第50話 王女様からの提案

「ごきげんようフォール公爵」

「セレナ様。私は仕事中なのですが……」


場所は執務室。今回も当たり前のように部屋に入ってきたセレナ様に俺はため息混じりに言った。


「本日はセリュー様も一緒だと伺っておりますが、ここに来たのは何故ですか?」

「弟と婚約者候補を二人きりにしたいと答えれば面白いリアクションがいただけるかしら?」


思わず筆を真っ二つにしそうになるが俺は努めて冷静に言った。


「その場合は私の持つあらゆる力で阻止させてもらいますよ」

「あら?思ったより冷静ですね。あなたは弟とローリエさんの婚約には反対なのでしょう?」

「ええ。まあセリュー様がゲーム通りクズ王子になるなら絶対に阻止しますが、まだ子供ですからね。ローリエが本当に好きになったなら止めるつもりはありません」


そう言うとセレナ様は少し驚いてからくすりと笑って言った。


「多分、弟はゲームとは別の人格になりますよ」

「何か根拠でも?」

「何を言ってるんですか。あなたですよ」

「私が何ですか?」

「弟はあなたの言葉に救われてからあなたをやけに尊敬してましたしね。それにこの前のお菓子も相まってあの子の中ではあなたは"憧れの人"扱いされているんですよ」

「そんな馬鹿な」


たったあれだけのことで感謝されるのも疑問なのにそこまでセリュー様の中で俺の評価が高いわけないと言うとセレナ様はため息をついて言った。


「まあ、あなたに自覚がないのはさておき、おそらくあの子たちを今二人だけにしても問題はありませんよ。子供ですから」

「あなたも一応見た目は子供なのをお忘れなく」

「ふふ、まあその件はさておき、この前のお父様とのお話聞かせていただける?」

「……どこまでご存知なのですか?」

「ローリエさんへの縁談が表向きの理由でそれ以外に何かをお父様はあなたにお願いしたということしか知りませんわ」


ほとんど知ってるようなので俺はため息をついてから簡単に話した。宰相の裏切り疑惑、そしてその調査と次期宰相へのお誘い。これらを他言無用とした上で話すとセレナ様は頷いて言った。


「なるほど、私に頻繁にローリエさん経由のフォール公爵家の情報を求めてきたのはそれが原因でしたか」

「セレナ様はその情報をどのように使うつもりか聞いてもよろしいでしょうか?興味本意ではないのでしょう?」

「ええ。これでも私はお父様に感謝しておりますから。ご協力しようと思いまして」


何やら含みのある言い方だがこの王女様ならおそらくそれなりのコネやら発言力があるのだろう。


「それで、フォール公爵は宰相になるのですか?」

「どうでしょうね。私には荷が重いですから」

「本音はどうなのですか?」

「もちろん面倒なので誰かに押しつけるつもりです」


そう言うとセレナ様は笑いながら言った。


「でしたらこれから育成してはどうですか?」

「育成?誰か心当たりがあるのですか?」

「ええ、あなたにとってもローリエさんにとっても無関係でない方……現宰相のグリーン公爵の息子であり、乙女ゲームの攻略対象の一人、マクベス・グリーン公爵子息です」





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