第10戦 メディア対スターリン①
テレビから出演依頼がくることは極めて自然なことだ。彼らの性格上、私にコケにされて黙っているわけにはいかないからな。
私はプラウダとともに生放送で30分間例の三人組と、私のことについて議論するらしい。無駄な時間にも思えるが、これは私とこの番組の戦争だ。私か番組のどちらかが降伏するまで戦わなければならない。
あの演説の後、支持者の把握をしたかったから世論調査をすると、若い世代は私を支持し、古い世代は激しく非難しているみたいだった。だから、恐らく、彼らは私を一方的に攻撃してくるだろう。
その際、私の仲間はプラウダだけだが、プラウダは公の場で自分の意見を言うのが得意ではなさそうだから大した戦力にはならないと思う。
不安や期待などの様々な感情が私を取り巻いてるが、もう考える余裕は無い。何故なら、後十分で生放送が始まるからだ。読者にとっては、あまりの急展開でびっくりするかもしれないが、これには訳がある。
実は、テレビ側の出演条件が「2日後」に生放送で出演していただくという風にされていたのだ。私はこれを受諾した後に知ったのだが(しっかりとプラウダの話を聞いておけば良かった)、恐らくこれは私に考える時間を与えないというテレビ側の工作だろう。まぁ、本来私に考える時間など必要ないのだがな。
しかし、プラウダは私の態度とは裏腹に落ち着かない様子を見せている。何かを考えているかのように一点を見つめているかと思えば、時折「ああぁ!」とか言って頭をかかえるからだ。そんなプラウダに私から一言何か言ってあげようと思った。
私は自分の席から立ち上がり、プラウダの近くに寄った。プラウダはこっちに振り向かなかったが、私は気にせず話しかけた。
「実を言うと、私がテレビ出演の依頼を受諾したばっかりにこんな事に巻き込んでしまって君にはすまないと思っている」
私がそう言うと、プラウダはこっちを振り返った
「いや、別に大丈夫ですよ……何も心配ありません。ただ……」
「ただ?」
「YouTubeの生放送とかとは違うんで、少し緊張しますね……」
「そうか、緊張しているのか。だが心配するな、私がついている」
私は私なりにプラウダを勇気付けた。
しかし、プラウダは「は、はぁ、そうですか」という風な覇気のない返事をした。プラウダは依然として緊張が取れていないような顔つきでいたが、私はもう気にしなかった。
そして、私達の待機室に若い男女のスタッフが二人入ってきた。
「えーっと、出演の3分前なので、ジュ、ジュガシヴィリさん? とプラウダさんをお迎えにあがりました」
私とプラウダはスタッフの呼びかけに反応して、部屋を退室した。するとプラウダが疑問の表情を浮かべながら話しかけてきた。
「ジュガシヴィリさんて誰ですか?」
「私の本名だ」
「あ、そうだったんですか。失礼しました」
「だか、普段はスターリンで構わん。もう、慣れたからな」
それからは黙ってスタジオまで移動した。私も心の奥底では緊張しているのだろうか?
スタジオに着くと、そこは多くの人間が様々な機材を手に持って自分の仕事に没頭していた。そして、多くの人が航空機の操縦士がつけるようなものを被っていた。
私は邪魔にならないように歩いたが時々人にぶつかった。なんという人口密度だ。これでまともに労働ができるわけがないと思うのだが、ここの責任者はいったい誰だ。何か一言言ってやりたいものだ。
私達がいるところから例の3人が良く見えた。恐らく、私が登場した瞬間、あの作られた笑顔が崩れるのだろう。
そんなことを思っていると、男性の方のスタッフが私にこんなことを言ってきた
「ここだけの話ですよ、ここの番組スタッフはほとんどがあなたのアンチですが、僕らみたいな若い人はみんな応援してますよ」
男性スタッフが言い終わると同時に女性スタッフがうなずいた。
「そうか、それはありがたい」と私は一言だけお礼を言った。
そして、遂に出演の時がやってきた。
「さて! 視聴者の皆さん! いよいよ、出てきてもらいましょう。今話題の問題YouTuber、ヨシフ・スターリンとプラウダさんです! どうぞ〜」
私とプラウダは激しい拍手の中に現れた。私は背筋をしっかりと伸ばし、堂々と歩いた。眩しいほどのスポットライトが私達に降り注いだので、私は若干瞬きをしながら司会者に誘導されて席に着いた。段々と拍手が小さくなっていき、司会者が話を切り出した。
「この番組へようこそ! スターリンとプラウダ。まずは自己紹介をしようかな、僕の名前はピョートル。知ってくれていたら、光栄だね。で、君達の横にいる三人の紹介をしよう。まず、君達に一番近い女の人、彼女の名前がダリアだ」
ダリアは軽く会釈しただけで何も喋らなかった。
「そして、中央にいる白髪の貫禄ある男がマクシム」
「よろしく」
私見では三人の中では一番まともに見えた男だ。
「最後に、一番左にいるのがヴィルヘムだ」
「よろしくお願いします」
私はこのヴィルヘムという男が少し口元を歪ませたのを見過ごさなかった。ヴィルヘムは比較的若そうに見えるが、なぜ私に対して批判的なんだ? 教育者に問題があったのだろうか?
「次は君達が自己紹介してくれるかな」
私は司会者にそう言われ、プラウダより先に口を開いた
「私の名前はヨシフ・スターリン。今はユーチュバーとして活動している者です」
私がそう言うと、ダリアがツッコんできた
「芸名ではなく、本当の名前を言ってくれるかしら?」
私は無駄に彼らを刺激するのを避けるため、丁寧な言葉で言い返した
「まだ、プラウダの自己紹介が終わってないので質問はしないでいただきたい、Ms.ダリア」
私がそう言うと、少しだけ会場が静かになった。
「あ、あ、大丈夫かな?僕はプラウダTVというチャンネルでYouTuberをやってるヤーコフ・プラウダです。よろしくお願いします」
プラウダが場を計って、自己紹介を終えた。
「OK、若干険悪な雰囲気になったけど、自己紹介が終わった事だし、気にせず討論に移ろうか」
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