第17話暴走の原因、そして同志
あれから俺は暴走の原因について考えてみた。
やはり思いつくのはあの途中で止められた詠唱の最後の言葉『心を闇に染める程の』と言う所くらいしか思い浮かばない。
だが俺の考えが正しければ、魔法とは相当危険なものになる。
詠唱の一節の意味がリアルに反映されるのかもしれないのだから。
だが、もしかしたら言葉にしなければ大丈夫なのかもしれない。
そうして色々考えてみたが、結局のところは分からないので、これから深く関わって行くであろう魔法というものを本腰を入れて学ぶ事にした。
「ほら、行くわよ。何ぼさっとしてるのよ」
「まだ、余裕はあるだろう? 何かあるのか?」
「あるわよ。私も早くAクラスに行かなきゃならないんだから。
行ったらちゃんとエスコートしてよね」
ああ、なるほど。だが早く登校すればいいと言う物でも無いだろうに。
それに、お前は既に魔法使えるだろ? なんでAクラスに上がれないんだよ。
「なあ、何でお前Gクラスのままなの?」
「あんたの一件以来、自習なのよ。私は行ってなかったけど」
「そうか。悪かった」
「責めてる訳じゃ無いわ。それより行くわよ」
「分かったよ。じゃあ皆、行こうか」
と、フィー達にも声を掛け、屋敷を出て学院に向かう。
今は俺だけがクラスが違うので一人Aクラスへと向かった。
まだ早い時間ではあるが、教室に入り身近なやつに挨拶をしてみた。
「おはようございます。最近編入してきた、フェルディナンドといいます。
先日Aクラスに行けと言われたのですが、このクラスに空いている席はありますか?」
と、少女一人、男子二人で談話していたであろう三人に声を掛けてみた。
そのうちの一人の男子が対応してくれた。他の者は様子だけ伺っている。
「じゃあ、クラスメイトだね。
僕らは後一年もしたら卒業だけどそれまでよろしくね。
それと席は多分指示してくれるよ。
よかったらそれまでこっちで談話でもしないか?」
「そうですか。ではお言葉に甘えて、ご一緒させて頂きます」
前回の失敗を踏まえて言葉遣いを丁寧な物に改め、好意にありがたく従った。
「いや、僕たちは平民だし、そんなに畏まらなくていいよ。
僕はラフル、こっちの二人はロニーとベッティ」
「よろしく~」と少女ベッティが「何かあれば聞いてよ」と男子のロニーが好意的に迎えてくれた。
ラフルは活発そうな短髪の細い少年、ロニーは大人しく優しそうなぽっちゃりした少年。
ベッティは目の下にある隈、そばかす、ぼさぼさな髪、をどうにかすれば下町の美少女、と言う感じの少女だ。
「ありがとう。
Gクラスで失敗しちゃってちょっと不安だったから嬉しいよ。
よろしくね」
「ああ、聞いてるぞ。悪いが笑わせて貰った」とラフルが言い。
「教室の天井を焼いて雨を降らせたんですってね」とベッティがニシシと笑顔を作り。
「本人の前で失礼だよ。僕は凄いと思ったよ」とロニーが言った。
「いや、気を使われない方が気楽だよ。たださすがに入学当日に一時間も経たずに皆の前で詠唱をさせる先生は、どうかと思ったよ」
「あ~ルーカス先生か。悪い人じゃ無いんだけどね……
あんなだからGクラス担当なんじゃっていう噂だね」
ああ、そう言う評価なのね。おおむね予想通りだな。
にしても助かったな。話しかけた相手が良い奴等そうで。
「でもなんで今日まで学校来なかったんだ。一週間くらい休んでたよな?」
「色々事情があってさ、学校に来れる状態じゃなかったんだ」
と、話をしている最中に一人の少女が割って入る。
金髪巻き髪のロングヘアー、髪留めなども高価そうだ。
「大方怖くて学校に来れなかったのでしょう?
まあ、寛大な私はそんな貴方でもクラスメイトとして位なら認めてあげましょう。
気にせず、共に魔法の訓練を致しましょう」
とても、尊大な物言いだが邪険にするつもりは無い様だ。
だが、容姿にこの態度、この子は貴族なのだろう。
どう言葉を選べば良いのだろうか。
差を付けないと、いけなかったりするのだろうか。
まあ、取り合えず最初は全員に丁寧に接して行けばいいか、と言葉を返す。
「ありがとうございます。私の名はフェルディナンド。
貴方の名前を、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
と、貴族風の会釈をして言葉を返すと、彼女には受けた様で――
「まあ、これはご丁寧に。私はブリジット・アーチボルドですわ。
身分の方は伏せさせて頂きますわね。ここは学校ですので」
――と、制服のスカートをつまみ綺麗なお辞儀を返してきた。
「そうであられましたか。
この度はアシュリー殿には紹介状を書いて頂き大変お世話になりました。
お礼を申し上げます」
と、返すと彼女は意外そうな顔をして、こちらを見た。
「そ、そう、貴方がそうなの。お兄様から聞いております。
ど……どうか此度の失礼をお兄様にはご内密に……お願いを……」
「え? ブリジット様は失礼などしていないと思うのですが……
これから、どうぞよろしくお願いいたします」
「え? ええ、こちらこそ」
と、彼女は再び会釈をして『流石はお兄様が仲良くしろと言うだけはありますね』などと漏らしながら、その場を離れた。
「ブリジットって最初だけは何故か相手を威嚇するわよね。本当は優しいのに……
ねぇねぇ、もしかしてフェルディナンド君ってもしかして貴族だったり?」
と、興味津々な視線を送るベッティ。
「マジかよ……笑って悪かった」と、冷や汗を流すラフル。
「いや、貴族じゃ無いし、それとフェルでいいよ、あとラフル、気にしてないから」
「あ、先生、来たみたいだよ」と、ロニーの言葉で教室の皆が動き出した。
そして先生が入って来た。
「よぉ、諸君おはよう。
今日は朗報があるぞあの噂の少年、今日は来てるみたいでな。
ルーカス先生が連れて行くと言っていたから、今日は新しい仲間が増える事になるだろう。皆、仲良くしてやってくれ」
「先生、彼はもう教室に居ますわ、そういうもの言いは如何なものかと」
と、自分の事は棚に上げたブリジットが、注意する。
「ほぉーブリジットの嬢ちゃんがそんな気回しをするなんてな。
ああ、アーチボルド家の紹介状を持って来たんだっけか。
んでその話題の少年はと……」
と、教室を見回しながら先生は言う、だが分からないのだろうか?
俺は気を効かせて後ろから出て、先生の背後から再度教室に入ったのだ。
「ええと、先生? ここに居ますが……」
と、俺は先生の背後から声を掛ける、と同時に教室に笑いがあふれた。
「おおう、びっくりした、お前は暗殺者か何かか?」と先生が仰け反りながら言い放つ。
「すみません、一緒に入った方が分かりやすいかと思いまして」
「ああ、気が付かないで悪かったな。では改めて紹介する。
この少年があの話題のフェルディナンド君だ。
んで慣れるまでの世話役はと……どうしようかな。ん~」
ブリジットが自分を指差している、それに気が付いた先生は
「じゃブリジットに、と言いたい所だが……何でもかんでもお前に任せるのもなぁ。
偶には他のやつ……アルファに頼もう。任せていいか?」
ブリジットは突っ伏した。
そしてアルファと言う少女はこちらを見て「まあ、少しの間だけなら」と答えた。
「よーし、決まりだ。
じゃあ取り合えず今日も詠唱呪文の相性を調べる所から始めるか」
……俺は立ったままだし、先生の名前も聞いていない。
適当だなこいつ、と呆れながら聞いてみた。
「あの、私はどの席に着けばいいのでしょうか?
それと、先生の名前も伺っていないのですが……」
「ああ、わりぃわりぃ、俺はオズワルド。
席はアルファの隣な。じゃ、皆始めてくれ」
……何を? 何を??
と先生をジト目で見たが反応がない。
仕方が無しに席に移動して、世話をしてくれるはずのアルファという少女に聞いてみる事にした。
「よろしくお願いします。それで今は何をすれば良いのでしょうか?」
「うん、よろしく。自分に合う詠唱を考えるだけ。簡単に言うと自習」
なるほど、確かに自分でしか出来ないな。だけど俺は完全な初心者なんだが……
「わかない事だらけなんですが……逐一アルファさんに聞く訳にはいきませんよね?」
「それは遠慮して貰いたい。先生は常にいる。そっちで聞いて」
さっきの少しの間なら。と言う言葉を考慮して一応聞いておいてよかった。
なので俺は席について早々立ち上がり先生の元に行き疑問を投げかけた。
「オズワルド先生、魔法についての質問をさせて頂いてもよろしいですか?」
「ああ、もちろんだ。その為にここに座ってるんだからな」
教師が使う机の椅子にダルそうに腰を掛けていたオズワルドはそれが俺の仕事だと、笑顔で頷いた。
「では、私が先日、騒ぎを起こしてしまった事の詳細は聞いておりますか?」
「ああ、聞いている。それがどうかしたのか?」
「いえ、私は何故かあの日からあれから精神を病み、人を殺したいと思うほどのいやな衝動に襲われました。魔法の詠唱による可能性はありますか?」
「いや、火と水を出す詠唱だろ? そんな事は無いと思うが……」
「唱えた詠唱は『ともし火、揺らぐ小さな火、火は炎へ、炎は爆炎へ、心を闇に染める程の』と言う所でルーカス先生に止められました。
思い当たる原因が心を闇に染めると言う事くらいしかないのです。
幸い最悪な事は起こらずにすみましたが、仲間の心を傷つけてしまいました。
お心当たりがありましたら教えてください」
本当に他に思い当たる事が無いので、念を押すように問い掛けてみれば、彼は「なんだそりゃ、聞いてねぇぞ」と立ち上がった。
「……そりゃそんなフレーズ入れたらそりゃ心も病むわ。
ルーカスはそこら辺、教えずに詠唱させたのか?」
「はい。授業初日、教室入って一時間経ってなく『魔法はイメージだとか魔力で現象の表現をするとか詠唱は属性をイメージしやすい様に』としか教わっていません」
「ああ、確かにあいつは取り合えずそういうだろうな。まあ合っているんだが……
まあ、事なきを得たそうだし今から教えるぞ。
表現やイメージなどのあいつの下りは知ってると仮定して進める」
事なきを得た訳じゃないんだが、彼にそれを言っても仕方がないので「はい、問題ありません」と話しの続きを促した。
うん。文句つけるよりも再発防止として魔法の事を深く知るほうが重要だ。
「なんでもじゃ無いが、イメージはそのまま反映される。
だから詠唱の鉄則として、負の感情が混ざる表現はしてはならない」
やっぱりそうか。精神を病む魔法を自分に掛けた様な物だったのだな。
「生と死の理を犯してはならない。
考えた詠唱は現象が固定するまで本番で使用してはならない」
まあ、そうだよな。だがどうなってしまうのかは少し気になる。やらないが。
「他にもまだあるが、まあ後は危険性は多少低くなる、おいおいでもいいだろ?」
「ええと、では取り合えず、もう一つだけ。
イメージで変わってくる魔法なのにどうして固有名称があり、その効果も固定されているのでしょうか?」
これは魔物討伐の際に知った事だ。中級の魔法と初級の魔法は見せて貰った。
そして威力、効果、共に少しの差しか無かった。
だが、イメージを自分で考えそれを元に発動させるならば違う形状だったり大きく威力が変わってくるものだろう。と疑問に思ったのだ。
「それは、魔法とは、大昔に大賢者が神の力を借りて作ったとされているからだ。
大賢者の知恵と神の力により俺達には属性魔法、そのすべてが魂に刻まれていると、文献には記されている。って話だから効果が一緒なのは賢者様のイメージが元となっている為って事だな」
「それを引き出し、扱う事で効果の大きい魔法が使える様になるんだ。
そこまで来てようやく初級だの中級だのと、魔法使いとして認められる。
だが、それを引き出すには自分なりに正しくイメージ出来る詠唱とそれに対して魔力を乗せ操ると言う行為が必要になってくる」
ああ、この先生適当に見えて割と親切だな。
個人相手でもちゃんと教えてくれるんだな。
「今は魂に刻まれもんを引き出す為に、どうすればいいのかをこの授業で模索しているんだ。
授業内容はサイクルでやっている。
基本的には俺達先生が魔法を見せる、それを見てお前たちはイメージを言葉にする、それを試すためにグラウンドで詠唱実験をする、大まかにはその三つだ。
違うのは魔法の種類だけだな。例外も無くは無いが」
「ありがとうございます、大変良く分かりました」
「ほんとかー? じゃあ何が分かったかをまとめてみろ」
うへ、熱心な先生だった。待て待て。今思考加速して考えるから。
「私の疑問に対する答えは魂に刻まれた魔法を使っている為。
魔力の差で出る程度の差異しか無いのは当然だったと言う事。
魂に刻まれた魔法を使うのは単に効果が大きいからと言う事。
それが使えないと魔法使いとして認めてもらうのは難しい事。
あとは魔法毎に、見る、考える、実行する。と言う事でした」
「おお、ちゃんとわかってるじゃ無いか。
よしよし、次もちゃんと教えてやるからな。
ちゃんと覚える奴にはちゃんと教えてやる」
ああ、試されていたのか。確かに覚えない奴に何を教えても意味は無いしな。
「ありがとうございます」
と言うと、オズワルド先生は少し思案気な顔をした。
「だがなぁ……
天井に届くほどの炎が出せたと言う事は、初級位は余裕で扱えるはずなんだ。
そのイメージを固められれば勝手に思い浮かぶものなんだがな。
魔法名とそのイメージが」
……ああ、忘れてた。
俺の魂はこの世界のじゃなかったわ。
それであいつステータスにあの項目を追加したんだな。
けど……なんて答えよう。適当に言うのはしっぺ返しが来ると学んだからな。
分からないと言うのが無難だろうか。
「浮かびませんでしたね……」
「そうか、まあその内何とかなるだろ。
それよりお前……いや、フェルは何レベルなんだ?
記載に乗っていなかったが……
一応担任教師としてこれは把握しておかないといけない事だ。
言いたがらない者も多いがここで学ぶ以上は割り切ってくれ」
「え? 聞かれたのは初めてなのですが……」
「は? あのカス……
いや、まああれか。すぐにあれだったから聞く前にって事か。
それにしたって適性検査で聞いておけよぉ」
と、オズワルド先生は嘆く、まあ普通に考えたら必要な事だよね。
「えっと……秘密にして頂けるんですよね?」
「ああ、勿論だ。教員と、学院長、以外には漏らしてはならない。
そういうルールになっている。外に漏れたと言う話は聞いていないから安心していい」
「分かりました。」と、俺はステータスをすべて開示した。
「いや、レベルだけでもいいんだ……が……はぁ?」
と、先生は目を見開き、息を大きく吸い込んだ。俺は嫌な予感がした。
「183レベルだとぉおおおおおおおおおお」
「はぁ……たった今漏れましたね、外に……」
まったくこの国の人間はどうなってるんだ……思慮が足りない……
「……すまん。だがこれは一体……まさか……」
ああ、考えている事は分かるよ。
小さい子が高レベルだとあれを知っていれば、疑ってしまうよな……
「はぁ。何を考えているかは分かります。
俺が人を殺した経験は一度だけ、国王陛下を守る為に他国の間者であろう人間を殺したあの時だけです」
「国王陛下……暗殺?」
「ああ、これも一応ご内密に。
もう無事に終わった話ですが、不必要に振り撒いて良い話ではありませんしね」
「君は、一体……」
「今は一人の学生と思って頂ければそれで。
あと、暴力で解決する趣味はありませんので、そこはご安心下さい」
「そうか。だが、驚いた。
ふむ、フェルの先生になれば将来、鼻が高いかもしれないな」
「何を言ってるんです? 先生? 大丈夫ですか?」
こいつめ、情報漏洩の罰で、精一杯、可哀そうな者を見る目で見てやる。
「いや、ちゃんと教えて名実ともにって意味だぞ? そんな不安そうな顔すんなよ」
と、俺はオズワルド先生と最後にふざけた会話をした後、席に戻った。
すると、アルファが声を掛けて来た。
「ねぇ、さっきの先生の話、本当なの?」
「さあ、先生はお疲れなんじゃ無いでしょうか?
それよりお時間があるのなら色々教えて頂きたいのですが、詠唱の話でもしませんか?」
と、ごまかしこの話を終わらそうとすると……
「分かった。
交換条件、私が知ってることは何でも教えるから強くなる方法を教えて欲しい」
と、彼女は真剣な目でこちらを見た。だから俺は問う事にした。
「強くなるってどのくらい?」と。
その問いに対し彼女は正確に答えた。
「200レベルを超えている者を殺せるくらいに」と。
俺は彼女と真剣に見つめ合い、数十秒経過した所でどこまでかは分からないが本気だと言う事を理解した。
「はぁ、まったく……俺の周りには物騒な奴ばかり集まってくるな。
まさかお前も元奴隷で人族を殺したいって口じゃ無いだろうな?」
と、ため息と冗談交じりで軽口を叩くと、彼女はものすごい勢いで立ち上がり座っていた椅子がうしろに転がる。そんな事はお構いなしに俺の胸倉を掴み上げる。
「どう言う事? 話して!!」
と、必死な形相で顔を近づけてきたが、徐々に平静を取り戻し口を開く。
「ううん、教えて……下さい。お願い……します」
と、ゆっくりと胸倉をつかんだ手を放し、頭を深く下げ懇願した。
「ここで話す話じゃない。放課後、俺の屋敷に来い。それまで待て」
「分かった。ありがとう」
と、その後の彼女はぽつりぽつりと魔法の事に関する事を助言してくれた。
そして放課後、俺はアルファを屋敷に連れて行く為に、彼女と共にメル達と合流した。
「また、女作るんだ……私の事、捨てないでよね」
アルファを見たメルが、口を尖らせジト目を向ける。
「阿呆。この子、アルファさんはおそらくお前が言う同志ってやつだぞ。
だから、屋敷で話した方がいいと思って連れて行く事にしたんだ」
「嘘!? ほんとに? フェルは最高ね、私の為だったなんて。ふふふ」
「じゃあ早く行きましょう」とメルは急かし始め、アルファも応じ皆で競走する羽目になってしまった。おかげですぐについたのだが、せっかちな奴らだ。
「はぁっはぁっはぁっ……あなた達、早い。驚いた」
「いや、こっちも驚いたさ。シャノン達より早いなんてな」
「そんなの当たり前じゃない。
取り合えず続きは中でしましょフィー達は勝手に入ってくるのだし」
「そうだな。じゃあ、えっと、アルファさん、中へどうぞ」
「ええ。それと、呼び捨てていい。約束、守ってくれたし」
それを言うにはまだ早いと思うんだが。
彼女にとっては初めての足がかりを見つけた感覚なのだろう。
メルも最初はとても食いついて来た。
これは長い付き合いになるかもしれないな。と思考しながら居間へ案内する。
「それで、早速、話を始めようか、二人とも早く情報が欲しそうだからな」
「二人とも?」
と、アルファが告げる。
俺は話していいよな? とメルに視線を送るとメルは自信満々な顔で頷き『早くっ』と急かした。
「メルは人族の奴隷で強制的に殺しをやらされていて経験値のタンクとして扱われて居たそうだ」
「じゃあ、私と一緒……だから貴方達はそんなに鍛えているの?」
「まあ、そうだ。いや、ちょっと違う。
俺の目的はいずれ起こるであろう戦争に備えてだな。
メルの場合は復讐の為。利害の一致ってやつだ」
アルファの目が輝いた。メルに近づき両手で手を握った。
「私もそれに連れて行って欲しい。あいつらは絶対に許せない。
特にあの男ネヴィルの奴だけは……」
と、言った瞬間メルが凄い形相をし殺気を放った。
「私も許せない。なんて言葉じゃ収まらないけど、あいつは死んだはずよ。
だから私たちはここに居る。違う?」
「違わない。だけどあいつには上司がいた。
そいつも私は絶対に殺さなければならないの。何を利用してでも」
「あ~悪いな……
口を挟ませてもらうが、一緒に行きたいのならその考えは捨ててくれ。
仲間を利用したりとかそういう事はダメだ。
それが無理だと思うのなら自力でやってくれ」
「でも、そんなに甘い奴等じゃない。
そのぐらいしてもまだ足りない。私は確実に殺さなければならない。
なんとしても……
だからメルさん、共に何を利用してでもあいつらを殺る為に共闘をしてほしい。
甘い考えを持つよりは私達二人のが確立は上がるはず」
「いいえ、確率は下がるわ。
貴方、フェルを甘く見過ぎよ。力も心もフェルは強いわ。
私は必ず達成できると信じている。
まあ時間は掛かるでしょうけど、天国にいる友達にはそれで勘弁してもらうって私はもう決めちゃってるのよ。だからごめんね」
「どうして……貴方も私と同じ思いをしたのでしょう?」
「ええ。二年前、フェルに会うまでは私も同じ考えだったわ。
最初は甘そうなフェルに体を差し出してその代わり利用させて貰おうって思ってた。
三年前の隷属が解けた直後は何度も頭がイカレそうなくらいになって発狂もしたわ」
「だったら、だったら……せめて彼の強さを私に見せて納得させて。
じゃないと私は決め切れない。私はあいつを殺す時までは死ねないの。
騙されたり間違えたりする訳には行かないのよ」
「そ、だったら一人でやんなさい。間違えない保証何て出来ないし。
私なりに見込みが立った以上貴方に手を貸す義理はないわ。
利用するだけの間柄なら、それが当然でしょう?」
彼女は下唇を噛みしめながら叱られている子供の様にその場に立ち尽くした。
このままでは彼女は一歩も動かないだろう。
俺が同じ立場でもこのまま立ち去ると言う選択肢は取らない。
だから俺は二人に語りかけた。
「まったく、メル、アルファ、お前たちは前提が間違ってないか?
まあ言葉で言ったからと言って行動は変わらないだろうが覚えて置け。
お前たちは加害者ではなく、被害者だ。
完全に操られていた以上お前たちがやった事ではない。
やる事は変わらなくてもそこは覚えて置けよ」
「そんな都合の良い耳当たりの良い言葉なんて何の意味もなさない。
貴方は私の、最後の生きる理由を否定するのか」
と、アルファは歯ぎしりをしながら怒り、問う。
「お前今、怒りで思考能力が落ちて居るだろ。そんなんでいいのか?
まあ俺が振った話だし問いには答えてやるけど、そんな奴と共闘は出来ないからな」
と、前置きをして、俺は再度口を開く。
「物事は正確に把握しろ。動機の元を見失うな。
お前たちの動機は大切な者を殺させられたと言う事なのだろう。
そのせめてもの弔いの為に根源となった人間は絶対に許してはならない。
そういう事で良いんだよな?」
彼女は頷く。それを見た俺は話を続ける。
「では答える為に質問をさせて貰う。
今俺がメルに隷属されて命令を受けお前を怪我させたとしたら悪いのは誰だ?
真面目に答えてくれ」
「それは勿論分かってる。命令した奴だ」
「ああ、もう一つだけ付き合え。
その場合怪我をさせられたお前は、俺に謝罪や償いをして欲しいと思うか?」
「そんなの分かってるっ。馬鹿にするな!」
「ああ、だろうな。だがお前はその先で間違えていないか? 死んだ彼らの為と」
「何がおかしい。何も間違ってはいないだろうがっ!」
「求められていない事をやっているのにか?」
「……」
「改めて答える。お前たちがやりたいからやっている事なんだよ。
俺なら大切な者が復讐に狂って生きる事になるなんて迷惑中の迷惑だっ!」
「そ……そんな……」
「だが、俺がお前の立場ならそいつは絶対に殺すだろう。
だからこそ俺はメルに協力している。俺の言いたい事は理解出来たか?」
「理解……したくない」
と、彼女はうつむき再び黙ってしまった。
「そうか、分かったみたいだな。ならお前とは協力できそうだ。
片手間で良いなら鍛えてやる。明日までにどうするか考えておけ」
アルファは顔を上げ唖然としていた。
理解する事を否定した私をどうして鍛えてくれるのだろうと思っているのだろう。
「あ~あ、引き受けちゃった。
まあ今回は私の為でもあるだろうし良いんだけど。
……でもやっぱりなんかやだぁぁ!!」
と、メルはいきなり暴走し俺を両手で弾き飛ばし、俺はまた一瞬ではあるが空を飛んだそして迫る壁に顔面からダイブし突き刺さった。
余りに突然の事で思考が追いつかない。
ちょっと待て、何故俺は今攻撃された?
俺は今上半身が客室、下半身が居間にいる。
どうしよう。屋敷をこれ以上破壊したくないのに上手く抜けない。
どうにか抜けないかとじたばたしてると、アルファのものと思われる笑い声が聞こえて来た。
「あっ……あはははは、意味わかんない。
意味わかんない。意味わかんないぃぃ」
ああ、この女はな。たまにこういう事を平然とする奴なんだ。
お前も一緒にいたらこんな目に合うんだからな、と声に出さずに思っていると……
「でしょー、こういう奴なのよ。真剣に考えてる自分が馬鹿らしくなるのよ」
ちょっと待て意味分からないのお前だぞ?
もう許さん……絶対にだ……絶対にだ……
「ええ。貴方が考え方を変えた理由、分かった気がする」
なん……だと……
何故メルに同意しやがったんだ……もういいや。
なんか疲れたと、壁に挟まったまま、すべてを諦めぐったりした。
「兄さま……私が上手く引っ張る」
と、諦めていたその時にシャノンが助けに来てくれた。
シャノンの助けを借りて客室に出た俺は居間で共感をしあっている。
二人を尻目にシャノンに言った。
「ありがとう、シャノン。今日はお兄ちゃんと一緒に寝ようか」
と、言うとシャノンは目を見開き『いいの?』と珍しく俺を引き寄せながら問いかけてきた。
「ダメな理由なんて無いさ。さあ行こうか」
と、シャノンを撫でながら俺は眠りについた。
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