第56話 疲れない馬車を考えた

 他にもクロエちゃんの話で考えた事がある。

 なのでちょっとそれを口に出してみた。

「ところで教団の馬車って乗り心地が悪いよな」

「そうそう。ちょっとした段差でもお尻に響くし」

「あの振動は最初驚くよね。慣れちゃえば眠れるけれど」

「私は無理だな眠れない。気持ち悪くならないようにするのがやっと」

 皆さんの同意を得られたようだ。

 

 教団の馬車は荷物量が多いところは2頭立て、そうでない処は馬1頭で引く車輪2つもしくはメイン車輪2つ補助車輪2つの荷車タイプ。

 サスペンションなんて当然ついていないから乗り心地は猛烈に悪い。

 今まで考え無しに乗っていたが、これも大分改良する余地はありそうだ。

 確か高級な大型馬車は革紐等で車室を吊り下げる事によって衝撃を和らげていたんだよな。

 でもうちの荷物兼用馬車にはそんな大がかりな装置をつける余裕は無い。

 何せ場合によっては野菜や人を詰め込むから。

 もっと簡便な装置で衝撃を和らげるようにしたいのだ。 

 荷台の広さを変えずに。

 なら車軸と板バネで簡素かつ効率的なサスペンション等を作れないか。

 あと車輪の抵抗を少しでも和らげられるようベアリングなんかも使って。


 車軸を鉄製にして車軸と車体を繋ぐ部品にサスペンション機能を持たせよう。

 取りあえメインの車軸は板バネを使ったリーフリジット式でいいかな

 車輪と車軸の軸受け部分にはローラベアリングを使ってと。

 補助輪側は3リンク式で保持すればいいかな。

 ベアリングを使うのは同じで。

 考えてみると割と簡単な装置で大幅な改良が出来そうだ。

 実作も教団本部付属の鍛冶場でやってもらえば出来そうだし。

 強いて言えば軸受けの錆や耐久性が少し気になるかな。

 その辺は部品交換しやすいように設計しておけばいいだろう。

 走行抵抗が大分減りそうだからブレーキもつけてと。


「校長先生、何を描いているの?」

「教団馬車の改良案。最小限の改良で乗り心地と走りやすさをより良くできないかなと思って」

 考えてみればこういうモノ関係の改良ってあまりしていなかったよな。

 いきなり蒸気機関とかは反則だけれどこの程度なら大丈夫だろう。

 車軸を板バネで保持してバネを介した車体受けを作ってと。

 いや板バネよりコイルバネの方が乗り心地が良くなるかな。

 コイルバネだと前後左右に揺れるからダンパーもどきを作って装着して。

 ブレーキはワイヤーで操作するようにすればいいだろう。

 あとは出来るだけ現行の馬車からの改造箇所が少なくなるよう考える。


 そんな事を思いながら描いているとイザベルが戻ってきた。

「手紙作戦は完了なのです。それで今度は使徒様もとい校長先生、何をやっているのですか」

「馬車の改造案。これくらいならうちの工房で出来るだろ」

 図を見せながら説明する。


「なるほど、バネで振動を和らげるのですね」

「衝撃が無くなるまではいかないけれどさ。でも大分ましにはなると思うんだ。あとはこの辺を鉄で作って変形しにくくして、かつ車軸のこの部分をこうやって抵抗の少ない形にする。更にここは固めの脂を注入しておく。そうすれば今までより格段に走行抵抗が減ると思うんだ。ただそれでは止まりにくくなるから、ここに別個止まる装置をつける」


「なるほど。これくらいなら教団本部うちの鍛冶場で作れるのです。馬車もここから下は別設計で組み立てられるから構造は複雑にならないと」

「ブレーキ操作だけは必要になるけれどな。でもその程度で済むはずだ」

「なら明日にでも鍛冶場に持っていって試作して貰うのですよ」

 今日は安息日で鍛冶場はお休みだ。


「これで馬車の乗り心地はましになるかな」

「ただすぐには普及しないと思うのですよ。採用されても徐々にという形だと思うのです。ですから当分は乗り心地の悪い旧型の馬車の方が多いと思うのです」

「出来れば夏までに全部これになると嬉しいんだけれどな」

 確かにそうだな。

 そうなる為の方法は……そうだな。


「ならイザベル。もしこの試作馬車がうまくいったら、教団の馬車の制度も少し変えるように進言するのはどうだ。具体的には運航日程を公開して、安めの運賃で一般客の乗車を認める形にする。今までも信者は運んでいたんだからそう作業量は大差ないだろう。

 駅馬車より教団馬車の方が細かく街や村を網羅している。何せ教会のある場所全部を網羅しているからな。儲かる都市間しか無い駅馬車と比べたら雲泥の差だ」

 何せ元々は国の福祉の一部を担っていた生命の神セドナ教団だ。

 今でも全国全ての群庁のある町に教会があり、全てに馬車の定期便を出している。

 だからこそ貧乏だというのもあるけれど今はメリットとして活用したい。


「なるほど。でも客を載せるなら馬車も大型化する必要があるのではないですか」

「元々収穫期にはうちも大型の馬車を仕立てるんだ。ならそれを標準化して全部の場所で使えばいい。客が多そうな場所は最初から駅馬車が走っているから需要もそれほど無いだろう。乗車の際は予め予約が必要としておけば満車の際に先に断ることも出来るだろうしさ。

 これくらいなら教団改革にならないから提言しても大丈夫だろ」


「うーん。意義は認めるのです。それに便利になることは生命の神セドナの意向にも添うと思うのです。でもまずは馬車の試作をしてみて、それがうまくいったらという事にした方がいいと思うのです」

「ああ。それにこの馬車だと大分軽く動くようになる筈なんだ。だから多少荷物が増えても馬は楽な筈なんだ」

「これで上手くいけば夏の私の帰省も少し楽になるのかな」

「そこまで早期に馬車が更新できるかはわからないのです。でも半分くらいは楽になるかもしれないのです」

「という訳でこの図を清書するのですよ」

 俺の描いた図をイザベルが見やすく描き直す。

「バネや板材等の太さも入れて欲しいのです」

 そんな訳で現状認識能力で強度等を確かめながら正確な図に描き直していく。 

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