【33本目】エイリアン(1979年・米)

【感想】

 宇宙貨物船に突如謎の宇宙生命体が入り込み、乗組員を次々と殺戮していく物語であり、SFホラー映画の元祖にして金字塔ともいわれる映画です。

 続編が【4】まで作られたうえに、クロスオーバーもの2作、前日譚2作が現代までに作られるほどの人気を誇るシリーズの記念すべき第1作で、1979年のアカデミー賞で視覚効果賞を受賞、美術賞にもノミネートされています。また外国人という意味だったAlienという英語に、宇宙人という意味を定着させた映画でもあります。


 【スター・ウォーズ】や【未知との遭遇】などを観て宇宙にロマンを見出していた当時の人々に、『宇宙にそんなものないよ』と冷や水を浴びせた作品、と言っていいでしょう。公開時のキャッチコピー【宇宙では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない。】が、この映画での死の空間としての宇宙を物語っています。

 そして同時に、【スター・ウォーズ】や【未知との遭遇】で未知なる場所へといざなってくれる方舟であった宇宙船は、この作品では誰も助けに来てくれない閉鎖空間と化します。


 対話などまるで意味のない捕食者として、宇宙生命体を描いていたことも印象的です。【スター・トレック】以前のSF映画では宇宙生命体は侵略者として描かれていた(ここでも紹介した【宇宙戦争】とかもそう)ので対話の通じない宇宙人自体は珍しくないのですが、エイリアンの場合レーザー光線とか核爆弾とかじゃなくて、チェストブレイクやインナーマウスなど肉体的で生々しい攻撃(まさに餌を捕食する肉食動物のような感じで)で人類を殺戮してくるので、並みのSF映画の悪役では味わえないリアルな不快感があります。


 また人間が最適解を導き出すために作り出したはずのコンピューターが、人間の意思などまるで考えない存在と化すという展開も、【2001年宇宙の旅】的で興味深いです。

 そんな感じで人類にとって誰も味方がいない(人類同士ですら怪しい)状況というのが、宇宙船という閉鎖空間とは別の心理的な閉鎖空間を作り上げていて、単なるSF映画以上の緊張感と、単なるホラー映画以上の不安を煽ってきます。


 女性(それもランバートに比べてごついリプリー)が最後まで生き残ってエイリアンを倒したことなどから、よくフェミニズムの観点で語られることの多い映画ですけど、【テルマ&ルイーズ】の音声解説を聞く限り、リドリー・スコット自身はそこまで考えていなかったという感じですね。ただ観客をあっと驚かせたいためにああいう展開にしただけ、というか。

 ただでさえ人気シリーズな上にそういうジェンダー的考察とか一杯されてる映画なので、人に薦めるときは思わず難しいことをオタク特有の早口で語ってしまいそうになる映画ですが、単に【面白いSF映画】【面白いホラー映画】として薦めた方がいいのかもしれません。


  関係ないですけど、よくミレニアムファルコン号やエンタープライズ号が【今の科学理論では絶対に飛びそうにないデザインだからこそ、飛んでいると却ってSF感が出ている】っていう語られ方をするんですけど、ノストロモ号のデザインってその面では上記二機よりも優れてないですか?

 

【好きなシーン】

 冒頭のワクワク感は今見てもすごいですね。静かに不安を煽るBGMと、上部に表示される謎の線が、時間を経てALIENになっていく流れ。バー―――ン!!というイントロと共にタイトルがでかでかと表示される【スター・ウォーズ】とはあらゆる面で対極をなすオープニングですよ。


 あと冒頭でコールドスリープから目覚めた直後に食事とってるシーンは、この後彼らに訪れる惨劇を考えるととても印象的なシーンに映ります。宇宙戦艦の軍人とかじゃなくて、貨物船の乗組員が主人公で、食事中にボーナスがどうとか語っているシーンは、彼らが特別な力を持つ騎士でもなければ、宇宙の運命を担う戦士でもなく、仕事中のサラリーマンであり、ただの一般人(アッシュもこの時点では)であることを印象付けるシーンでした。相手を一人の人間として描く、という意味では、このシーンは後のタランティーノ映画の世間話シーンに通じるものがあるかもしれません。

 リプリーもこの時点では、モブAって感じですね。


 異星人の死体を乗組員が調査している間、リプリーが何か危険を察知したかのように目を開けるシーンも、強キャラの片鱗を見せている気がして好きです。

 

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