そして、甦る―(14/34)


※~[凛・トロピカル]視点~※



「はぁ……はぁ……」


ようやくあと一人……。

倒しては増え倒しては増え……さすがにもう控えはいないでしょう……。


「テメェ……よくもっ……!!」


床にはチンピラどもの死骸(気絶しているだけですが)がゴロゴロと転がっています。

とっても邪魔です。

ちなみに、生徒達は会長さんとピーチさんが回収済みです。


「凛! ラストスパートじゃ!」


おじいちゃんは隅で観戦しています。


「……逃げたければ逃げてもいいですよ。こちらからは襲いませんので」


「はぁ? ざけんじゃねぇよ!!」


めんどくさいな……こっちも結構疲れてるんですが。

ゴロゴロしてないで、もうちょっと体力維持しておけばよかった……。


「こいつらの仇……思い知れっ!!」


男は猪突猛進の勢いで迫ってきました。


「がむしゃらですね……」


私は正面から迎え撃ってやろうと身構えます。


──しかし、その時。


『──そこまでだ』


「!」


え……嘘……。マジですか……。


「Σ兄貴!!」


わーお、増援だー。

しかも7人だよー。

ラッキーセヴンだよー。

トロちゃん大ピンチだよー☆


──誰かヘルプミーッ!!!!


「おーおー、派手にやられたなぁ。こいつら全員、あの女がやったのか?」


「は、はいっ……女のくせに、意外と腕が立つようでして……面目ありません……!」


もしかして、あの一際エラそうな赤毛の人が、お頭なのかな?


「へぇ……女にか……。そいつは確かに面目ねぇ……なぁ!!」


「Σうっ!!」


「!」


なっ、仲間を殴った!?

殴って回し蹴りでブッ飛ばしましたよあの赤毛!


「お前らみてぇなザコが俺の下にいたかと思うと、ヘドが出る」


やっぱりムゴいな……こういう世界の人達って……。

気分悪くなってきた……。


「おいテメェ」


なんだよ赤毛のアンちゃん。


「お前、多少はできるんだってなぁ? 俺にもその腕見せてみろよ」


「お断りします。別に見せたくて見せているわけではありませんので。今日のところはお引き取りください」


さっさと帰れ帰れ。


「俺が直々に相手をしてやるっつってんだよ。意味わかってんのか?」


はて、なんのことやら。


「お前に拒否権はねぇってことだよ!!」


「!」


そんなのナシだぁぁぁー!!!!


「くっ……!」


速い……!

しかも隙のない動き……!

この人……ただの喧嘩慣れじゃない……明らかに武術やってた人の動きだ……!


「オラオラ! 何逃げてんだよ!」


避けるので精一杯っ……!


「凛! そやつの重心は右に傾いとる! 右のスネを狙うんじゃ!」


ちょっ!

あのジジイ、バカじゃないのっ!?

そんなこと大声で言ったら相手にも聞こえて……!


「させるかよ!!」


「ぅわっ」


狙えるものも狙えなくなるじゃん!


「何しとるんじゃ凛!!」


あんたのせいだよ!


「おいジジイ!! さっきからうっせぇんだよ!!」


「あひゃあぁぁぁぁ!!!!!!」


しかもまた襲われてるし!


「──殺人蹴りぃぃぃ!!!!!!」


「Σぐはっ!!」


よかった、ピーチさんが守ってくれた。


「テメェ……よそ見してる暇あんのかよ!!」


「Σ!」


しまっ──!


「うっ!!」


み、鳩尾にっ……!!


「げほっげほっ……!!」


ヤ、ヤバいっ……これはヤバい……!

クリンヒットしたっ……!!


「ふんっ、女がでしゃばってくるからだ」


「凛・トロピカル君っ!!」


「来ては……いけませんっ……! うっ……げほっ……!」


どうしようっ……このままじゃ……他の皆さんがっ……!


「凛! 逃げるんじゃ!!」


立っているのもつらいのに、それができたら苦労しない!


せっかくここまでやってこられたのにっ……私は……こんな奴に負けて終わりっ……?


強くなりたくて……ずっと頑張ってきたのに……こんな奴に……こんな奴に……!


これじゃあ、あの時と変わらな……──い?


え……? あの時って……どの時……?


……何考えてんだろ……。


そもそも、私って……強くなりたかったんだっけ……?


「お前みたいなでしゃばり女のツラ見てると、吐き気がすんだよ。──黙ってひっこんどけ」


私が床に膝をつくと、赤毛の男は、高慢極まりない嘲笑で右足を高く掲げ、振り落としてきます。


「っ……」


私は、降ってきた相手の足を掴み取ろうと腕を伸ばしました。

受け止めきれる自信なんてなかったけど……それでも、決死の覚悟で……。


「Σ!?」


しかし、その覚悟は無駄な決心に終わりました。

相手の足は頭上で止まっています。

その足を掴んだのは、私の手ではありませんでした。


「──最近の不良は、女相手でも本気でやんのかよ……!!」


「カ、カスさん!?」


そう。

私の代わりにその足を受け止めたのは、カスさんでした。


「チッ……汚ねぇ手で触ってんじゃねぇよ!」


赤毛の男は、カスさんの手を振り切ると、数歩下がって間合いを取りました。


「カスさん……何故ここに……!?」


「さあな。気づいたら、体が勝手に動いてた」


勝手に、って……。


「まあ、俺だけ逃げんのも癪だったしよ……今さらだけどな」


「今さらでも、助かりました……ありがとうございます」


ホント、もう少し遅かったらやられてたよ私。


「──お姉ちゃん……!!」


「危ないぜオカミさん!!!!」


「?」


今、聞き覚えのある声が聞こえた気が……──って!

熱血さんに羽交い締めにされた守護神さんが窓の外に!?


「会長! ご無事ですか!?」


うわっ、エラお嬢様が窓枠飛び越えて入って来た!!

なんだなんだ!?

正生徒会全員集合!?


「み、みんなっ、どうしてここに!?」


「申し訳ありません。どうしても、と言う加美を引き止めきれませんでしたわ」


「加美くんが……!?」


あのジャジャ馬ちゃん、意外と根性あるじゃない。


――あ、そうだ!

別に無理して対峙しなくても、守護神さんに気絶させてもらえばいいじゃないか。

そうすれば無傷で捕まえられる。


「加美さん、カモンカモン!」


「!」


私が呼ぶと、彼女は熱血さんに肘鉄を喰らわして飛んできました。


「お……オカ、ミ……さんっ…──バタリッ!」


バタリッ! じゃねぇよ。


「お姉ちゃん……小丈夫……!?」


「いえ、大丈夫ですよ」


でも正直、小丈夫って感じかな。


「おいトロ! なんでそんな奴呼んでんだよ!」


「この子は強い子だからです」


さあ守護神さん、あの赤毛にギャフンと言わせてやってください!


「……やだ……怖いっ……」


「え?」


何言ってるんですか!

あなたが一瞬目するだけで、奴はイチコロなんですよ!?


「……こっち……睨んでるっ……ひぃっ……!!」


な、なんてことだ……!

怒りよりも恐怖が勝ったらアウトなのか!

そいつは誤算だった!


「……トロ、お前は何がしたい」


「ごめんなさい」

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