第2話 売れない漫画家とそれに憧れるあやかし

 彼の名は田村(たむら)佳祐(けいすけ)。

 どこにでもいる売れない漫画家だ。

 いや、どこにでもというのは語弊がある。とはいえ、漫画業界の中では必ず一定数いる人物。それが彼である。


 彼が漫画家を目指したきっかけは単純なものであり、漫画が好きだから。

 そのために上京し、東京で編集部に持ち込みをして数年。ようやくデビューを果たした。

 が、そこからが本当の苦難の連続であった。


 彼が連載した漫画は人気を取れず、コミックスの売り上げも不振。

 これまで雑誌に載った漫画はわずか数回だが、それら全て打ち切り。

 ついこの間もようやく手応えを感じた『巫女っ娘探偵カグヤちゃん』も三巻で打ち切り。

 ちなみにその三巻が彼の漫画家人生で最も長く続いた漫画でもあった。


 漫画を描けない間、漫画家に収入はない。

 当然家賃が払えなくなった彼はアパートを追い出され住む場所にも困った。

 そんな折、とある張り紙にて格安のマンションを見つける。


『新築マンション! 1LDK! なんと家賃は一ヶ月たったの一万円!』


 驚きの安さである。

 新築でしかも1LD。それでいて一ヶ月の家賃がたったの一万円。

 住む場所もなくあてもなく彷徨っていた彼には最高の場所。

 田村佳祐は迷うことなく即日契約し、そのマンションへと移り住んだ。

 が、この時の彼は気づいていなかった。そのマンションが地元でも有名なかつて一族郎党が殺されたとある城に建てられた心霊スポットであったことを。

 そして、そこには妖怪が住み着いているという噂を知らなかった。


 仮にその時の彼がそんな噂を聞いたとしても信じることなく、そのままマンションに住んでいただろう。

 だが、その日の夜、彼は自分の浅はかさを恨むこととなる。

 突然、部屋に巨大な狐のあやかしが出たこと。

 そして、そのあやかしが彼に――漫画の描き方を教えてくれと頼み込むことになるとは予想もつかなかったであろう。


「ほほう、なるほど! これが原稿というものか。あっ、このページ、私がさっき見た漫画のやつだ! すごーい! まんまではないかー! おおおおー! ちゃんと紙に墨が塗ってある! お主、本当にあの漫画を描いておったのじゃな!?」


「え、ええ、まあ」


 キラキラとした目でそのあやかしは佳祐が差し出した原稿を手に取る。

 しばらくは佳祐の原稿を物珍しげに見るあやかしであったが、次の瞬間、そのあやかしはとんでもないことを口にする。


「なあ! お主、私にもこの漫画なるものの描き方を教えてもらえないか!?」


「……へ?」


 それは一体どういう事かと問いかけるよりも早くあやかしは宣言する。


「私もお主と同じこの『漫画』を書いてみたいのじゃ!!」


「え、ええええええええええええええ!!?」


 それは後の彼の漫画家人生を変えるタッグの結成になることをこの時の彼はまだ知る由もなかった。

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