第2話 頭にきてやった。後悔はない
サーシャをこれから愛でることは確定したので俺は次の目的の人物――娘のローリエの部屋に向かっていた。
自分の娘に関心の薄いカリスさんの記憶ではどうにも曖昧なのだが……今年で4才になるはずの娘(親がこの年齢のわりに小さい)の部屋を記憶を頼りに進むが……この男、屋敷に関してはほとんど関心がなかったのかろくに場所も把握してなくて呆れてしまった。
屋敷の使用人達は俺が通るたびに驚いた表情を浮かべつつも礼の体勢をとるが――いや、そんなレアキャラ扱いが普通なのってどんだけだよ……
「おや?お目覚めでしたか」
「ん?ジークか」
そんなことを考えていると執事服を着た初老の男――この家の執事長(まあ、執事1人しかいないけど)のジークが少し驚いた表情を浮かべていた。
「これからお部屋に向かうところでしたが……カリス様はどちらへ?」
「ローリエの部屋に行こうかと思ってな」
「……おや?聞き間違えでしょうか?今お嬢様の元へ行くと聞こえたような……」
「あってるよ。部屋はこっちだったよな?」
いつも冷静な執事の珍しい戸惑いの感情が手にとるようにわかるが――俺がそう聞くと頷いて言った。
「ええ。こちらですよ。ところでカリス様……先ほどサーシャ様がお部屋にいたと思うのですが……」
「ん?ああ、サーシャなら部屋に戻ったよ。送ると言ったが1人になりたいと言われてしまってな」
「……カリス様。頭を打ったと聞きましたが……大丈夫ですか?」
「失礼な奴だな」
まあ、その感想ももっともだよな。今までろくに夫としても親としてもなにもしてこなかった男が頭を打ってから人が変わったように家族に関心を示す――俺でも正気を疑うが、それでも俺は平然と言った。
「今まで目を反らしてきたものを愛しく思おうと思ってな。ダメか?」
「滅相もない!ついにカリス様が目を覚まされたとこのジーク感激しております」
この程度で感激される男――なんて悲しいんだカリスさん。
まあ、これからその評価を挽回していけばいいか。
「それじゃあ、ローリエに会ってから仕事に戻るが、構わないな?」
「ええ――ですが、ローリエ様は今、礼儀作法の勉強をされていますよ」
「そうか……まあ、少し顔を見せるだけだから大丈夫だろう」
「そうですね……」
何やら含みのある言い方のジーク。まあ、とりあえず俺は気にせずにローリエの部屋に向かった。
「ここ……だよな」
部屋の前に立ってから俺はノックをしようとすると――何やら大きな音とともに怒声が聞こえてきた。俺は音を立てないようにそっと扉を少しだけ開けて中を覗くと――そこには倒れている子供に怒声を浴びせながら暴力を振るうおばさんの姿が。
――て、あれは娘のローリエだよな……いや、そんなことよりあのババアは家の娘に何をしてるんだ!
今すぐ出てきいたい衝動にかられたが――ぐっとこらえてババアの罵声に耳をかたむける。
『このクソ餓鬼!何度言えば理解できるんだ!グズ!ノロマ!』
『ごめんなさい……ごめんなさい……』
『親がろくでなしだと子供もダメなんだな!お前は本当にいらない子だよ!』
『うぅ……ご、ごめんなさい……』
プチ。うん、俺の中で何かが切れる音がしたよね。
家の娘をクソ餓鬼呼ばわりした挙げ句にいらない子供だと……よし、決めた。あのババアは許さん!
俺は勢いよく扉を開けると一目散にローリエの元に向かってからババアを見て言った。
「おい……お前は家の娘に何をしているんだ!」
「お、おとうさま……」
ローリエはいきなり出てきた俺にかなり驚いてはいたが……それを気にせずに俺は目の前ババアに視線を向けて言った。
「もう一度問おう……お前は家の娘に何をしているんだ?」
「……これはこれは公爵殿。私は娘さんの礼儀作法の教育を――」
「じゃあ、何故ローリエなこんなにボロボロなんだ?」
「そ、それは……お嬢様が転んだのでしょう」
「あくまでシラを切るならそれでもいいだろう――だが、とりあえずお前はクビ、解雇する」
俺のその台詞にババアは少し慌てたように言った。
「お、お待ちください!これは教育のために仕方なく――」
「黙れ!貴様のような無能な教師を雇うほど我が家は甘くない。今後一切我が家に関わるな。さもないと――今度は貴様本人の首が飛ぶぞ?」
そこまで言ってから俺は呆然とするババアを近くにいた侍女に追い出すように頼んでから、全員にババアの出禁を伝えるようにした。それが終わると可哀想なほどにボロボロのローリエの元へ戻ってから優しく声をかけた。
「ローリエ……大丈夫か?」
「おとうさま……」
よく見ればローリエの肌にはこれまで受けたであろう暴力の後が傷として残っていた。母親に似た銀髪の美幼女である娘のそんなボロボロの姿を見て俺は――今までのカリスさんの無能さに頭にきながらもローリエをそっと抱き締めてから言った。
「すまないローリエ……私がお前のことをおざなりにしたからこんなに痛くて辛い思いをさせてしまって……」
「お、おとうさま……?」
戸惑ったようなローリエの声だったが――俺が優しく撫でてやると次第に身体が小刻みに震えてきて、声も涙声になっていた。
「わ、わたし……いらないって、いわれて……だめだって……それで……」
「そんなことはない。ローリエは必要だ。俺の大切な娘だよ。だから――今までごめん。これからはお前のことをしっかりと愛すると誓うよ」
「……!?お、おと……うさま……うぅ……」
優しくポンポンと背中を叩いてやるとローリエはやがた我慢の限界にきたのか涙を流して泣きはじめた。
俺はそのローリエを優しく抱き締めながら――これから妻と共にこの子も愛でようと全力で誓ったのだった。
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