第3章 俺、商売する

第11話 商売第一弾・試行段階

 港町ネーブル。

 教団の本拠地ラテラノから歩くと3日、馬車だと1日の距離にある港町だ。

 商業が盛んな活気ある町でこの国の指定都市のひとつでもある。

 ここで俺達の教団改革その2の試行が始まろうとしていた。


 場所はこの街の生命の神セドナ教会から少し離れた港近くの商業地区。

 人通りの多い活気ある場所だ。

 港からも見える場所に3坪程度の小さな場所を借りて簡単な小屋を作った。

 厳密には小屋というかドリンク販売スタンドである。


 売るものは結局5点になった。

  〇 具だくさんのスープ 正銅貨2枚200円

  〇 スープ用ハードパンスティック  正銅貨1枚100円

  〇 すっきりさわやかスイートレモンドリンク 正銅貨1枚100円

  〇 甘くておいしいスイートオレンジドリンク 正銅貨1枚100円

  〇 プルンプルンのホワイトゼリー 正銅貨1枚100円

 どれも試食を重ねた自信作だ。

 俺自身はドリンクとゼリーだけでいいと思っていた。

 でもイザベルからこんな意見が出たのだ。

「あそこは腹を空かしている労働者が多いのですよ。ですから腹に溜まるものも併売した方が間違いなく儲かるのです」

 このプロジェクトのために地元教会から選抜したロザリア司祭も同意見だった。

 それで結局5点のメニューが決まった訳だ。

 

 メニューだけではない。

 提供方法も色々研究した。

 結果採用したのは素焼きのコップで提供する方式。

 このコップは教団の施設で1個小銅貨1枚10円以下で製造可能。

 スープとゼリーには木製の簡素なスプーンがつく。

 

 このプロジェクトに選抜したのは4名。

 ロザリア司祭、ビアンカ司祭補、カメリア助祭長、トスカ助祭長。

 いずれもここネーブル近郊出身で現ネーブル教会所属の女性専従者だ。

 専従者の司祭補以上は初級程度の施術を使える。

 つまり熱源が無くとも施術で冷たいものや温かいものを提供できる訳だ。

 本日から1週間はドリンク2種の試飲サービスをしながら商品を提供予定。

 なお商品は冷凍で保存し小ロットごとに提供の都度解凍して売る。

 こうすればロスも少ない。

 施術が使えるが故の作戦だ。


 店舗商売なんて周知されてからが本当の商売。

 だから今月は採算がとれなくてもいいとは言ってはいる。

 でもやはり出足は気になる訳だ。

 そんな訳で俺もイザベルの開店日の本日から様子見&手伝いに来ている。

「使徒様がおいでになるとは恐縮でございます」

 4人ともその台詞通り恐縮している様子。

 そう、これが普通の信徒の態度なのだ。

 イザベルみたいなのはごく例外。

 まあ慣れているから別にいいけれど。


「この業務は今までの教団の活動から考えると異端と思えるかもしれません。しかしこの活動が今後より多くの人へ救済を与える為の試金石となる可能性が高いのです。

 ただし人相手の商売でもありますから成果を早急に上げようと焦ることはありません。またここで敢えて生命の神セドナの教えを説く必要もありません。ここで落ち着いてにこやかに活動することがやがては生命の神セドナの教えを広める事につながるのです。皆様の活動に期待しております」

 ちなみにこれは俺の補佐役のちびっ子の台詞だ。

 一応これでも司教捕で元教学担当。

 その気になればこんなもっともらしい事も言えるのである。


「本日から1週間、私も一信徒としてこちらで奉仕させていただきます。この街については不慣れなので皆さんよろしくお願いいたします」

 ちなみに今の台詞が俺だ。

 使徒だけれど色々詳しくないし見かけも若いのであくまで下手に出ておく。

「勿体ない御言葉をありが……」

 この辺色々ご挨拶があって、そしていよいよ開店だ。


 なお全く客がいないと悲しいし人も寄り付かないので、一応近所の在家信者達にサクラを頼んである。

 ただしうちの信者はだいたい貧乏。

 だから試飲だけでいいよとも言ってある。

 また一見さんでも試飲実施中とわかるように『ドリンク無料試飲実施中』との立て看板も出している。

 そんな訳で早速現れた第1号は10歳くらいの小さな女の子。

 勿論試飲希望者だ。


「オレンジとレモンどちらに致しましょうか」

「ではオレンジをお願いします」

 試飲用の小さなカップに解凍したオレンジドリンクを注いで氷を入れる。

「どうぞ」


「ありがとうございます」

 彼女は受け取ってその場で口に運んで……

「あ、甘ーい、美味しい!」

 いいリアクションをしてくれた。

「これって本当にただでいいんですよね」 

「今日から1週間はドリンクだけは試飲で無料です」

 彼女は真剣に味わうようにオレンジドリンクを飲んで、

「すみません。もう一杯、今度はレモンの試飲いいですか」

 小さい声でそう頼む。

「いいですよ。2種類を1杯ずつまでは試飲ですから」

 少しずつ周りの視線もこっちに向いてきたかな。


 最初の子がレモンドリンクを受け取ると次の客がやってきた。

「これって無料で試飲できるんですか」

「ええ、本日から1週間は味を確かめてもらう為に試飲期間になっております」

「じゃあ、オレンジをお願いします」

 よしよし。

 試飲ばかりだけれど少しずつ注目されてきたかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る