第25話 家族の誕生日

「さて……準備はいいかい?ローリエ?」

「はい!」


元気に返事をする愛娘に俺は笑顔を浮かべてから扉をノックした。


「サーシャ。起きてるか?」


しばらくして中から「はい……」という控えめな声が聞こえてきたので、俺は扉を開けて中に入る。


「体調はどうだ?」

「はい……朝よりはだいぶ平気になりました」

「おかあさまだいじょうぶですか?」

「あら、ローリエも一緒なのね。心配かけてごめんなさいね。それと……今日はあなたの誕生日をお祝いしたかったのに……」


申し訳なさそうにベッドに近づいてきたローリエと俺をみつめるサーシャ。そんなサーシャにローリエは笑顔で言った。


「おかあさまがげんきなのがいちばんだから、おかあさまはゆっくりやすんで、はやくげんきになってください!」

「ふふ……ありがとう。本当に優しい子ねローリエは」


母親らしくローリエの頭を優しく撫でるサーシャ。そんなサーシャに撫でられて、くすぐったそうに無邪気な表情を浮かべるローリエ。


この光景を見て俺は……一人、悶えるのを必死に抑えることに全力を注いでいた。


可愛いすぎるだろこの母娘!そっくりな見た目の可愛い銀髪美少女と美幼女の組み合わせ……うん、きっとここが天使が住まうという幻の楽園なのだろう……そんな幸福に身を委ねそうになるのを必死に抑えて俺は言った。


「さて、サーシャ。食欲はあるかい?」

「えっと……軽いものなら食べられるかと……」

「そうか……なら、丁度いいかもしれないな」


そう言ってから俺はサーシャとローリエのケーキが入った箱をサーシャの近くに置いて箱を開けた。


「これは……」

「サーシャのはレモンケーキ。酸味と甘さが抜群のケーキだよ。ローリエには甘い苺のショートケーキ。二人のために頑張って作った力作だよ」

「あの……パーティーは終わったのですよね?これは一体……?」


不思議そうに首を傾げるサーシャ。まあ、パーティーですでにケーキは食べたと思っているだろうからね。当然の反応だろうが……俺はそれに笑顔で言った。


「せっかくのローリエの誕生日だからね。メインは家族3人で静かにやろうと思って取っておいたんだよ」

「わざわざ私のために……」

「サーシャだけのためではないよ。ローリエも母親である君と一緒に食べたいだろうと思ってね。そうだろ?」


俺の言葉にローリエは笑顔で言った。


「おかあさまといっしょにけーきたべたいです!」

「……らしいよ。どうかな?」


そう聞くと、サーシャは嬉しそうに微笑んで頷いた。


「わかりました……せっかくの二人のご好意をありがたく受け取らせていただきます」

「よし……それなら準備をするから少し待ってて」

「準備?」


不思議そうに首を傾げるサーシャ。そんなサーシャのために俺はレモンケーキを一口サイズにフォークで取ると、それをサーシャに向けて差し出した。


「はい。サーシャ、あーん」

「えっ……あ、あの……旦那様?」

「ほら。遠慮しないで」

「で、でも……」


チラリと視線をローリエに向けてから恥ずかしそうな表情を浮かべるサーシャ。まあ、娘の前でやるのは恥ずかしいだろうが……そんなサーシャに構わず俺は『あーん』を続けていると、やがて根負けしたようにサーシャは俺の差し出したケーキをその可愛い口で食べた。


「どうかな?」

「……お、美味しいです」


恥ずかしそうに微笑むサーシャ。そんな可愛い反応を楽しんでいると、ローリエが俺の服の袖を引っ張ってから言った。


「おとうさま。わたしにもたべさせてください」

「ああ。もちろんだよ」


ノーという選択肢はなかった。可愛い愛娘のために俺は別のフォークでローリエ用のケーキからローリエが食べやすいようにサーシャの時より小さく取り分けてからローリエにそれを差し出した。


「はい。あーん」

「あーん」


もぐもぐと嬉しそうにケーキを食べるローリエ。そんなローリエを微笑ましく見守っていると、サーシャが少し拗ねたような表情を浮かべて言った。


「あ、あの……旦那様。私にも、その……食べさてください」

「よろこんで」


それからは交互に二人に食べさせることになったが……雛鳥に餌を与えるような微笑ましい光景を俺は脳内のフォルダーに保存して満足したのは言うまでもないだろう。





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