【90本目】七人の侍(1954年・日)

 平八の「斬り出したらキリがない」で明らかに反応に困ってる五郎兵衛がツボ。


【感想】

 おそらく世界でもっとも有名な日本人監督・黒澤明の、おそらく最も有名な映画です。1954年の4月に封切られたこの映画は、当時の通常映画の7倍に匹敵する予算を費やし、結果700万人を動員する大成功を収めた映画です。

 また海外からの評価も高く、ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞したほか、1956年のアカデミー賞でも美術商、衣装デザイン賞の2部門にノミネートされています。


 もう時代考証やら製作背景やら、いろいろな見方から無限に語れる映画だと思うんですけど、やっぱり僕がこの映画で一番唸るのは【善と悪のはっきりしない展開】【勝者と敗者のはっきりしない展開】ですかねー。

 1950年の【羅生門】でも一見無垢な一般人の志村喬演じる杣売りが盗みを働いていた、なんて展開を見せた黒澤明監督ですけど、この【七人の侍】でも、一見かわいそうな被害者の百姓たちが、実は落ち武者を襲って武器を盗んでいた、というまさかの事実が明らかになります。

(ハリウッドのリメイク映画【荒野の七人】はこの辺の要素が欠けているのが残念と言えば残念でした)


 そしてラストでは、侍の方が七人中最終的に生き残ったのは三人だけ、という悲惨な状況にも関わらず、百姓たちが特に彼らに感謝することなくめでたしめでたしという感じで自己完結している、というエグイ描写が挟まれます。


 海外の映画監督たちに並々ならぬ影響を与えた映画と言われてますけど、当時まだハリウッドで勧善懲悪の西部劇が主流だった時代において、日本人はもちろんのこと海外の人々がこれに触れたときの衝撃は計り知れなかった、ということは想像に難くないですね。 


【キャラについて】

 【個性豊かな複数のキャラクターが目的のためにチームを組む】という構成ゆえにスーパー戦隊やジャンプ漫画など、いま日本で愛されてる様々なコンテンツに影響を与えたって言われている作品ですけど、まあそんな風に言われるだけのことはあるというか、今でもキャラ創作のお手本として使える描写が要所要所に詰まっていますね。


 特に話のキモとなる七人の侍のキャラクター創作にじっくり時間をかけているのが3時間半という長尺を効率的に生かしてるなって思わされます。赤ん坊を人質に取った盗賊に頭を剃って詰め寄る勘兵衛、木刀で負かせてから真剣勝負で相手を打ち負かす久蔵、威勢がいいだけのバカなのになぜか侍と百姓たちに同行する菊千代、といった感じで。


 で、そうやってそれぞれのキャラを立たせているからこそ、キャラ同士の掛け合いも血の通ったものになっていますね。キャラをじっくり立たせないと、菊千代と平八のボケツッコミみたいな関係や、勝四郎の色恋沙汰を影から見守る久蔵などにあそこまで心動かされることはなかったでしょう。


 あと七人以外のキャラクターが、準レギュラーからモブに至るまで立っているのも見どころですね。

 個人的に好みだったのは利吉たち百姓を馬鹿にしつつも、勘兵衛相手に百姓たちの苦境と覚悟を説く人足(演:多々良純)ですかね。


【好きなシーン】

 上記のような考えさせられるシーン、創作のお手本になるシーンにあふれている映画ですが、それら以上に好きな要素として、後半の七人が来る野武士の襲来に備えてじっくりと対策を講じているシーンがあります。

 百姓に武器の使い方を教えたり、バリケードを築いたり、田んぼに水を入れて入れないようにしたり、全体を生かすために外れの家々を敢えて見捨てたり、と、七人が力技で野武士を追い払う都合のいいヒーローではなく、実際の戦に携わる侍のように、地形や相手側の人数、こちら側の状況をしっかり把握したうえで頭を働かせて対策を考える、という展開が、なんというかすごく地に足がついているって感じでそそられるんです。


 【シン・ゴジラ】が【頭のいい人々が目の前の問題に対して意見を出し合って、対策を講じ、実行に移す】という褒められ方をしますけど、そういうタイプの映画って元をたどっていったらこの映画に行きつくんじゃないかな?なんて考える時があるんですよね。

 また高難易度のゲームや縛りプレイを対策を講じてクリアする人たちって、丁度勘兵衛や五郎兵衛みたいな作戦を脳内で練ってるんじゃないかな?と思ったりもします。


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