第8話 女子力の高いおっさん

「おとうさま!おかあさま!」

「ローリエ」


部屋でサーシャとイチャイチャしてから、中庭に向かうと、ちょうどローリエも勉強が終わったのだろう……偶然廊下で鉢合わせになり、俺はローリエの頭を撫でて言った。


「勉強お疲れ様。もう終わったのかい?」

「はい。おとうさま」

「そうか……よしよし」


撫でていると心地のよい感触……やはり親子というか、撫でられた時に同じような表情を浮かべるので、なんとなく可愛くなってそのまま撫でていると、少しふてくれたサーシャが俺の服の袖を摘まんできたのを感じてローリエの頭から手を離した。


「ローリエは娘だ。あまり妬くな……とは言っても無理だろうから、後で倍可愛がるから今は抑えてくれ」

「……はい」


小声でそう言うと恥ずかしそうにしながらも頷いてからサーシャもローリエの頭を撫でた。母親から頭を撫でられて嬉しそうにしているローリエと、優しくローリエを撫でるサーシャ……うん!やっぱり家の嫁と娘は最高だな!


そんな内心を抑えて俺は二人に言った。


「とりあえず……座ってお茶にしよう」


そう言うと二人も触れあいをやめてから席についた。

本日は天気もよく、風も心地よい――最高のロケーションに最愛の二人がいるだけで、俺のテンションは自然と上がるが、侍女がお茶を淹れてくれている間に俺は先ほど焼いたクッキーを二人に出して言った。


「クッキーを焼いてみたのだが……食べてくれるか?」


そう言うと二人は驚いたような表情を浮かべてから――サーシャがまず聞いてきた。


「……旦那様が作ったのですか?」

「そうだよ。二人のために焼いたんだが……食べてくれるか?」


そう聞くと驚きながらも頷いてくれるサーシャ……ローリエもクッキーという単語に嬉しそうにしていたので俺はクッキーを二人の前に置いてから言った。


「ローリエのはなるべく甘めに作った。サーシャのは優しい食感になるようにしてみたが……」

「私とローリエのためにそこまでしてださったのですか?」


驚きの声を上げるサーシャに、俺は少し照れ臭そうに言った。


「……まあ、その……二人に美味しいものを食べて欲しかったからな。大して手間ではなかったし」

「旦那様……」

「おとうさま、ありがとうございます!」


感極まっているようなサーシャと、太陽のような笑みを浮かべるローリエ……なんだかこの二人の表情を見れただけで、頑張って作ったかいがあったが……まだ二人とも食べてないので俺は二人に食べてみるように言った。


「まあとりあえず……食べてみてくれ」

「はい。では……」


ほとんど同時にクッキーを食べる二人だが……その後の表情まで一緒で、嬉しそうな笑みを浮かべて言った。


「美味しい……」

「あまくて、おいしい!」

「そうか……よかったよ」


とりあえず二人の美味しそうに食べる姿に一安心する。似た者親子というか……サーシャもローリエも凄く美味しそうに食べてくれるので、俺としても嬉しくなりながらお茶を飲んだ。


「旦那様は食べないのですか?」

「ん?ああ、私は二人の美味しそうに食べる姿でお腹いっぱいだよ」


そう言うと恥ずかしそうに頬を染めるサーシャ……相変わらずの嫁の可愛さに思わず甘やかしたくなる衝動にかられるが……娘の前なのでなんとか鋼の精神で耐えた。

大丈夫……俺は紳士だ。ましてや、娘の前でやるのはサーシャとしても恥ずかしいだろうから耐えねば……しかし、少し恥ずかしがりつつも嫌そうではないサーシャの姿を一瞬想像してしまい揺らぐ精神――耐えねば!


そんな俺の葛藤を知らずにローリエはしばらく美味しそうに食べていた手を止めて何かを考えてからクッキーを一つ持ってこちらに差し出してきた。


「おとうさま……あーん」


おふ……娘からまさかそんなことを要求されるとは思わず変な声が出そうになるが……娘に触発されたのか、サーシャも恥ずかしそうにしながらも負けじとこちらに震える手でクッキーを差し出してきて言った。


「だ、旦那様……あ、あーん……」


クリティカルですよ。可愛い嫁と娘からのあーん……今ほどカリスさんに転生したことを嬉しく思ったこともないよ。いや、マジでこんな可愛い嫁と娘を放置していたカリスさんは人間じゃないよね。うん。


そんな感じで和やかにお茶会の時間は過ぎていったのだった。ローリエの無邪気な行動に触発されてサーシャが可愛く対抗してくる姿が――物凄く役得な光景で、これからは定期的にお茶会を開こうと密かに決意したのは言うまでもないだろう。




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