良くできた嫁だよ。


「それに、子供たちもまだ幼いし、もう少し大きくなってからの方が良いか」


ローリエも、そこまで長旅をさせてるのは難しいだろうし、ミントとバジルは連れて行くにはまだ早い。


余計な負担を負せることもないが、それでも家族旅行に行きたい気持ちは収まりそうもない。


「よし、落ち着いた頃に行けるようにスケジュールを練っておくことにするか」

「……お嬢様方が大きくなると、今度はカリス様との時間が取れなくなるかもしれませんよ?」

「その手には乗らんぞ」


そう言って、休みを貰おうとする俺を言葉巧みに説き伏せる気なのだろうが、歳は取っても、かつて剣鬼と呼ばれた剣士の俺はメンタルだって並ではない。


……まあ、その二つ名は前のカリスさんのものだが、俺だって転生してその経験値を得てるので、名乗っても問題ないはず。


ジークのこの手の嫌がらせ(多分に偏見が含まれる)の対策も無論用意してあるのだ。


「スケジュール調整して、近場でも目一杯楽しめるようにするさ。家族全員での旅行も良いが、妻や子供たちそれぞれと、というのも悪くない」


サーシャと2人きりなら、子供たちのことは母上と我が家の優秀な使用人達に任せて夜まで堪能すればいいし、子供たちとなら、ミントとバジルはもう少し大きくなってからの方がいいが、ローリエなら色々と巡ることも出来る。


愛娘を連れてのお出掛け……うむ、中々素晴らしい。


バジルやミント、そしてサーシャのお腹にいる新しい家族とも、時期にそれを叶えたいものだ。


まあ、サーシャとの旅行は是が非でも叶えたいが、サーシャの体調や気持ちを考慮することは忘れない。


「雰囲気の良い宿に泊まるのも悪くないな」

「……その場合、奥様は間違いなくまたご懐妊なさりますね」


……否定できない。


いや、だって、サーシャってば俺の前で可愛すぎるんだもの。


あれを拒める男が居たら、俺は本気でその人は別の種族だと思うね。


まあ、あの可愛すぎるサーシャを他の奴に見せる気は毛頭ないが。


サーシャは俺の可愛い可愛い大切な嫁だもの。






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