第21話 また天然天使がやらかしてくれた件について
この十日間で、俺もまた幾つかのダンジョンをクリアしていた。
とはいってもモンスターとはほぼ戦闘しておらず、ダンジョンに入ってすぐさまコアを探し撃破という俺らしい方法ではあるが。
ただそのお蔭もあって、ジョブランクも上がったし《ステルス》も〝Ⅳ〟とアップさせることができた。
《ステルスⅣ》は気力を9も消費するものの、三分間というかなりの長時間効果を発揮できるので、これでまた一歩、俺の生存率を上げることが可能になったのである。
同時に余裕を持った潜入調査だってOKだ。これを駆使し女風呂を覗いて……いや、そんなことしてないよ?
俺がしたのは人の集まりの中に入って、会合の時と同じように情報収集をしただけ。
どうやらガキの他にも、『持ち得る者』だけで集まって話したり、一緒にダンジョンを攻略したりする者が増えてきたのだ。
俺はその話を盗み聞きし、先回りしてダンジョンを攻略したり、相手の情報を得たりなどをして過ごしてきた。
まあダンジョン攻略を奪われた者たちにとっては、俺の正体がバレるとフルボッコにされかねないけど。
だからか『盗聴のスペシャリスト』という不名誉な称号を得てしまったが。
できればそこはスパイとか潜入調査員とかにならないかなぁ。
とにもかくにも、俺は自分の能力を十全に行使しレベルを上げてきたというわけだ。
ただあまりパラメーターの上昇率は良くない。
上昇率を上げるスキルもあるのだが、俺としてはポイントを貯めて、もっと効果的なスキルを得たいのだ。
ただジョブランクが上がったことで、取得できて魅力的なスキルが結構あるのである。
望みをいえば《テレポート》なのだが、さすがは100ポイントを貯めるには遠過ぎるし、ジョブランクも足りない。
やはりもっとダンジョンを攻略する必要がある。
「けどまさかコアポイントの分配ができるなんてなぁ」
そう、実はこれも四奈川が会合で得た特ダネでもあった。
ダンジョンコアを破壊すれば、ダンジョンを攻略したことになり、すべてのモンスターの討伐経験値とともに、コアを撃破したポイントがもらえる。
重要なのはこのコアポイントで、これが加算されなければジョブランクの経験値が貯まらないのだ。
俺はコアを破壊した者にのみ、このポイントを獲得することができると思っていたが、別に直接撃破しなくても手に入れられる方法があるという。
それが――《クランシステム》。
このシステムを活用すると、他人と協同することができ、ダンジョン内でのみ取得経験値を共有することが可能なのだ。
つまり一人がコアを破壊すれば、ポイントも討伐されたモンスターの経験値も協同した者たちに分配されるとのこと。
まさしくRPGみたいな設定である。
ちなみにどうやってこのシステムを使用するのかというと、《ステータス》に刻まれた自分の名前を押し続け、そのままスライドをさせればいいのだ。
すると《クラン》という欄が開き、そこに対象の名前を書くことで、相手に《クラン申請》が届く。
そして対象が受諾すると、晴れて仲間として登録することができる。
そうすることで《クラン》の欄に仲間となった者の名前が改めて刻み込まれるのだ。
脱退するのは簡単で、《クラン》の名前――《クランネーム》を押すと、脱退の手続きができるようになっている。
メリットは先にも言った獲得経験値の共有の他に、《クランメンバー》の現在位置や、ある程度の情報に安否などを確認することも可能なのだ。
ただデメリットとしては、一人で攻略するよりも確実に経験値が減るということである。何せ分配されるのだから当然ではあるが。
それでも少しでもコアポイントを手にするには有効な手段でもある。
「ま、俺には縁のないシステムだろうけども」
というか逆に俺にはデメリットしかない。自分の能力や居場所はバレるし、経験値だって減る。最悪だ。
これであれだ。証明されたってわけだ。
「うん、やっぱぼっちは最強ってことがな。ふふん」
……何だか少し物寂しい気持ちになったような気がしないでもないが、きっと気のせいだろう。そう信じよう。信じる者は救われるって言うしな。
「さて、今日はどうすっかなぁ」
ここ連日、ずっと攻略に走っていたこともあり、今日くらいはゆっくり身体を休めようかなと思っていた。
しかしそう思っていた矢先のことだ。
――ピンポーン。
突如インターホンが鳴った。
「何だ? こんな情勢で宅配とかやってねえと思うし」
実際世界が変貌してから宅配業者が来た試しはない。新聞だってここ十日は届いていないのだ。
……何か嫌な予感がするんですけど。
玄関に近づくにつれて、何故か言い知れぬ不安感が押し寄せてくる。
俺は恐る恐る扉を少し開けて外を確かめた。
「あっ、こんにちわです! 有野さん!」
やっぱあなたですかぁ……四奈川さん……。
もしかしたらそうじゃないかなって思ってたけど、本当に当たってほしくない勘は百発百中なんだよな。
「お、おう四奈川か。……何? 宗教の勧誘か?」
「そんなわけがないでしょう。考えてものを言ってもらいたいものですね。ああ、申し訳ありません。畜生のあなたではそもそも考える頭というものは存在していませんでしたね。このゾンビ虫さん」
「……あんたも相変わらずだな、葉牧さん」
その毒舌ぶりは健在だね。そろそろ心が折れちゃうよ俺。つーかゾンビって死んじゃってるし。あれ? 前は豚だったのに何があって降格したのかな?
「も、もう乙女さん失礼ですよ! あの有野さん、お話がしたくて来ちゃいました! ……ダメ、でした?」
これが恋人の言葉ならすぐに部屋に連れ込んでキャッキャウフフをするんだが、いまだに嫌な予感が収まらないのは何でだ?
ただここで追い返すことも俺のか細い権力じゃできない。そんなことをして四奈川を悲しませたら、きっと毒舌メイドの権力もとい圧倒的物理パワーによって発揮される拳力によってこの世とおさらばしてしまう。
「……はぁ。ほら、入れ……よ?」
諦めて扉を大きく開いたのだが、俺は思わず固まってしまった。
何せ二人の背後に、あと一人佇んでいたのだから。
「ハァ~イ」
そんな陽気な挨拶をしながら手を振ってくる一人の女性。
俺はその人物に見覚えがあった。そしてできれば関わりたくない人物でもある。
な、な、な、何で五堂ヒオナがここにいるんだよっ!?
そう、そこに立っていたのは会合の時にいた虎女こと五堂ヒオナだった。
反射的に叫びそうになったが、何とかポーカーフェイスを保ち反応を返す。
「え、えっと……どちらさん?」
あ、若干顔が引き攣ってるような気もしないでもないが、まあここは人見知りだったからっていう理由で誤魔化せるはずだ。
「あ、そうでした! 有野さん、この方が五堂ヒオナさんですよ!」
コイツ……厄介な奴を連れて来やがった……っ!?
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