第56話 とうとう電波が通じなくなった件について
「ナイスだ、ヒーロ!」
「キュキュキュ!」
互いにハイタッチをして健闘を称える。
「にしてもやっぱ《鑑定》は最高だな。相手の状態が分かるのが良い」
どれだけ体力が残っているのか、今の攻撃にどれだけのダメージを負ったのかなど、戦闘において重要な情報が丸分かりなのが良い。
ランクを上げれば、さらに情報を得られるようなので、とりあえずこの勢いのまま10ポイントを消費して《鑑定Ⅱ》へと上げておいた。
これでさらなる情報を得られることだろう。
……ちょっとやり過ぎた感も否めねえけど。
残りのスキルポイントが14となったことを見ると、何だかもったいないことをしたような気もしないでもないのだ。
まあこれもまた先行投資だと思えば悪くないか。
「よし、じゃあ必要なものを探してみるかヒーロ」
さすがに食べられるものは少ないだろうが、まだかろうじて置かれている品もある。
ほとんどが調味料だったり腐ったナマモノだったりするが、それ以外でも幾つかゲットすることができた。
「ちょっとだけでも缶詰とカップ商品がゲットできたのは大きいよな」
棚の下の方に落ちていた缶詰や、取り損なったのか湯を注いで飲食するようなものを発見することができた。
それに醤油やケチャップ、マヨネーズといったものまで残っていたのはありがたい。
飲み物も、ペットボトル飲料水や酒類などが少々残っていた。
酒は飲まないが、もしかしたらいつか利用できるかもしれないので、ヒーロに収納しておいてもらう。
「ヒーロにとっちゃここは御馳走の場だよなぁ」
見たら陳列棚に散在している腐った商品も、あの子は美味そうに捕食しているのだ。
究極の雑食生物である。
地球が存在する限り飢えることのない身体が羨ましいが、さすがに腐ったものとかは口にしたくないと思う。
俺は手に入れた食料から、さっそく腹を満たすことにする。
湯はここにはないので、賞味期限が早い菓子類や缶詰から食べることにした。
「はぁ……にしても静かだなぁ」
ヒーロの咀嚼している音を省けば、虫の音すら聞こえないほどの静寂さだ。
「……そうだ。あの巨人、《鑑定》のスキルで見たら何か分かるかもな」
けどそれはまた今度だ。それにスキルを使うには、俺自身がアイツと遭遇しなければならないリスクもある。
もちろん《ステルス》を使って近づくわけだが、ヒーロの目を通してみたあの存在感は、十分に俺を恐怖させるのは十分だった。
絶対に近づきたくないと思わせるくらいには。
あそこのダンジョンは今は諦めた方が良いかもな。
挑むとしてももっとレベルを上げてからか、対抗できるスキルを会得してからか、あるいは他に相応の手段が見つかってからか。
俺はそんなふうに今日のことを振り返っていると、ある集団のことを思い出す。
それは『紅天下』と『白世界』のことだ。
群馬を牛耳る二つの『コミュニティ』。
しかしその一つは恐らく壊滅してしまった。他ならぬあの謎の黒スーツの女によって。
「一体何だったんだろうな、あれ」
分かっていることは、普通の連中じゃないってこと。そして極めて危険な力を持っていることだ。
「あの方って黒スーツは言ってたけど……」
あんな危険な連中を従える奴なんて碌なもんじゃないことは確かだ。
それこそあの一ノ鍵のガキみたいな危険思想な持ち主なのではなかろうか。
まあ考えても仕方ないといえば仕方ないのだが、とりあえず黒スーツに関しての情報はないかSNSを訪ねてみた。
「…………あれ?」
どういうわけかネットが通じないのである。
地下だからか?
俺は食事を切り上げて、ヒーロと一緒に一階フロアへと戻った。
外はもうすっかり月が顔を覗かせている時間帯だが、地下とは違って電波状況は良いはずだ。
しかし……。
「……ずっと読み込んだままか」
データを受信中のままいっこうに更新されない。
検索ワードを打ち込んでも反応してくれないのだ。
「こいつはいよいよネットもできねえ環境になっちまったってことか? マジかぁ……」
現代っ子の俺としちゃ、かなり困った状況だ。
いずれこうなるだろうことは予想はしていたものの、いざネットが使えなくなると一気に情報収集能力が削られてしまう。
当然電話や『ワールド』も使えなくなっているようで、ヒオナさんとも連絡できない。
「シオカみたいに念話できりゃ良いんだけど、さすがに群馬じゃなぁ」
シオカでもさすがに距離があり過ぎだろう。もしかしたらランクを上げれば可能になるかもしれないが、こちらから心の中で呼びかけても無理みたいなので諦めた。
「…………ま、しょうがねえか」
ダメなものはダメ。そう割り切らないと、この世界では生き残っていけないだろう。
俺は今日のところは一先ず休むことにして、デパートの上階へと入って行く。
家具が置かれているフロアへ辿り着くと、やはりあったソファやベッド。それに他にもいろいろ便利なグッズもある。
高級そうなベッドの上に飛び乗った俺は大きく伸びをした。
「とりあえず明日のことは明日考えよう。ヒーロ、おやすみ~」
「キュ~」
何かあればきっとヒーロが気づくし安心だ。
俺はフワフワな感触に身を任せて、静かに瞼を閉じたのであった。
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