【28本目】サイコ(1960年・米)

【感想】

 戦前から1960年代にかけて活躍し、【サスペンス映画の神様】の呼び声も高いアルフレッド・ヒッチコックの【鳥】に次ぐ代表作です。

 続編が4作目まで公開されたり、1998年にリメイク版が公開されたり、撮影秘話がそのまま映画になったり(2012年公開の、ずばり【ヒッチコック】というタイトルの映画)していることからも、ヒッチコック映画でとりわけ観客の心をつかんだ作品であることがわかります。

 

  映画ってどういう展開が物語の軸になるか、っていうのが大体序盤の段階で理解できる仕組みになってますよね。【あ、このルークって若者が帝国っていう悪い組織に立ち向かう物語なんだな】とか、【あ、この穂高っていう子がなんやかんやあってヒロインと一緒に世界を変える物語なんだな】みたいな感じで。


 この【サイコ】っていう映画も、最初マリオンという一人の女性を軸にして物語が進むので一見【あ、大体こういう感じで話が進むんだな】っていう予想がしやすい映画になっています。

 それを中盤で、見事に覆してくるのがこの映画です(有名なヒロインがシャワー中に悲鳴を上げている場面がまさにこのシーンです)

 それなりに映画に慣れ親しんでいて、序盤の展開を見て大体どういうあらすじか見当がつくような人ほど、衝撃を受けることうけあいです。


 またヒッチコック映画ではヒロインはたいていブロンド(モナコ王妃・グレース・ケリーとか)、という法則があり、前半に登場するジャネット・リー演じるマリオンもその例に漏れないので、過去作をリアルタイムで観てきた公開当時のヒッチコックファンが今作を劇場で観た時のショックはすさまじいものだったことでしょう。


 とにかく物語も作風も前半と後半で全く異なる映画なので、一度見て度肝を抜かれることをお勧めいたします。ただあまりにもいろいろひっくり返すシナリオを【サスペンスの神様】ヒッチコックの手腕で傑作に昇華した作品なので、創作のお手本にはあんまりならないかもしれません(邦画やミニシアター系洋画で下手に似たような展開したら大けがしそうw)。

 


【好きなシーン】

 ジャネット・リー演じるあの女性がああなる展開ももちろんうまい具合に度肝抜かれて好きですが、後半になってキーパーソンとなる青年・ノーマン・ベイツの喋るシーンは時代を先取りすぎな陰キャっぷりが前面に出ててすごい身につまされる気分になります。クラスに一人はいる暗い生徒がそのまま大人になったようなキャラがこのノーマン・ベイツなんですが、彼を語る際の重要な要素として【マザコン】というのがあり、何度か登場する会話シーンはヒッチコック映画を観ていると非常に興味深いものに映ります。

 ヒッチコック映画にはヒロインと同じくらい母親がわりと活躍する、という法則もあり、監督前作の【北北西に進路をとれ】でも自作の【鳥】でも、ケーリー・グラントが演じるようなめっちゃ渋い男前が、何かあったとき結構母親に頼ってたりします。

 ヒッチコック自身がどうだったかは知らないし語ってもあんまし意味ないですけど、そういうヒッチコック映画で現れる【賢母幻想】みたいなのの闇の側面を描いたのが、この映画なのかもしれません。


 あとはマリオンが挙動不審で運転中に、同じ時間帯の職場の上司や同僚の会話がマリオンの想像という体でアフレコで展開される、というシーンは、サスペンス映画の巨匠ならではのアプローチって感じで変な感動がありましたね。まあその後色々それどころじゃなくなるんだけどw

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