第39話 雨降って地固まる
ご主人さまの懐柔作戦は怖いくらいに上手くいきました。
ランプや火種からスタートした品物の提供は、今や主婦の味方の魔導コンロから水汲みポンプ、上下水道や街道にまで至り、汲み取り式だったトイレも水洗になりました。ついでにリフォームされた各家にはお風呂まで付いていて、住民からの評価はうなぎ登りです。
汗水たらして集落のために働くご主人さまの姿に男連中もすっかり洗脳され、一緒に酒を酌み交わしながら建築技術や料理について学んでいる状態です。
最近になると新しい仕事先として屋台に興味をもつ人も出てきているみたいで、ボク達が屋台から手を引く日も近いかもしれません。
まさかほんとにNAISEIをやらかすとは。自重しねぇチート野郎なのです。
◇
「なぁ、あんた達、クリスをみなかったか?」
今日も興行を終えたボクたちは、酔った仲間を抱えて家路に付くお客さんたちを見送りながら屋台を片付けていました。すると見覚えがある狼頭のおじさんが、何やら慌てた様子でボク達に声をかけてきたのです。
獣人にも毛むくじゃらで二足歩行するタイプと、耳やしっぽを生やしただけでほかは人間と殆ど変わらないルル達みたいなタイプの二種類がいるみたいです。
声をかけてきたおじさんは確かクリスの家の隣に住んでる人でしたか。彼女は両親がおらず一人暮らしで、ご近所で助けあって暮らしているそうです。
「あれ、そういえば今日は見てないのです……?」
思い返してみると、夕方前に屋台を出してから見かけていません。いつもなら日が落ちる直前くらいに顔を出して、ルルと喋りながらお肉を食べてるんですけど。
「私も今日は見てませんよ、何かあったの?」
ボクたちの中では一番友人付き合いをしているルルが心配そうにしています。そしてルル以上に心配しているのが葛西さんですね、手を止めて聞き耳を立てているみたいです。
「昼ごろに野草採りに出かけたまま戻ってこないんだよ、てっきりここにいるもんだと思ってたんだが……」
「え……」
この集落やボクたちの家の周辺は、ご主人さまとリアラさんが協力してかなり強力な目眩ましと魔物除けの結界が張られています。でも、それで完全に安全と言えるわけではありません。
確かに危険な魔物は寄り付かないのですが、弱い魔物なんかはすり抜けてしまうこともあります。何より森のなかの危険は魔物や動物だけとは限りません。かといって森のなかで育ったクリスがそれを解らない訳がないとは思うんですが……。
「俺、探してきます!!」
「あ、葛西さん待って!」
葛西さんが制止も聞かず駆け出してしまいました。二重遭難になったらどうするんですか……。
「ソラたちはリアラさんに伝えて長の家で待機、グレイルさんは動けそうな男たちを集めてくれ」
「わ、わかった」
慌てたように村に戻っていったグレイルさんの後を追って、ボクたちもリアラさんの家へと向かいました。
◇
何でか、ちゃっかりリーダーに収まったご主人さまを筆頭にした捜索隊を見送った後、リアラさんの家に集まった女性陣で炊き出しを行うことになりました。作るのは野菜とお肉をたっぷりと使った豚汁モドキ。
空調設備の効いた屋内で過ごすことが多いとあまり実感がわきませんが、季節でいうところ秋に近い気候のこの森の夜は少し冷えます。温かかい物が有難いでしょう。
「まったく、あの馬鹿娘め…‥」
改築されて大分住みやすくなった村長宅の会議室の中、リアラさんが貧乏揺すりをしていました。かなり心配しているみたいです、思えば二人は何だか仲が良かったようですから仕方ないのでしょう。
「早く戻ってくるといいんですけどね……」
クリスが面倒を見ているという、犬耳と猫耳の10歳くらいの女の子たちと野菜の皮を剥きながら、窓の外に広がる暗闇を見つめてただ静かに祈ります。
「クリスおねえちゃん……」
「だいじょうぶかな」
それでも僅かな大人たちの不安は伝播しているのか、子供たちが少し不安そうにうつむきました。この小さな村ではひとりひとりが家族のようなもので、みんな手を取りあって暮らしてきたといいます。
小さな弟妹分に慕われているのに行方不明になって心配させるなんて、罪作りな猫さんですね。
「……クリスも多分お腹すかせてますから、頑張って美味しいスープを作っておいてあげましょう、きっと喜びますよ」
背中を撫でてそう励ますと、猫耳の子がうつむかせていた顔を上げてボクをみます。今は落ち込んでいるより手を動かしている方が絶対良いでしょうからね、頑張りましょう。
「ソラ、新入りのくせになまいき」
「としうえには、礼儀をちゃんとしないと、おねえちゃんを呼び捨てにするの、だめだよ?」
……かわいくねぇガキどもなのですよ。
「ボクは16です! クリスより年上なのですよ!」
「「えー」」
「「えぇ!?」」
ちょっと待てやそこの猫耳と狸耳のお姉さんズ、何ぎょっとしてるんですか。エルフ系の種族の見た目と実年齢がイコールでない事は、そこの残念なハイエルフで立証されているでしょうが!
「誰が残念なハイエルフじゃ!」
あれ、口に出てましたか。まぁいいのです。
「ともかくボクはクリスより年上です、というかもしかしてこの配置は意図的ですか? このチビジャリどもと同い年だと思って配置しましたか!?」
「いや、えっと……」
配置決め担当者の狐耳のお姉さんが、明らかに動揺して目を逸らしました。どうやら図星だったみたいですね……貧乳の癖にアジな真似をしてくれるじゃないですか。
「チビじゃないもん! ソラよりおっぱいあるし!」
「うんうん!」
ちびっこはおとなしくしてるのです、大人の話に首を突っ込むんじゃありません! 咎めようと胸を張るちび二匹に目を向けると、確かに思ったより胸部が隆起していました。恐る恐る自分と見比べてみます。
「ば……馬鹿な……」
ま、負けた……ですって。その小さな身体には、明らかにリアラさんは言うまでもなく狐耳さんやボクすら超える装甲が搭載されていたのです。なんという格差社会、これが資本主義の抱える闇なのでしょうか。
「せんぱい、どんぐりの背比べしてないでどんどん皮剥いて下さい」
「うるさいのですこの駄猫!」
強者側だからって調子に乗るんじゃありません! 言い合うボクたちの姿を見て室内にどっと笑いが漏れます。悔しいけど……少しは皆の気が散ってよかったとおもいましょう。
でもちびどもは許しません。
◇
それから体感で数時間、月が夜空のてっぺんに登るころ。ご主人さまたちが帰還しました。
ひとりも欠けずに戻ってきた面々の後を追うように、クリスをお姫様抱っこで運んできた泥だらけの葛西さんもいます。足を滑らせて崖から落ちてしまい動けなくなっていたみたいです。
犠牲者もなく事件が終わり、一件落着で胸をなでおろした後。皆で軽く食事を済ませて、今の時間から戻るのも手間だと魔法の手紙を家にいるユリアとフェレに送り、ボクたちはこのまま村長宅に泊まることになりました。
今回は協力して村人を探したことから、ご主人さまの株も上がりました。おかげで村の仲間として扱われるようになったみたいです。
暫くして怪我から回復したクリスですが、葛西さんリハビリと称して一緒に散歩に行く姿を見かけるようにもなります。
びっくりする事も多かったですが、どうやら良い方向に転がってくれたようです。
…………やれやれ。
◇◆ADVENTURE RESULT◆◇
【EXP】
NO BATTLE
◆【ソラ Lv.81】
◆【ルル Lv.33】
◆【ユリア Lv.31】
◇―
================
ソラLv.82[825]
ルルLv.33[331]
ユリアLv.31[312]
【RECORD】
[MAX COMBO]>>34
[MAX BATTLE]>>34
【PARTY-1(Main)】
[シュウヤ][Lv85]HP1520/1520 MP2760/2760[正常]
[ソラ][Lv82]HP60/60 MP733/733[疲労]
[ルル][Lv33]HP735/735 MP36/36[正常]
[ユリア][Lv31]HP1540/1540 MP88/88[正常]
【PARTY-2(Sub)】
[フェレ][Lv25]HP252/252 MP830/830[正常]
【PARTY-3(Sub)】
[マコト][Lv48]HP1750/1750 MP132/132[正常]
================
「一件落着なのです」
「良かったですねぇ、カサイさん」
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