99:理奈とレティシア
「んんんん~~、あなたたち、まだ寝ているの?!早く起きて!20階層で大きい猫ちゃんが私たちを待っているんだからっっ!」
翌朝、ベルタにそう声をかけられて、私はいつの間にか寝ていたらしいことに気付いた。
(男性に抱きしめられて、う・・・うしろには不埒な王弟殿下もいるのに!寝られるなんて、本当に理奈はおかしいわ!)
それと同時に私の中の貴族令嬢・レティシアがそう怒ってきた。
しかし、怒られても困る。私は前世からそうなのだ。ゲームのために連続で徹夜もするせいか、寝たいと思ったら割とすぐ寝られるのだ。丸一日寝ていることもあったくらいだ。
私の意識は、「寝る体勢になった=寝る準備ができた」と勝手に変換されるから、おそらくマクシムに抱き着いた後、すぐに寝たのだろう。すでにそこら辺の記憶があいまいだ。
・・・とそこまで思考してからはたと気づく。
私の中の貴族令嬢・レティシアの意識が・・・・・
いままでは、貴族令嬢・レティシアが<強い思い>を発した時のみ彼女の感情や声が分かる程度だったけど、いまは私の中ではっきりとその思考が分かる。
例えば今の状況。
ベルタに声を掛けられる前は、マクシムは私を抱きしめたまま寝ていた。・・・が、彼女に声を掛けられた途端に、私を突き放し・・・・すくっと立ち上がった。
これに対して理奈としての私は、マクシムは光輝ではないと分かっているのに、少し傷ついている。でも、貴族令嬢・レティシアとしての私は・・・・・。
(はぁ、良かったですわ。お父様やお兄様以外に抱きしめられるなんて、将来結婚する相手・・・こ、婚約者以外には考えられないもの!)
そう思いながら将来の相手を夢想して、少し照れているのが、伝わってくる。
迷宮に入った時に「感情がぐちゃぐちゃで、どっちも私の気持ちなのに・・・私の気持ちが1つじゃないような変な感じ」と思ったのは・・・・・このせいだったのかもしれない。
(徐々に私の中で貴族令嬢・レティシアの意識が大きくなっている・・・・・・?)
もしかしたら普通は・・・・「いまの主人格である理奈の自我が失われるのでは?」と恐怖にかられるのかもしれない。だけど私は・・・・そうは思わなかった。
(まぁ、どっちでもいい。理奈の人格が失われてレティシアとしての人格が前に出てきても、二人の人格が同居のままでも、また私の意識だけになっても・・・・)
寝転びながらそう思い、肩をすくめる。
だって、私の大切なことは・・・・
第一は「兄・フレデリックを公爵にすること」
第二は「剣と魔法の世界を思う存分に楽しむこと」
・・・なのだから。貴族令嬢・レティシアとしての意識もその大切な順位に変わりはないと頷いている。なら、どちらの意識が主人格でも、混ざり合おうともかまわない。
そうして、理奈としての私は・・・このまま二度寝をすることに決めた。ベルタは早く行きたいと起こしてきたが・・・・まだ10時間も寝ていない気がするからだ。
私はまだまだ眠いのだ。
そう思い、マントにくるまりながら目を閉じたところで・・・・。
「あ?・・・まだ寝んのかよ?」
私の身体に何かが密着した。そうして耳元でささやかかれたその声音に・・・・・・貴族令嬢・レティシアが(キャアアアアアアッッ!!!)と絶叫をあげた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます