第52話 過去との決別
ご主人さま率いる獣人の特殊部隊と、ケイン率いる冒険者達が城の門前にて対峙していました。
ゴランさん率いる"FOX"の面々はテラスに潜んで狙撃体勢のようです。因みにガトリングはお蔵入りが決定しました。というかさせました。
流石に虐殺によるミンチ死体量産は味方の指揮にも関わりますので。
「ユリア、助けに来たんだ! 戻って来い!」
ある程度の距離まで来た所で足を止めたケインが、剣をご主人さまに向けながら声を張り上げます。両サイドに居る彼のお仲間らしい女性四人が憎々しげにユリアを睨んでました。
なんか前より増えてませんこれ、ご主人さまの方がマシに見えるあたり相当ですよ。
「…………」
言われているユリアは頭痛を覚えているのか、コメカミを人差し指で揉んでいます。
事情を知ってるボクとルル、ご主人さまは完全に"何を言ってるんだこいつ"状態です。どの口で助けに来たというのか、一年近く遅いのです。
「陛下から聞いたんだ、君はその男に奴隷として買われて無理矢理従わされているって! だから俺が助けに来た! 今度は間違えない、もうユリアを離さない……だから戻ってこい!」
それにしても、一番不可解なのは彼が本気で言ってそうな点です。
騙そうとか利用しよう気配が全く感じられないのですよ不思議なことに。素でやってるとしたらむしろ怖いですね、今日びダメな勇者役だってもうちょっと頭を使います。
よもや自分から奴隷に売った女の子を"助けに来た"とかもはや失笑すらでないレベルです。
「何を勘違いしているかしらないけど、私は好きで旦那様と、シュウヤ様と一緒に居るの」
「何言ってるんだ、そいつは他に女を囲っているんだろ? 見ただけでろくでもない奴だって解る!」
キッとボクとルルを見た後、ご主人さまを睨んで言うケイン。
「いやお前が言うなよ……」
完全に呆れた様子の葛西さんの呟きに、獣人達どころか相手側の一部冒険者まで一緒になって頷いてます。ブーメランどころか良く磨かれた鑑に向かって真正面からレーザーをぶちかます所業です。
というかあの人まさか、自分がやらかしたこと正確に認識していないのでは?
それはそれで恐ろしいのですが、まさかねぇ。
「貴方こそ何言ってるのよ! 第一私を奴隷として売ったのは貴方じゃない! ふたりとは友達だし旦那様にだって良くしてもらってる! ケインと居た頃よりずっと幸せなんだから! 邪魔しないで!」
普段意識して使っているらしい丁寧な言葉をかなぐり捨てて、ユリアが怒りをにじませた顔で叫びます。
まぁ女子会とかで話を聞く限り、彼は素でひどかったらしいですからね。甲斐性がないどころかデリカシーもない、良いのは見た目と剣の腕だけだったそうです。それでも故郷では顔良し剣の腕ヨシで相当モテたのだとか。
「あのときは仕方なかったんだ! 借金で今にも売られてしまいそうな子が居て、困っている女の子は助けなきゃいけないんだ!」
「その子のためなら私はどうなっても良かったっていうの!? ふざけないでよ!」
「違う! ちゃんと助けに行くつもりだったんだ! だけど――」
そこでケイン某(なにがし)はご主人さまを睨みました。
「そいつがユリアを手に入れるために俺のことを邪魔して! 金を用意するのが間に合わなかったんだ!」
「何でそうなる」
どこからその結論に至ったのか、風が吹いたらどうのこうのってレベルじゃありません。色々とすっ飛ばしすぎて桶屋もびっくりですよ。
応対しているご主人さまが早くもグロッキー状態です。MPから削りにかかるとはやりますね。
「マーフから聞いたんだ! そいつが裏で手を回して俺の仕事が失敗するように手を回したり、受けられないようにしたりしてるって!」
背後にいる女性が一瞬だけニヤリと嘲笑うのが見えました。……なるほどなるほど。
「おまえ騙されやすすぎなのです!」
思わず突っ込んでしまいました。どう見たって利用されてるというか騙されてますよあなた。
「騙されているのは君たちの方だ! そいつは悪いやつなんだよ! だから目を覚ますんだユリア!」
自分を信じるってこういう感じなのですかね。ボクには理解できません。
それにしても……ほんとむかつく野郎なのです。自分のやった事を棚に上げて都合の悪いことは他人のせいとは。
「だから! ユリアを奴隷として売ったのは貴方でしょう! 頭おかしいんじゃないですか、彼女を買うためにいくら掛かったと思ってるんですか!!」
あの借金のせいで着るはめになったコスプレ衣装が2桁後半に届く勢いなのですよ。
それまでは同じ日本人ということもあって多少は遠慮してくれたり、こっちを慮ってくれたのに、口実が出来たせいでガンガンいこうぜになりやがったのですこの変態野郎は。
「違う! 売ったわけじゃない、少しの間手伝いをしてもらう代わりに金を借りたんだ! ちゃんと迎えに行くつもりだった! それを――あいつが、ユリアを奴隷として手に入れるために邪魔をしたんだ!」
……お、おう、こいつはダメそうです。完全に話を聞いてません。
「それでも俺は必死になって金を作って迎えに行った、でもそこの男が奴隷として買い取った後だった!! だから今度こそユリアを取り戻してみせる!」
冒険者たちまで"うわぁ"な顔でケインを見てるのですが。いいんですかそいつと仲間扱いで。
「……あれは人売りです、貴方はユリアを奴隷として売ったんですよ」
売りに出される前に買い戻せるかどうかでしかないのです。というか別の女の子のために身売りさせるなんてクズと言う言葉が生ぬるいのです。
言動からして稼ぐ自信があったからやったけど、失敗したので自己保身に精一杯な感じが見受けられます。
「君たちはそいつに騙されているんだ!」
「その自信の根拠はどこにあるのよあんた……」
ルルがあきれ果てて言うと、ケインは自信満々に群衆の中から一人の男を引っ張りだしてきます。はて、この茶髪の男もどこかで見覚えがあるのですが。何故かボクとご主人さまを睨んでいます。
「彼もそいつの数々の非道を教えてくれたひとりだ! その男に濡れ衣を着せられて、奴隷にさせられたんだぞ!」
「久しぶりだなお前ら……」
うーん、思い出せません、困り果てて唸っていると、隣でルルがあっと声をあげました。
「海に行った時に同行した下着泥棒!」
「あぁ、あのぱんつ泥棒ですか!!」
ルルとユリアに色目を使った挙句、下着を盗むことに夢中になって見張りを疎かにした彼ですか、やっと思い出しました。一生鉱山だと思ったのに、何故ここに?
「ふ、くくく、運良く宝石の鉱脈を掘り当ててな、その功績で労役を免除されたんだよ!」
むぅ、借金による奴隷労役なんてそんなものですか。まぁニンジンが吊るされてないと人というのは懸命に働けませんからね。中途半端に人道的なのが悪い方に働きましたね。
「てめぇらに解るか!? 毎晩毎晩、おっさんが夜這いしようとして来やがる恐怖が! 冷たい床で眠り、ろくな食事も与えられず毎日肉体を酷使される辛さが!!」
「あーまぁ一応」
「てめぇは黙ってろクソゴブリンが!!」
「はいはいわろすわろす」
怒鳴られました。
悲惨な牢獄暮らしには一家言あるのですが、自分が世界で一番不幸病にかかってしまった彼には届かないようです。
相手するにも値しませんね、せめて黒まな板くらい語彙を増やしてからもう一度挑戦するのです、三下が。
「それで、折角解放されたのに復讐のために戻ってきたのですかパンツ・ドロボー」
「名前みたいに言うんじゃねぇ!! このまま、こけにされたままじゃ終われる訳がねぇだろ!」
うるさいのです、犯した罪は消えません。お前は一生ドロボーの名を背負い続けて感動のエンディングを台無しにするがいいのです。
「というかそいつは濡れ衣じゃなくて、本当に私らの下着盗んだんだけど?」
「それも全部その男が仕組んだ事だ!」
自信満々にご主人さまを指さしますが、周囲は完全に白けた空気です。
というか何で冒険者サイドまでしらけているのでしょうか。何のためについてきたの、君たちの存在意義は何なの。
「少し落ち着くのです、話について来てるの貴方のハーレムの方だけですよ」
「失礼なことを言うな! 彼女たちは俺の仲間だ!」
あぁ、うん。
「因みにユリアは?」
「ユリアも俺の仲間だ!」
もう突っ込む気力がなくなってきました。対話の時間まるっと無駄だったのでは。
「私はもう旦那様の物なの! ケインの仲間になんかならない!」
力強い本人の否定も何のその、彼はしつこく戻ってくるんだ、そんな奴と一緒にいちゃダメだと必死に説得かっこわらいを続けています。
「さっきからストルフの英雄であるケイン様に失礼よ貴女達!」
「ケイン様、あんな悪者さっさとやっつけちゃって!」
そしてどんだけ思考停止なのか、取り巻きの女性たちは忌々しげにユリアを睨み付けて口々に叫びます。彼は何故ここまでモテるのか。もうお家帰りたいです。
……いえ、思考停止じゃなくむしろあっちが操っているんでしょうか。女のいうこと何でも信じる強い男なんてそりゃあ良い手駒でしょうし。
「なんかもうこのやりとり全部無駄じゃないですか?」
「……昔からそうだったんですよ、一度思い込んだら全然人の話聞かなくて」
どうやら言葉で理解させる事は諦めたらしく、ユリアは疲れた様子で肩を落としました。
「どうしてあんなのがかっこよく見えたのか、今では全然解りません」
なんと見事な遠い目でしょうか。
まぁ恋は盲目って言いますからね、今もご主人さまがド変態っていう欠点は見えてないようですし。彼の時もそんな感じで流していたのでしょう、流すにしては少々欠点がきつすぎる気もしますが。
「待っていてくれユリア、必ずそいつを倒して君を正気に戻してみせる!」
「もういいからとっととはじめません?」
相手するだけ体力の無駄な気がしてなりません。そんな事よりさくっと殲滅しましょうよ。
「そうだな……」
あきれ果てたご主人さまが攻撃の合図をしようと手を上げかけた時、獅子の意匠が施された戦斧を持ったユリアがそっと前に出ました。
「……旦那様、ケインとの決着は私につけさせて下さい」
その表情は真剣そのもの、どうやら自分の手で終わらせたいようです。ご主人さまもそれが解ったのかただ頷くだけで周囲に視線だけで指示を飛ばし、身構える冒険者達に向かって手を差し向けました。
「総員、攻撃開始!」
◇◆ADVENTURE RESULT◆◇
NO BATTLE
◆【ソラ Lv.105】
◆【ルル Lv.43】
◆【ユリア Lv.46】
◇―
================
ソラLv.105[1057]
ルルLv.43[431]
ユリアLv.46[461]
【RECORD】
[MAX COMBO]>>40
[MAX BATTLE]>>40
【PARTY-1(Main)】
[シュウヤ][Lv125]HP3700/3700 MP4060/4560[正常]
[ソラ][Lv105]HP70/70 MP1285/1685[正常]
[ルル][Lv43]HP950/950 MP22/42[正常]
[ユリア][Lv46]HP2540/2540 MP51/91[正常]
[フェレ][Lv40]HP445/445 MP1350/1450[正常]
[マコト][Lv85]HP5500/5500 MP100/170[正常]
================
「わたし、あいつらきらい!」
「ボクもあいつらきらいです」
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