十四章 ヒヨドリの道案内(2)

 バサバサと羽ばたく音がしたと思うと、灰色の小鳥が若様の肩にとまりました。お腹の茶色い斑点が色鮮やかな若いヒヨドリでした。


「お前たち、昨日、俺の鳥居をくぐった子どもと狼だろう?」


 ヒヨドリが言いました。それで若様と虎千代は、あぜ道の真ん中でヒヨドリがしきりに鳴いていたのを思い出しました。


「そうだよ。お前は一の鳥居で鳴いてたヒヨドリかい?」


 若様が訊きました。


「ちがうさ。俺の鳥居さ」


 ヒヨドリは偉そうに胸を張りました。


「話は聞いたさ。面白そうだから助けてやる」


「おいおい。大丈夫かよ。ギーチョン」


 倫太郎が眉をひそめて言いました。


「ギーチョン?」


「俺の名まえ」ヒヨドリが得意気に言いました。


「はじめまして。ギーチョンさん」


 さっそく虎千代が前足を揃えてシッポを振りました。


「セッシャは虎千代と申します。こちらは七法師様です。お城のわかさまです」


「こっぱずかしいさ」ヒヨドリは翼で顔を隠しました。


「ギーチョンは、うしとら沼へ行く道を知ってるの?」


 若様が訊きました。


「知ってるさ。ついてこい」


 舞い上がりかけたギーチョンの足に倫太郎が飛びついたので。ヒヨドリはリスと一緒に地面に落ちてきました。


「あわてんじゃねえよ。この、おっちょこちょい!」


 倫太郎はギーチョンの胸にぴょんと飛びのりました。


「いいか、よく聞け。お前さんは飛べるが、この人たちは、地べたを歩くんだ。そこんとこを、よおく考えて、道案内しな」


「分かってるさ」


 ギーチョンは押さえつけられたままパタパタと羽ばたきました。


「分かってねえよ。ヒヨドリって奴らは、どいつもこいつもおつむが軽いんだよ。下見て飛べよ。乾いた場所を通っていくんだぞ。底なし沼に、はまったりしたら大変なんだぞ」


「知ってるさ。うるさいなあ。もう」


「うるさいじゃねえ!」


 倫太郎はヒヨドリの逆毛の立ったトサカをつかみました。


「いいか。若様と狼の坊ちゃんが、これっぽっちでも怪我してみろ。てめえのその羽、全部むしって串に刺して、こんがりあぶって、からしみそ塗りたくって食っちまうからな!」


「からしみそはいやだあ」


 ギーチョンがことさらやかましい悲鳴を上げました。


「いやなら、しっかり道案内しろ!」


「分かったさ」


 ヒヨドリが神妙にうなずいたので若様と虎千代は我慢しきれずに笑ってしまいました。


「若様。こいつは俺の幼馴染みでね」と倫太郎が言いました。


「頼りになる、とはお世辞でも言えねえが、めっぽう気はいい奴なんですよ。お役に立つといいんだけどね」


「助かるよ。ありがとう」


 若様はにっこり笑いました。


「お世話になります」


 虎千代がお辞儀をしました。


「じゃあ、行こう」


 ヒヨドリは羽をぶるぶるっと震わせて、もう一度飛び立ちました。


「あ、ちょっと待って!」


 若様は倫太郎を振り返りました。


「いろいろとありがとうございました。倫太郎さん。僕、行ってきます」


 若様は深くお辞儀をするとヒヨドリの後を追いかけました。

 三人の後ろ姿を見送った倫太郎は独りごちしました。


「德は孤ならず。必ず鄰り有りってね。恩返しは生き物の花道だぜ」


 リスはおかみさんを呼びました。


「カカア。ちょいと出てくるよ」


「なんだって? この忙しくって目が回ろうってときに、どこに行こうっての!」


「帰ったら教えてやるよ。じゃあな」


 おかみさんの小言を尻目に倫太郎は走り出しました。

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