第28話 夕飯の一幕
「お義父様とお義母様が来られるのですか?」
その日の夕食の席で、早速俺は二人に両親の訪問を告げると、驚いたような表情を浮かべるサーシャ。そんな表情も可愛いと思いつつ俺は頷いて言った。
「二人目が出来たからだろうが……ローリエは産まれた時に一度会ったきりだろうから覚えてないだろう?」
「おとうさまのおとうさま?」
「……ああ。そうだね。ローリエからしたら祖父母……お祖父様とお祖母様にあたる人だよ」
キョトンと首を傾げるローリエに悶えそうになるのをぐっと堪えて笑顔で俺はその答えに頷いた。お父様のお父様とか、可愛いすぎる例えだろ!そんな俺の内心は悟らせないでいると、サーシャが少し不安そうな表情で言った。
「お出迎えの準備とかをしたいですが……」
「サーシャは無理に動かなくていいよ。今が大事な時期なんだしね」
「すみません……」
ベッドの上で申し訳なさそうな表情を浮かべるサーシャ。本当はマナー的にはあまりよくないが……最近はサーシャの体調が安定している時はサーシャの部屋に簡単に机を用意してそこでご飯を共にすることが増えた。まあ、サーシャの体調が悪ければローリエと二人で食べるが……負担にならない程度にはサーシャの側にいたいので、屋敷の人間には目を瞑ってもらっている。
そんなサーシャの側に俺は近づいてから優しく頭を撫でて言った。
「あまり気にしなくていい……と言っても無理だろうけど、サーシャにはこれから産まれてくる私達の新しい家族のために頑張ってもらっているんだ。だから私は私でサーシャとローリエと……お腹の子のために出来ることをするだけだよ。家族なら助け合って当然だからね」
「でも……私はいつも旦那様に迷惑ばかりかけて……」
うーん……サーシャがかなりしょげたような表情を浮かべてる。そんな表情すら可愛いが……やっぱり、体調が安定しないと精神も不安定になるものだしね。俺はそんなサーシャになるべく優しく笑顔で言った。
「愛する妻と娘のためなら苦労なんてものは存在しないよ。仮にあったとしても、それらすべてが自分の愛する家族のためになるなら、私は喜んでどんなことでもしよう」
「でも……それじゃあ、旦那様に私が寄りかかるばかりで、旦那様の負担になります……」
いつもならこれくらいでサーシャも気持ちを持ち直してくれるが……妊娠中はいつもよりナーバスになるのだろう。
さて、娘が近くにいるし、サーシャは妊娠中だからあまり派手なことはできないが……どうしたものか。
いつもなら、『そんなに不安なら体に教えてあげよう』みたいなフラグから夜のイチャイチャに変化するのだが、流石に娘の前&妊娠中のサーシャの負担になるのでそれはできない。
そうなると……俺が選択できるのはほとんど一択だろう。
俺は撫でていたサーシャの頭から頬に優しく触れてから、そっと近づいて――サーシャの額に軽くキスをした。
「だ、旦那様……」
娘の前でこんなことをされるとは思ってなかったのだろう。サーシャは先ほどの不安な表情から驚きと恥ずかしそうに頬を赤く染めていた。そんなサーシャに俺は少しイタズラっぽい笑みで言った。
「ごめんね。サーシャがあまりにも可愛いことを言うものだからついね……」
「か、可愛いって……」
「私はね……サーシャのそういう可愛いところも大好きなんだよ。良いところも悪いところも全部をひっくるめて、サーシャが大好きなんだ。だから次あんまり可愛いことを言うような……今度は大人のキスで黙らせるよ?」
にっこりとそう言うと、サーシャは顔を赤くして黙りこんでしまった。とりあえずはサーシャの不安定な気持ちを少しは落ち着けることが出来ただろうと、内心で若干安堵していると、ローリエが俺の服の袖を引っ張ってから可愛く首を傾げて聞いてきた。
「おとうさま……おとなのきすってなあに?」
……迂闊なことを口にしないに限るね。まさか娘にピュアな瞳でそんなことを問われる日がくるとは……。
まあ、こういう教育も親の仕事だ。いずれは俺かサーシャが教えなくてはならないことだが……サーシャと違い娘に実際に実習を行うわけにもいかないので、俺はしばらく考えてから無難な回答をすることにしたのだった。
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