【76本目】シェイプ・オブ・ウォーター(2017年・米)

 トム・ハンクス映画連続してたので【フォレスト・ガンプ】で締めようと思ったけど、あまりにも言いたいこと多すぎてまとめられる自信なかったので断念。


【感想】

 映画界で最高の栄誉と言われるアカデミー賞、その中でも年間で最高の作品を決めるアカデミー作品賞では、【SF映画は鬼門】というジンクスが存在していました。

 なんせ【スター・ウォーズ】ですら、【アニー・ホール】に負けたくらいですからね。


 非常に異色なやり方でですが、2017年のアカデミー賞でそのジンクスを破った映画が、この【シェイプ・オブ・ウォーター】です。

 同映画はアカデミー作品賞の栄冠を勝ち取り、それ以外にも3部門を受賞、12部門にノミネートされました(受賞、ノミネート共に同年最多)。


 ギレルモ・デル・トロといえば、日本のオタクには王道ロボット映画【パシフィック・リム】で知られていますが、他にもアメコミヒーロー映画の【ヘルボーイ】やダークファンタジーの【パンズ・ラビリンス】、で最新作が実写版の【ピノキオ】と、監督作からSF・ファンタジーを幅広く愛していることがよくわかる映画人です。【シェイプ・オブ・ウォーター】はそのデル・トロ監督が、少年時代にハマったSF映画【大アマゾンの半魚人】(興味あるんだけどレンタルだとなかなか置いてないんだよな)の要素を取り入れてラブストーリー風味に仕上げた映画になっています。


 舞台は1962年、つまり公民権運動が認知されだしたくらいの時代のアメリカですが、ここでキーパーソンとなるのは半魚人というか、【鱗感】のすごい生き物です。ベタベタなSFホラー映画ならこいつが次々と人々を殺す謎の怪人になりそうなもんですが(初代ライダーの旧2号編にもああいう半魚人怪人いたな)、そんなモンスターともいえる生き物と、人間の女性(ディズニープリンセスみたいに若くはない)が恋愛で結ばれる、というストーリーがこの映画の特徴になっています。

 【キングコング】や【美女と野獣】などモンスターと美女のロマンスは過去の銀幕でもお目にかかれましたが、悲恋に終わる【キングコング】や結局人間だった【美女と野獣】と違い、この映画の半魚人とヒロインはしっかり添い遂げてセックスにも及ぶ、という偉業を成し遂げています。


 主人公・イライザとあの半魚人の種族の壁すら超えた恋愛(とセックス)は違う生物同士の純愛、という観点で語られることが多いですけど、1960年代のアメリカって考えると別の文脈が見えてきますね。

 アメリカ社会には黒人やインディアンを同じ人間として扱わなかった黒い過去があるわけで、それを考えるとあの半魚人は人種マイノリティのオマージュだった可能性もあるんですよね(そう考えると鎖でつながれてるのがまた……)。

 映画の舞台となる1962年当時はまだ異人種間結婚は違法でしたけど、【ラビング・愛という名前のふたり】を見てもわかるように当時も間違いなく人種の壁を越えた恋愛は存在したわけで、それを考えるとあの当時人種故に結ばれなかった男女への救済の意味も込められてるのかもしれないな、と思ったりもしました。


【キャラについて】

 発達障害持ちで喋れない女性、黒人の同僚、ゲイ男性の同居人、ソ連のスパイの科学者、そしてとらわれの半魚人と、様々なマイノリティが登場することがこの映画の特徴ですが、どこだかのレビューで【マイノリティたちが団結して彼を救う物語】って感想を見たんです。

 その文章見て僕、めっちゃモヤモヤしたんですよね。

 そりゃ映像見てりゃ確かにマイノリティ同士が協力してるし全否定はできないですけど、よく見ると彼らが半魚人を助けた理由は各々異なるんですよね。

 イライザは半魚人を救いたいからって気持ちで行動してるけど、ゼルダやジャイルズはイライザを助けたくて結果的に行動しただけだし、スパイの人は研究対象としてしか半魚人を見ていない。

 だから自分としてはむしろ、マイノリティたちはそれぞれバラバラな生き方をしているし、半魚人のようなイレギュラーな存在がきっかけとならない限り、団結し合うこともない、という多様性社会の一側面を暗喩した物語のように見えました。


 また、一見悪役である大佐は、郊外に家庭を持って暮らしており、そこでは善き夫であり善き父親なんですよね。

 郊外に一戸建て住宅を持って妻子と暮らす、ってのは当時のアメリカ(白人)社会における【普通の暮らし】だったわけですけど、そのことを考えるとあの大佐は悪役と言うより、普通に生きて普通に暮らし、普通にマイノリティを区別(差別)していた当時のマジョリティ社会の一員に過ぎなかった、という見方もできるわけで。

 ジャンプ作家・和月伸宏先生が【悪役】と【敵役】は異なるし自分の漫画では分けてる、なんて発言を語ってたりしますが、この映画のあの何気ない大佐の家庭での一風景を見ていると、彼の本質はただ単に結果的に敵になっただけの何の変哲もないアメリカ人だったのかもしれないな、と思いました。

(前後2回の手洗いは軟弱ってアレも当時の価値観だったんかな?)


【好きなシーン】

 SF映画ながら、在りし日のアメリカにも、様々なマイノリティが存在したってことが描写されている映画なんですけど、だからこそふとした拍子でマイノリティに対する圧力や、マイノリティ同士の対立みたいなのが見えてくる場面があって、当時のアメリカ社会(下手したらアメリカ社会そのもの)をリアルに描いてるなって思えて興味深かったです。

 具体的には人当たりの良かったはずのパイ屋の兄ちゃん(オタワ出身なので彼もマイノリティの一人。マジョリティ寄りやけど)がジャイルズがゲイとわかった途端掌返して嫌悪感むき出しにしてきたシーン、後半のゼルダの旦那が妻をかばうためとはいえ、イライザと半魚人を大佐に売っちゃうシーン。

 前者は【普通の善良な人間】が差別をしていることのリアルさ、後者はマイノリティがマジョリティの顔色を窺って差別する側に回ってしまうという【段階的な差別構造】をはっきりと描写していて背筋が凍るシーンでした。

 

 あとは序盤のセンターで半魚人が送られた実験室が(あの奥にある変な曲がり方のパイプw)、めっちゃショッカーとかのアジト的というか、1960年代当時のSF映画のセット感あって非常にツボでした。

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