3 仕事の話
僕が風呂を出ると、洗面台のある個室に僕用と思われる服が置いてあった。恐らくカーテルが置いてくれたのだろう。
「……」
彼女のことを思い出すと、やはり胸が熱くなる。
僕はその感情から逃げるように、迅速に着替えをした。
手探りでリビングに戻った僕を待っていたのは、やはりカーテルのハグだった。
正直いって、彼女の僕に対する待遇は異常だ。
「や、やめてください」
「え~?」
拒否の言葉を言っても、カーテルは笑ってかわすだけ。どこか遊ばれている気がして、少し気に入らない。
けれど、このぬるま湯の関係を気に入り始めているのも事実だ。そんなものはいけないと、今のところは自制できているけれど。
ちなみに、紫色の髪の女性はさっきみたいにソファに寝転がり、今度は酒を飲んでいた。エプロン姿のカーテルとはえらい違いだ。
そういえばと思って、僕はカーテルを見る。いつの間にかエプロンを着ている。
「これ~? 気になるの? エプロン好き?」
じっとカーテルを見つめていると、彼女は妖しく笑って見せた。僕はぶんぶんと首を左右に振って否定する。
「違います! その、何か作るのかなって」
「作らないよ?」
「え、じゃあなんで……?」
「好きかなあ、って」
そう言ってカーテルはじろりと僕を見た。その視線を感じて、僕は彼女の云いたいことがなんとなく伝わってきて、思わず赤面する。
そしてそんな僕を、彼女は愛おしそうに見つめていたのだった。
そんな中、急にさっきまで寝転がっていた女性が空の酒瓶を乱暴に床へ置いた。それから起き上がり、僕とカーテルの方を向いて言う。
「仕事だ。カーテル」
こちらを見るその女性。僕は彼女の銀色の瞳が何故か苦手だった。単純に怖いのだ。人殺しの僕が、そんな保守的な考えをしてよいのか悪いのか以前に、ただただ恐怖がそこにあった。
その視線を受けて、カーテルはため息をつくと、もう一度僕を抱きしめる。
「分かったわ、ウィスペル。この子も連れて行っていい?」
「はぁ……? 死んでもしらないが」
「守るから、ね? 一緒に行こ?」
僕は恐る恐るカーテルを見上げた。彼女の紫紺の瞳は確かに僕に向けられていたけれど、僕じゃないどこかを見ていた気がした。
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