第28話 静かな圧迫
シーン。
ドワじぃから弓を買いに行く道。いつも通っている道は、距離は同じ、格好も同じ、なのに何故かとても長く感じる。
理由はわかっている。買い物になるし、お金が持てない俺は朝早く父の元へ行こうとした。しかし、途中でルイに会った際にどこか行くのか聞かれたので、ドワじぃからの話をすると、預かっていたお金もあるし、僕が一緒に行くよと提案されたので一緒に行くことになったのだが、ルイが1言も喋らないのである。
昨日の事もあるし、やっぱ怒ってるのかな?
身代わりどうこうのとこで結局皆追い返したんだよな。なんか、無言で歩くのって気まずすぎる。
「な、なぁ、ルイ?」
「なぁに?」
ルイの声はいつもと変わらない。変わらないが、冷たい気がする。もちろん気のせいだよっと言われれば気のせいなのかもって思う程度の様な気がするので、勝手に思ってるだけかもしれない。
「昨日さ、なんか途中で話終わったじゃん?
やっぱりツバキが身代わりになったって怒ってる?」
ルイの足がピタッと止まり、目があった。あ、そうだ。今日は1回も目があってなかったんだ。だから、違和感があって、怒ってる様な気がしてたんだ。
今日初めて合う、薄茶色というよりは琥珀という表現が似合うビー玉の様に透き通る目はいつもの様な温かみある色じゃなくて…怖くなった。
「怒ってるよ」
怒鳴られたわけでもない、平坦なか細い声に、体は自然とビクッとしてしまう。
「ご、ごめ、俺」
別に泣くような事でも無いのだが、ルイに嫌われたかと思うと、自然と涙がポロッと落ちる。
あれ? おかしいな。なんでだろう。
家族と思っているからかなのか、ぎゅうっと胸が締め付けられ苦しくなる。おかしい。他の誰かに嫌われるより、ルイに嫌われる方が苦しいし、怖い。
なぜそう思ったのかはわからない。しかし、そんな事は今はどうでもいい。それより、涙よ止まれ。怒ってるって言われて泣くとか、めんどくさい奴すぎる。
しかし、止まれ、止まれ、女の子じゃないんだがらと思う俺の意志とは裏腹に涙は余計出てくるのであった。
ちゅっ。
まぶたに温かいものが触れる。それが、ルイの唇だと気づくのは数秒かかった。
「え? はっ? なにっ? どうして」
「涙止まるかなって、あと可愛くて?」
確かに驚きで、涙は止まったけど、代わりに顔がかぁっと赤くなるのが自分でもわかる。
男に言われて、男にキスされたのに、心臓はドキドキと鼓動を速める。おかしい。きっとこれはびっくりしたからに、違いない。俺はノーマルだ。
チラッとルイを見ると、先ほどの無表情で見つめる目とは違ったニコッとした笑顔を返してくれた。
「ヴァイス。僕はね。相談してくれなかった事に怒ってるんだよ?」
「え?」
「それに、女の子なら早めに言ってくれないと、僕これでも色々と悩んだんだからね」
「ん?」
「ふふっわかってない顔してるね。ツバキを身代わりにする事になる様な事より、それを相談して欲しかったって事。2人なら策も考えれるでしょ?」
確かに、最初から相談してたらもっと話はスムーズだったのかもしれない。
「これからは、相談する」
「うん!」
ルイは満足そうに頷いた。
「なぁ、ルイ。色々って何を悩んだんだ?」
「それはね…」
今度はほっぺに温かいものがあたった。
「秘密。まぁ、これから覚悟してね」
「うん?」
ルイは本当によくわからない。俺に何回もキスしても良い事ないのに、なんでしてくるのだろう。元の世界のアメリカ人は挨拶にキスするので、ルイもそんな感じなのだろうか?
「ねぇ、ヴァイス…。そろそろ下のシュヴァどうにかしてくれる?」
なんの事だろうと思うと下を見るとシュヴァが、ルイの足をガジガジ噛んだり引っ掻いたりしていた。結構な力なのか、ズボンがボロボロになっているし、血が滲んでいる。
「うわっ」
俺は慌ててシュヴァを引き離し、抱きかかえる。
「何してるんだよっ」
「ヴァイス、泣かせた! 敵!」
「違うよ、大丈夫」
なだめるが、落ち着いてくれない。唸り超えに気づいた周りの目も気になってくる。
「あ~嫌われちゃったかな?」
「そんな事言ってる場合か!」
「ガルルル」
泣いたせいか、妙にすっきりとしている。それは、安心感からもあるのだが、俺がその事に気づくのはまだまだ先のことである。さて、ドワじぃの店へ急ぐか。ルイの消毒もあるし!
「いこう!」
ルイの手を引っ張ると、ふふっと笑い声が後ろから聞こえた気がした。
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