第21話 ネタは灯台下暗し

「しかし新作のネタと言ってもなぁ……いいのが思いつかないなぁ……」


 ネタ探しのために散歩に出てみたものの、そうそう上手くネタや話などが降ってくるはずもなく佳祐はあてもなくあっちこっちをブラブラしていた。

 そのうち、公園で一人物思いにふけってみたり、ゲームセンターの中を何をするわけでもなくブラブラと見て回ったり、行きつけの本屋で新しい本が出ていないか探してみたりと一通りの場所を回ってはみたがいいアイディアが出ることはなかった。

 すっかり夕方になった頃、何の成果もなくマンションへと戻る。


「うーん、やっぱりネタにするなら身近のものがいいかなぁ……。と言ってもオレの周りでネタにできるような身近なものなんてないしなぁ……」


 それこそ不可思議な超常現象が自分の周りで起きれば、それをネタに出来るのにと笑い飛ばす佳祐。

 だが、すぐさま何かに気づいたようにハッとする。


「って、今まさにオレのすぐそばにその超常現象があるじゃないか!!」


 マンションを前に叫ぶ佳祐。

 それもそのはず。今、彼と一緒に同居しているのはその不可思議な存在あやかしに他ならない。

 すっかり慣れてしまったために彼女を普通の人間のように思っていたが、あれはれっきとしたあやかし。

 しかも、それだけではなく彼女の話が本当ならこのマンションには様々なあやかしが住んでいるという。

 ならば、それをネタにしない手はない。

 一日外をブラブラとしていた佳祐であったが、彼のネタになるような材料はむしろ彼が住んでいるこの場所、マンションにこそあった。


「灯台下暗しとはよく言ったものだ……」


 このマンションに住んでいる刑部姫以外のあやかしの話を聞けば、そこから何らかのアイディアや閃きが生まれる可能性は大いにある。

 しかも、あやかしという人間とは異なる歴史、感性を持った生物。

 彼らの話はそれこそ創作そのものとも言える。

 刑部姫だけではなく、彼女からこのマンションに住んでいる他のあやかしの話を聞ければ……。

 そう思い慌ててマンションの中へと入る佳祐。

 だが、その瞬間、マンションの入口に立っていた女性と誤ってぶつかってしまう。


「うわっ!」


「きゃっ……!」


 僅かな叫び声と共に目の前で倒れる女性。

 佳祐はすぐさま慌てたように倒れた女性に対し、手を差し伸べる。


「す、すみません! 慌ててたものでつい……! だ、大丈夫ですか!?」


「あっ……は、はい……だ、大丈夫です……」


 見ると、その女性は随分奇妙な格好をしていることに佳祐は気づく。

 夏だというのに長袖、長ズボンで肌を覆い、更には首にマフラーまでしている。見た目だけなら完全に冬服である。

 まだ夏もこれからという季節にその格好は暑いのでは? と思う佳祐であったが、女性と手が触れた瞬間、異様に女性の肌が冷えていたこと。更に女性の周りの温度が気のせいか涼しいくらいに冷えていたのに気づく。


「あ、あの……変なことをお聞きしますが、その格好で暑くありませんか?」


「あ、いえ、だ、大丈夫です。皆さんよくそう言われてますが……私その、寒がりなので、夏でもこういう格好で平気なんです」


「そう……なんですか?」


 佳祐からの質問になぜだか気まずそうに返答する女性。

 その時ふと、女性がこのマンションの中から現れたのに気づき、佳祐は目の前の女性に少し質問をしてみることにした。


「えっと……つかぬことをお聞きするのですが、もしかしてこのマンションに住んでる方ですか?」


「え? え、ええ、そうですが……」


「それなら聞きたことがあるのですが、このマンションに住んで変わったことってありませんでした?」


「か、変わったこと……ですか?」


「はい。その……住んだその日、変なものを見たとか、現れたとか……」


 我ながら奇妙なことを聞くと思う佳祐であったが、それを聞いた瞬間女性の態度が明らかにおかしくなった。


「え、えっと、そ、その、それって一体どういうことでしょうか……?」


 なぜだか慌てるようにパニックになる女性。

 これはひょっとしてこの女性も同室にあやかしがいるのでは?

 そう思った佳祐は思い切って女性に聞いてみる。


「あの、ハッキリと訪ねます。変だと思われたらそのときは仕方ありません。ですが、もしそうなら言ってください。実はオレの部屋にはあやかしがいるんです。なので、あなたの部屋にもオレの部屋と同じようにあやかしがいるんじゃないんですか?」


「――――」


 そうハッキリと告げた佳祐に対し、女性は息を呑み固まる。

 が、しばしの後、意を決したように佳祐の問いに女性は答える。


「……いいえ、それは違います」


「え、違うってそれはどういう――」


「そのあやかしというのは――私自身がそのあやかしなんです」


「え?」


 女性の思わぬ告白に佳祐は一瞬、凍りつく。


「私は俗に言うあやかしの一人……雪女、なのです」

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