80:アルフォンス(アルフレッド)の迷宮探索(1)

オレ、<レイ皇国王弟>アルフォンス・レイこと、<A級冒険者>のアルフレッド・ブラッドレイは、左腕にしっかりとあいつが乗る感触を感じながら、グラナダ迷宮の低層を走り抜ける。


たまに魔獣が迫ってくるが、一刀両断にする。

魔法を使ってもいいが、ここはまだ5階層だ。E級かF級の雑魚魔獣しかいねぇ。


避けることもできるが、依頼を受けている手前、依頼者に魔獣を押し付けるようなかたちはできれば避けたい。とりあえず、血が付かないように配慮しながら、叩き斬ってやった。


迷宮内の魔獣は外の魔獣と違い、なぜか殺されると魔石やたまに宝玉を残し、空気中の魔素へと変化し、そのまま溶けたように消える。

そして、階層ごとにいるボス部屋の魔獣もそうだが、同じ個体が一定期間後に、出現ポップアップする。


後ろに視線を向けると、依頼者である<ベルタ>とかいう女を抱えた男が走っている。

奴は<マクシム>と名乗ったが・・・・・・本当の名前かどうか。


そこまで想像して、オレは思わず口角があがっちまう。


割と全力で走っているにもかかわらず、後ろで走るヤツは、息一つ切れていない。

・・・どころかまだ全力で走っていないことが見て取れる。



(ハッ。面白れぇ)



余裕そうな表情をしながら、時折オレが殺した魔獣の魔石を走りながら拾い上げ、腰に括ったマジックバッグに入れている。


マジックバッグっつーのは、魔道具のカバンだ。迷宮に入る冒険者や迷宮製品を取り扱う商人には、需要があるが、それ以外の者には全く役に立たない代物。


なぜなら、カバンは見た目はただのポシェットのようだが、迷宮の出土品に限って・・・・・・・・・・のみ無限になんでも収納が可能なカバンだからだ。それ以外のモノはコイン1つさえ、入れられねぇ。


だが、重さは変化しない。だから、たまにたくさん入るからと詰め込みすぎて、カバンを持ち上げられなくなる新人冒険者がいたりするのが・・・・ご愛嬌だ。


ヤツは、さっきからかなりの量の魔石や宝玉をそのマジックバッグに入れているが、機敏な動きに変化はねぇ。



(レアな転移魔法が使えて・・・・ここまでの力があって・・・?

オレより素早く動けるヤツなんざ・・・・・本当に限られてるんだぜぇ?・・・・お前、絶対・・・・さっき会った勇者だろう?)



オレの予想だと、十中八九、このマクシムとか名乗った男は、一昨日オレに重傷を負わせた<覆面の男>。

つまり・・・・・・・昨日・・・いや、今日の日照前にオレと模擬戦・・・をした・・・どっかの国の王族に隷属化されている<勇者>だ。


なんのつもりで・・・・オレと<フレド>の迷宮探索を邪魔してんのか知らねぇが・・・・・・・・すっげぇイラつく。


・・・・いや、おそらく<命令>で、フレドのことを害そうとして、一緒に迷宮に潜ることになったんだろうがなぁ・・・・・。


簡単な話だ。ヤツが抱いている<ベルタ>が20階層のボス部屋まで連れて行くのを、ずぶの素人であるF級冒険者・・・・・のフレドに依頼っていうのが、そもそもおかしい。

元々、フレドも<覆面の男>・・・<勇者>に襲撃を受けたっつってたし、やっぱその可能性が高い。


迷宮で死ねば、魔獣と一緒で人間も亡骸は消えちまうからな・・・・公爵家子息を、知らないうちに殺すにはうってつけの場所ってわけか。




(まぁ、フレドが簡単に殺されるわけはないだろうが・・・・・・・)



そう思いつつ、左腕に乗ったフレドをチラっと見上げる。

元々13歳にしては少し背が高いから、オレの腕に乗ったこいつは、オレの目線のやや上に顔がある。


いまのフレドは・・・左肩から胸にかけて覆わられた皮鎧に少しくすんだグリーンのトラウザーズにブラウンのベスト。オレが寝ている間に買ったのだろう、パンパンに詰まったリュックを背負い、左腰にはオレが買ってやった剣とマジックバッグをさげている。


迷宮にテントなんてものを持ってく奴はほぼいねぇ、コートに包まって寝る。だから野営用だろう膝までの長さのダークグリーンのマントをしている。

つまりはオーソドックスな冒険者服を着ているはずなのに・・・・なんだろう。


・・・・・・胸がいてぇ。



(・・・・はっ。・・・・・・・・・この華奢ななりで強いんだからこいつはすっげぇ面白れぇよなぁ・・・・)



そんな風に思いながら、目に焼き付けるように腕の中のフレドをジロジロ眺めていたら、目が合った。

その顔がまるでオレを意識しているかのように・・・・真っ赤な顔なもんだから、思わず目を細めてゆっくりながめちまう。


ああ・・・・・本当、オレの心臓は・・・・うるせぇなぁ・・・・・。


だけど、こいつはそんなオレの思いとは裏腹に・・・・とんでもないことを言った。



「アル・・・・・・・・そろそろ降りたいのですが?」


「・・・・・あ”あ?」



なんだそれは・・・。思わず低い声が出ちまう。


そもそもオレはこいつが後ろのヤツらに命を狙われてそうだから、わざわざ腕で抱えているわけじゃねぇ。

こいつなら、自分で反撃できるだろう。


つまりだ・・・オレが腕にこいつを抱えている理由わけは・・・・。



「お前の依頼が終わって、後ろの奴らがいなくなったら、降ろしてやるよ。・・・・・それまでは、フレドの場所は食事と睡眠、小便以外はオレの腕の中だ・・・・上官命令だから拒否権は・・・ねぇ!」


「後ろ・・・」



そう、さっきまでオレの腕の中で真っ赤な顔をしていたくせに・・・・・オレが後ろ・・といった途端・・・あいつはすっげぇ何とも言えねぇ・・・切なそうな顔をした。


それがさっきから・・・・・気にくわねぇからだよ・・・!

・・・・・・マクシムかベルタか・・・・・どっちか知らねぇが、誰を思って・・・んな顔してんだ・・・!!・・・・・・・すっげぇイラつく。


マクシムとかいうヤツがベルタとかいう女を抱きかかえたときからこの表情をしてんだぞ?


本当、ありえねぇ・・・・!!!だから、ヤツらがいなくなるまでこの体勢なのは・・・・仕方ねぇだろ?



「・・・・・お前はオレの方を向いてればいいっつたろ?」



イラついたオレは・・・・・わざと音を立てて、あいつの首筋に口づけをしてやった。

ビクッと肩をゆらしたあいつの潤んだ目。


そのターコイズブルーの瞳に・・・・いまは、オレしか映っていないことを確認して・・・・・またオレはこの低階層を走り抜けながら、目の前の魔獣を斬り伏せた。

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