第248話 親の心子知らず
ジーナス山周辺を舞台とした鉄機兵団と奴隷たちの戦は、開始当初から、ふたつの戦場に分かれておこなわれる形となった。
まず、第一の戦場は、空。
中心となったのは、もちろん、魔人城コルベルカウダである。
ただしこちらの場合、鉄機兵団が攻撃側でコルベルカウダが防御側、というように攻守がはっきりと分かれていたので、むしろ、合戦と言うより我慢比べになったと言ったほうが正しいのかもしれない。
すでに鉄機兵団は様々な兵器を持ち出してきていたが、この空にはじめて現れたときのあの金の真球形態で、コルベルカウダはすべての攻撃を無傷でやりすごしていた。なにしろ内部では穀類の栽培もできるのだから、このまま半永久的な籠城戦となっても十分に耐えられそうであった。
もっともそうなると、建国はともかく、それを帝国に認めさせるという夢は遠のいてしまうわけだが……。
そして、第二の戦場は、地。
こちらの中心は、N・S獅子王である。
ガアァアン……と、例の雄叫びは絶え間なく轟き続け、そのどよみはクラウディウスの陣目指して、東へと、着実に移動していた。
「……よし」
テリーはケーブル式昇降機が降りるまでの短い間にこれだけの戦況分析をすませると、
「頑張れ、旦那」
と、残り一メートルの高さを、ひょいと飛び降りた。
その途端、
「わ!」
ばらんばらんと、上空からまかれたものはなんだろう?
テリーは片ひざついたシューティング・スターのかげに逃げこんで、その金属製のおけのようなものが降りやむのを待った。全部で二十個ほどもあっただろうか。
いくつかは、シューティング・スターにも直撃した。
「あ……!」
これはあれか。
テリーは思い当たって、はたと手を打った。
これは薬きょうだ。ただし、L・Jライフルのものではない。
もっと大型の、たとえばグレネードランチャーのようなもののそれではないだろうか。
……鉄機兵団も変わったなぁ。
テリーは腕の中のラッキーストライクをながめて、しみじみと長いため息をはいた。
かつて、テリーが抜けたころ、剣と盾を重んじる旧態的な騎士道精神は、鉄機兵団内にまだ色濃く残っていたものである。
そのために、メラクやライフル部隊などというものは色物のように見られていたし、部隊の拡充も予定されていなかったのだ。
それが、ねぇ……。
どこの部隊でも堂々と火器を使うようになったとは。
あるいは、手持ち式の大砲だと思えば、騎士道にも反しないのかもしれない。
L・Jを『大型の鎧』だとして、無理やり元老院に認めさせた過去も帝国にはある。
「まぁなんにしても、あんなものが降ってくる場所でやり合おうってんだから正気の沙汰じゃない」
テリーは空をちょいと確認して、下草の生い茂る森の中へ駆けこんだ。
……さて。
テリーの目と頭は目まぐるしく動いた。
数ヶ月に渡ってにらみ続けてきた地図データと視覚からの情報。このふたつを頭の中で照らし合わせて自分の現在地を特定する。
そして次に、風だ。
風向風速。高低強弱。
すべて肌を使って計測する。
どこだ……俺なら、どこに。
「……う!」
そのとき、こつん、と、後頭部に当たったもの。
テリーはもちろん、その正体を言い当てることができる。
……ひざまずけ。
と、その冷えた鉄の管に居丈高に命じられ、テリーはそれに従った。
ラッキーストライクまで奪い取られ、腹と言わず頭と言わず、全身が、かぁっと熱くなった。
「ずるいよ。これじゃあ勝負にならないじゃないか」
「勝負?」
錆を含んだ声が返ってきた。
顔は見えないが、見るまでもない。
スナイパー将軍オットー・ケンベルと、その愛銃、ナインボールである。
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