第37話 ドラゴンがラスボスだった件について
何つー攻撃力。ヒオナさんですら全力を出さないとヤバイ相手だって言ってたのに一撃かよ……!
あの攻撃力があれば俺はきっと最強になれるんだろうなぁって羨ましく思う。
そして残りはトロル一体。
続けて前衛の二人が、動きが緩慢なトロルに攻撃をするが……。
……情報通り、再生力が高いな。
少々の傷を受けても、トロルは持ち前の回復力で即座に再生してしまうのだ。
……一ノ鍵のガキ、何で〝死ね〟って命令しないんだ?
あの三人の男どもには互いに首を絞めるように言ったのに、何故同じような命令を出さないのか気になった。
「――〝跪け〟」
瞬間、トロルは膝を屈し確かに跪く。その隙に、葉牧さんたちが連撃を与えていく。
しかしそれも数秒くらいで解除される。
トロルがこん棒を振り回し、彼女たちは距離を取らざるを得なくなる。
「……もしかしたらあの嬢ちゃんのスキル、直接死ぬような命令は出せへんのとちゃいまっか?」
「は? でも首を絞めろって命令は出せてたぞ?」
「けどそれって死ねってことじゃおまへん。何せ……相手を攻撃しろって意味やさかい」
「!? ……確かに」
言葉だけの意味で捉えれば、ただ相手の首を絞めろと言っただけ。つまり一種の攻撃だ。
あのガキの殺意だったら、普通に自殺しろとでもいえば良かったはず。それなのに命令したのは回りくどい方法だった。
「それに強制力の強い命令にも制限やリスクもあるかもしれないな」
マジで何でも言うことを聞かせられる力なら、仲間にすることだってできるはずなのだから。
「――〝こん棒を投げ捨てろ〟」
今度は武器を手放すように命令するガキ。
トロルもその瞬間が言うことに従って、壁に向かってこん棒を放り投げた。
すかさず葉牧さんが、雷撃を食らわせ、続けて北常が《念刺》で腹部を突き刺す。
腹部の一部が弾け飛ぶが、やはりすぐに再生していく。雷撃で焦げた肌も元通りだ。
「み、皆さん頑張ってくださーい! ――《オーロライト》!」
それまで誰よりも後衛にいた四奈川からの支援が届く。
全員の身体がオーロラの輝きに包まれる。
「これで攻撃力と防御力が上がりましたです!」
お嬢様からの支えを受けて、より張り切るのは葉牧さんだ。
雷の刃を形作り、大きく跳躍してトロルの頭部に突き刺した。
さすがに殺せたか……と思いきや、トロルは葉牧さんを右手に掴むと、北常に向けて投げつけたのである。
北常もいきなりのことで激突し、二人同時に床に転がってしまう。
「乙女さんっ!?」
不安そうに彼女の名を呼ぶ四奈川。だがそれだけで倒されるメイドではないのか、葉牧さんも負けじと立ち上がって構える。
北常もまた巻き添えを受けたことにイラっとした目つきで葉牧さんを睨むが、すぐにトロルへと意識を戻す。
頭部への攻撃でもダメって、どうやったらアレ倒せるわけ?
そんなことを思ったその時だった。
トロルの頭部が、まるで切り取られたかのように突如消失したのである。
全員がギョッとなるが、俺の隠れている方角からは誰がやったかは明白だった。
彼女たちの背後に立つ二人の人物。
気配に気づいたのか、彼女たちもそこに現れた者たちに視線を向ける。
そこには大柄な男である丸城と、彼によって抱えられている飛柱がいた。
「っ……飛柱組? ……今のはあなたたちがやったのかしら?」
ガキが飛柱に聞くが、彼は答える気などなく「ふわぁ~」と眠そうな欠伸をしている。
「若、どうやらあの扉の奥が怪しいかと」
「ん……じゃああのデカブツを処理するから、あとは頼むわ」
丸城は「承知しました」と言うと、その場に飛柱を下ろし、ゆっくりとした足取りでトロルへと近づいていく。
そのトロルだが、切断された首の部分がウネウネと蠢き、そこから新しい頭部が復活する。もうホラーそのもののような光景だった。
そしてトロルが近づいてきた丸城を殴ろうとするが、その右腕が半ばから消失する。
続けて左足、右足、左腕が失われ、ダルマ状態になったトロルは仰向けに倒れてしまった。だがまた再生し始める。
「これでも死なない……めんどーせえなぁ。じゃあこれで終われ――《
何だか物騒な技名が聞こえたが……。
すると、残ったトロルの頭部から胴体にかけて、まるで千切りしたかのように線が走った。
大量の血液とともに、トロルの身体は数え切れないほど細かく分解されていく。
「……す、凄い……!」
そう呟いたのは葉牧さんだ。
かなり惨たらしい殺し方に、四奈川は口元を覆って目を逸らしている。
北常は悔しそうに飛柱を睨みつけ、一ノ鍵はというと彼を見ながら「素晴らしいわ」と口角を上げていた。
そしてようやく死んだのか、トロルは粒子となって消え、それが引き金となったようで、扉からゴゴゴゴゴと音が聞こえてくる。
ヤベエッ、つい見惚れてた!? すぐに向かわねえと!
俺は《ステルス》を使って扉へと走る。
恐らく開かれるであろうその扉へと、だ。
何とか丸城よりも早く扉の奥にあるであろうコアに近づき破壊する必要がある。
しかし次の瞬間、その場にいる誰もが予想だにしないことが起こった。
急に勢いよく扉が開いたかと思うと、その中から凄まじい暴風が吹き荒れ、扉の横側にいた俺以外が全員吹き飛ばされてしまったのである。
あ、ちゃっかりエロ猫も無事だけどな。
そんなことよりも、一体扉の奥に何があってこんな状況になったのか気になりそちらに目を向ける。
するとそこからトロルよりも大きな体躯をした生物が姿を見せた。
俺は思わず声を上げそうになって、慌てて手で口を押さえる。
マ、マジかよ……っ!?
てっきりトロルたちを倒したら、あとは早い者勝ちでコアまで競争だと思っていた。
しかしまだ試練は続いていたのである。
扉の奥には、真にコアを守護する存在が立ち塞がっていたのだ。
そしてその生物の名は――――――――ドラゴン。
同じ竜種だとしても、ワイバーンとは比較にならないほどの存在感だ。
深緑色の鱗が全身を覆い、丸太すら棒切れのように見えるほど極太の尾を揺らしている。
両手足の先には鈍く光る鋭い爪が生え揃い、睨みつけるだけで敵を失神させられるくらいに獰猛な瞳が赤く輝いていた。
「グオォォォォォォォォォォッ!」
突然の咆哮。反射的に耳を押さえてしまう。同時に口から台風のようなブレスが前方へと飛ばされる。謎の暴風は、これが原因だったのだろう。
つかちょっと待てよ。ここに来てドラゴンとか、まだ早くねえか?
普通RPGでいえば、もっとあとの方に出てくるボス級モンスターだ。
いや、もしかしたら見た目だけで本当は弱かったり……。
そう思っていると、真っ先にドラゴンに攻撃を加えたのは飛柱だった。
先に見せたよく分からない攻撃を放つ。
「――《次元切断》」
それはトロルを瞬殺したあの千切りの技だ。
全身に細かい切り傷が走り、そのままドラゴンもまた見事に寸断するのかと思いきや、
「……む? 固いな……このトカゲ」
ドラゴンはさしてダメージを負った様子を見せず、攻撃を加えてきた飛柱を睨みつけると、その場で大きく口を開いた。
喉の奥から熱風が吹き荒れたと思ったら、そこから炎が見え隠れし始める。
「マズイッ、若っ!」
丸城がドラゴンのすることを察したのか、すぐさま駆け出し飛柱の前に立つ。
その直後、ドラゴンが鉄をも溶かしそうな高熱の炎の塊を口から放出した。
狙いはもちろん飛柱だが、その前には丸城がいる。
「若はやらせん! ――《
突如として丸城の身体がみるみる大きくなり、同時に全身から赤黒い体毛が伸び出てきた。
……う、嘘ぉん……!?
三倍くらいに巨大化した丸城の姿は、まさしく〝熊〟そのものだったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます